かべのあっちとこっち(4歳~)

絵本

作:ジョン・エイジ― 訳:なかにしちかこ 出版:潮出出版

高い壁のこっちは安全で、あっちは危険。

・・・のはずでしたが。

先入観の怖さとおもしろさを描いた絵本です。

あらすじ

本の真ん中に頑丈な壁がある。

騎士がいるのはこっち側。

あっち側にはサイやトラなどの猛獣がいる。

どんなに猛獣が来ようとしても、壁がこっち側を守ってくれる。

そんな大事な壁を、騎士は修復しようとしているところだった。

落ちたレンガを壁の上部へ戻そうと、壁に梯子をかけ登っていく。

けれど、その足元に異変が。

どこからか、水が流れてくるのだ。

騎士が梯子を上るたび、水位はどんどん上がっていく。

けれど、騎士は壁のあっちがどんなに危険か説明するのに夢中で、水にまったく気づいていない。

こっちの水の中にはワニが泳いでいたり、人食いの魚が泳いでいるのに。

壁を直し振り向いた時、やっと騎士は危険が迫っていることに気付いた。

しかし、もう遅い。

水が梯子を飲み込んで、騎士の体は水の中へ。

人食いの魚が騎士めがけて泳いでくる。

と、その時、意外なところから助けの手が差し伸べられたのでした・・・。

『かべのあっちとこっち』の素敵なところ

  • あっちとこっちで別々に進む物語
  • あっちとこっちが繋がる時
  • 想像と違うあっちの世界

あっちとこっちで別々に進む物語

この絵本のおもしろいところは、本の真ん中に壁があり、左と右のページでそれぞれ物語が進んでいくところでしょう。

左側のこっちは安全な人間の世界。

騎士も危険など感じず安全に暮らしています。

反対に、右側のあっちの世界は、とても危険で恐ろしい世界。

サイやトラ、ゴリラなどの生き物が暮らしていて、人食いオニまで住んでいます。

そんな左右の世界は、起こる出来事も大違い。

こっち側では、騎士がのんびりとあっちとこっちの説明をしながら、ゆっくりレンガの壁を修理しています。

対してあっち側では、猛獣たちがなんとか、壁のこっち側に来ようとしたり、人食いオニが棍棒を持って歩き回っていたりと、どう考えても危険な光景が繰り広げられているのです。

子どもたちも、

「あっち危ないね!」

「行ったら食べられちゃいそう・・・」

と、あっちの危険が身に染みている様です。

人食いオニが出た時なんか、「あんなでっかいのもいるの!?」と、さらにあっちの怖さが際立っているようでした。

この、あっちとこっちのそれぞれで、全然違う話の進み方、世界観を持っているが、この絵本のとてもおもしろいところです。

あっちとこっちが繋がる時

けれど、物語が進むにつれ、こっちにも異変が迫ってきます。

少しずつ水が流れ込み、水位が上がっていくのです。

さらには、巨大なワニまで泳ぎ始めます。

でも、騎士は全く気付いていません。

これまで通り、のんきにあっちの危険性を話しています。

気付いているのは、見ている子どもたちだけ。

これには子どもたちも大慌て。

「なんか、水増えてきてない?」

「後ろにワニいるよ!」

「全然、安全じゃないから!!」

と、途中から騎士へのツッコミが止まりません。

気付いた時にはもう手遅れ。

「もう~!遅いよ!」と、呆れている子どもたちなのでした。

この、登場人物はその中の一部しか見えていず、全部を見ているのは子どもたちだけという構図も、この絵本のとてもおもしろいところです。

想像と違うあっちの世界

さて、そんなあっちとこっちが交わる瞬間が訪れます。

あることがきっかけで、壁のあっち側に来てしまうのです。

けれど、壁のあっちは騎士が想像していたのとは全然違っていました。

こっち側から、聞いていた話と、実際に見た世界は大きく違っていたのです。

この結末を見ると、想像や固定観念がどれだけ、こっちとあっちを隔てているかがわかります。

高い壁を越えてみることの大切さも。

そんな普段忘れがちな、実際に見て触れることの大切さを、おもしろおかしく、誰にでもわかるように感じさせてくれるのも、この絵本のとても素敵なところです。

二言まとめ

安全なこっちと、危険なあっちという、壁の左右で違う世界が描かれる。

その世界が繋がった時、予想外の発見が待っている驚きに満ちた絵本です。

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