作:ジョン・エイジ― 訳:なかにしちかこ 出版:潮出出版
高い壁のこっちは安全で、あっちは危険。
・・・のはずでしたが。
先入観の怖さとおもしろさを描いた絵本です。
あらすじ
本の真ん中に頑丈な壁がある。
騎士がいるのはこっち側。
あっち側にはサイやトラなどの猛獣がいる。
どんなに猛獣が来ようとしても、壁がこっち側を守ってくれる。
そんな大事な壁を、騎士は修復しようとしているところだった。
落ちたレンガを壁の上部へ戻そうと、壁に梯子をかけ登っていく。
けれど、その足元に異変が。
どこからか、水が流れてくるのだ。
騎士が梯子を上るたび、水位はどんどん上がっていく。
けれど、騎士は壁のあっちがどんなに危険か説明するのに夢中で、水にまったく気づいていない。
こっちの水の中にはワニが泳いでいたり、人食いの魚が泳いでいるのに。
壁を直し振り向いた時、やっと騎士は危険が迫っていることに気付いた。
しかし、もう遅い。
水が梯子を飲み込んで、騎士の体は水の中へ。
人食いの魚が騎士めがけて泳いでくる。
と、その時、意外なところから助けの手が差し伸べられたのでした・・・。
『かべのあっちとこっち』の素敵なところ
- あっちとこっちで別々に進む物語
- あっちとこっちが繋がる時
- 想像と違うあっちの世界
あっちとこっちで別々に進む物語
この絵本のおもしろいところは、本の真ん中に壁があり、左と右のページでそれぞれ物語が進んでいくところでしょう。
左側のこっちは安全な人間の世界。
騎士も危険など感じず安全に暮らしています。
反対に、右側のあっちの世界は、とても危険で恐ろしい世界。
サイやトラ、ゴリラなどの生き物が暮らしていて、人食いオニまで住んでいます。
そんな左右の世界は、起こる出来事も大違い。
こっち側では、騎士がのんびりとあっちとこっちの説明をしながら、ゆっくりレンガの壁を修理しています。
対してあっち側では、猛獣たちがなんとか、壁のこっち側に来ようとしたり、人食いオニが棍棒を持って歩き回っていたりと、どう考えても危険な光景が繰り広げられているのです。
子どもたちも、
「あっち危ないね!」
「行ったら食べられちゃいそう・・・」
と、あっちの危険が身に染みている様です。
人食いオニが出た時なんか、「あんなでっかいのもいるの!?」と、さらにあっちの怖さが際立っているようでした。
この、あっちとこっちのそれぞれで、全然違う話の進み方、世界観を持っているが、この絵本のとてもおもしろいところです。
あっちとこっちが繋がる時
けれど、物語が進むにつれ、こっちにも異変が迫ってきます。
少しずつ水が流れ込み、水位が上がっていくのです。
さらには、巨大なワニまで泳ぎ始めます。
でも、騎士は全く気付いていません。
これまで通り、のんきにあっちの危険性を話しています。
気付いているのは、見ている子どもたちだけ。
これには子どもたちも大慌て。
「なんか、水増えてきてない?」
「後ろにワニいるよ!」
「全然、安全じゃないから!!」
と、途中から騎士へのツッコミが止まりません。
気付いた時にはもう手遅れ。
「もう~!遅いよ!」と、呆れている子どもたちなのでした。
この、登場人物はその中の一部しか見えていず、全部を見ているのは子どもたちだけという構図も、この絵本のとてもおもしろいところです。
想像と違うあっちの世界
さて、そんなあっちとこっちが交わる瞬間が訪れます。
あることがきっかけで、壁のあっち側に来てしまうのです。
けれど、壁のあっちは騎士が想像していたのとは全然違っていました。
こっち側から、聞いていた話と、実際に見た世界は大きく違っていたのです。
この結末を見ると、想像や固定観念がどれだけ、こっちとあっちを隔てているかがわかります。
高い壁を越えてみることの大切さも。
そんな普段忘れがちな、実際に見て触れることの大切さを、おもしろおかしく、誰にでもわかるように感じさせてくれるのも、この絵本のとても素敵なところです。
二言まとめ
安全なこっちと、危険なあっちという、壁の左右で違う世界が描かれる。
その世界が繋がった時、予想外の発見が待っている驚きに満ちた絵本です。
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