作:なかえよしを 絵:上野紀子 出版:教育画劇
雪に凍える捨て猫がいました。
その猫を拾ってくれたのはなんとサンタさん。
ポケットの中から、プレゼント配りを見ていると・・・。
あらすじ
雪のクリスマスイブのことでした。
雪の中、小さな捨てネコが歩いています。
子ネコは寒さと疲れで、うずくまり今にも眠ってしまいそうでした。
その時、子ネコの体を赤い手袋をした大きな手が持ち上げました。
そして、子ネコを赤い服の、温かいポケットに入れてくれました。
子ネコはその気持ちよさに、ぐっすりと眠ってしまいました。
しばらくして、子ネコは風の音で目を覚ましました。
ポケットから外を見てびっくり。
なんと、空を飛んでいたのです。
子ネコを拾ってくれたのはサンタクロース。
ソリで空を飛び、プレゼントを配っているところだったのです。
サンタさんはソリを一軒の家の上に止めました。
すると、不思議なことに、あっという間にその家の子どもの部屋に立っていたのでした。
その家の子どもは男の子。
欲しいものが書いてある手紙を読むと、その通りのおもちゃを袋から出して、靴下に入れました。
そしてまた、あっという間にソリに戻り、次の家へと向かいます。
こうして、すごい速さでプレゼントを配っていくサンタさん。
プレゼントを配り終わって、ほっと一息ついていた時、最後の家を忘れていたことに気付きました。
すぐにその家へ行き、子ども部屋で寝ている女の子の手紙を読みます。
ですが、サンタさんは困ってしまいました。
手紙に「なにもいらないけれど、友だちがいなくて寂しいので、友だちができると嬉しいです。」と書かれていたのです。
サンタさんが頭を悩ませていたその時、ポケットからネコの鳴き声が・・・。
サンタさんはそれを聞き、いいことを思いついたのでした。
『こねこのクリスマス』の素敵なところ
- 表情豊かで感情移入してしまう子ネコ
- 子ネコの視点から見るプレゼント配り
- 女の子も子ネコも幸せな温かい結末
表情豊かで感情移入してしまう子ネコ
この絵本のとても素敵なところは、表情豊かな子ネコに深く感情移入してしまうところでしょう。
雪の中を一人ぼっちで歩き回る子ネコ。
限界がきてうずくまる背中には、雪が降り積もっていきます。
その表情の寂しそうなこと、辛そうなことといったらありません。
見ているだけで、胸を締め付けられてしまいます。
その辛さを感じるからこそ、サンタさんのポケットのぬくもりに安心しきった子ネコの顔を見て、心から「よかった・・・」と思うのでしょう。
子ネコの笑うでもなく、体の力が抜け、眠りに落ちていく表情はとてもリアルで、子ネコがどれだけ不安で疲れていたかが痛いほどに伝わってくるのです。
その後も、空を飛んでいるのに気づき驚いたり、
サンタさんと目を合わせキョトンとしたり、
最後の場面で微笑んだり、
と表情豊かで、とてもかわいい子ネコ。
この、言葉がなくても、子ネコの気持ちが痛いほどに伝わってくる表情の豊さ。
それゆえに、子どもたちが子ネコに自然と感情移入し、気持ちに寄り添えるところが、この絵本のとても素敵なところです。
子ネコの視点から見るプレゼント配り
また、そんな子ネコが体験する、サンタさんのプレゼント配りも、この絵本の見どころの一つです。
この絵本は、サンタさんの行動がとても具体的に描かれていて、すべて新鮮で驚きに満ちています。
ソリを家に止めたと思ったら、あっという間に部屋に移動しているサンタさん。
次々にプレゼントを配るサンタさんを見て、
「とにかく一晩で、子どもたちみんなのところへ行かなくてはならないのです。その速いことと言ったらありません。こんなに速いのでは、みんながサンタクロースを見たことがないのも当たり前です。」
というように、子どもたちが疑問に思っているところが具体的に描かれていて、とても納得感があるのです。
特に煙突から入らなかったり、子ども部屋が現代風なのは、日本の子どもたちには古典的なサンタさんより納得感があるかもしれません。
同時に、部屋の中ではそれぞれの子どもの手紙をきちんと読み、プレゼントを袋の中から選ぶなど、プレゼントを靴下にいれるまでの過程がしっかりと描かれます。
これも、サンタさんが凄い速さで配る中でも、自分たちの願いを一つ一つ聞いてくれているのが伝わってきます。
ポケットに入った子ネコと一緒に、サンタさんの仕事を見ることで、どんなことをしているかが具体的にわかり、サンタさんの優しさに、サンタさんのことをより好きになってしまうところも、この絵本のとても素敵なところです。
女の子も子ネコも幸せな温かい結末
さて、そんなサンタさんでも、困ることがあります。
それが「友だちができたら嬉しい」というお願い。
おもちゃは配れるけれど、友だちは配れません。
そんな時、この願いを解決する方法が見つかりました。
この結末も、この絵本のとびきり素敵なところです。
なにより、結末自体よりも、その過程が素敵なのです。
けっして、サンタさんの思い付きでそうなったわけではありません。
子ネコからのメッセージが最初にあったのです。
「女の子の友だちがいなくて寂しい」という気持ちに、共感しかわいそうだと鳴く子ネコ。
そこが出発点となって、この結末に辿り着いたからこそ、とても納得感があり、温かさを感じ、心から「よかった」と思えるのでしょう。
このそれぞれの気持ちを、みんな汲み取った末に迎えたこの結末も、この絵本のとても素敵なところです。
二言まとめ
子ネコの表情の豊かさから、辛さ、安心、驚き、嬉しさ、色々な気持ちに感情移入させてくれる。
サンタさん、子ネコ、女の子、出てくる人たち全員の気持ちを大切にしてくれる、とても温かなクリスマス絵本です。
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