文:かんのゆうこ 絵:こみねゆら 出版:講談社
お母さんが死んでしまった。
そんな時、簡単には前を向いて進めないと思います。
でも、お母さんは前を向いて進んで欲しいと思っているでしょう。
そんなお母さんの思いを受けて一匹の猫がやってきました。
あらすじ
冬の風が吹き始めたころ、ちさとの母さんが亡くなった。
悲しみに暮れて過ごしていたある日、雪のようにまっしろな猫がちさとの家を訪ねてきた。
その猫はふゆねこと言い、ちさとのお母さんに頼まれてやってきたのだと言う。
お母さんは光の国にいて元気だけれど戻ってくることは出来ないから、代わりにやってきたのだと。
ふゆねこは部屋に上がり、ここへ来たわけを話し始めた。
それは、あみかけだった手袋を編み上げるためだった。
確かにお母さんは去年より手が少し大きくなったちさとのために、桃色の手袋を編んでくれていた。
ふゆねこはお母さんの続きを編み上げていった。
最後に両方の手袋を鎖編みのひもでつなぐと、ちさとの首にかけてくれた。
その手袋をはめて頬に当ててみると、お母さんに抱きしめてもらっているような温かな気持ちになった。
その姿を見るとふゆねこは帰っていった。
それからしばらくしてちさとの誕生日がやってきた。
でも、お母さんのいない初めての誕生日に、ちさとの心は沈んでいた。
手袋は完成しても、やっぱりなかなか前を向くことは難しそうな様子。
ちさとは前を向くことが出来るのでしょうか。
『ふゆねこ』の素敵なところ
- お母さんをなくした後の日々を生きるちさとがリアルに描かれている
- ご都合主義ではない、本当に少しずつの心の変化
- ふゆねこを通して間接的に描かれる母の思い
この絵本のすごいところはちさとの姿が本当にリアルに描かれているところです。
お母さんをなくした悲しさや、寂しさが文章や表情などを通して痛いほど伝わってきます。
手袋が完成して終わりではないところもこの絵本のすごいところです。
その出来事は本当に大切ですが、自分だったとしてもそれだけで翌日から立ち直ることはないと思います。
お母さんからちさとへのたくさんの思いが伝わっていく中で、少しずつちさとが立ち直ってくんだろうなというのを感じさせてくれる作りになっています。
それは起承転結のためのご都合主義ではなく、お母さんをなくした子の心に本当に寄り添っているから出来る展開だなと感じます。
それにはお母さんが直接思いを伝えるのではなく、ふゆねこを介して間接的に伝わり、それをお通してちさとがお母さんの思いに触れるというこの絵本の形からも伝わってきます。
あくまでもふゆねこはお手伝いで、ちさと自身がお母さんの死へと向き合っていくことを大事にしているのだろうなと思います。
家族の死をテーマにした絵本の中で、ここまで子どもの心に寄り添いリアルに描かれている絵本はあまりないと思います。
色々な思いが詰まった一冊です。
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