作:ダビット・サンデン 訳:青山南 出版:すばる舎
この本は読まれるのが嫌いです。
あの手この手で読まれないようにしてきます。
読むの大変だから、違う本にしない?
あらすじ
昔々、中々眠れない子どもがいました。
その子が、大人に本を読んでくれと頼みました。
大人はもちろん了承しましたが、これが大きな間違いでした。
だって、その本は人に読まれるのが嫌いな本だったのです。
ページを開くと、その本はハンドルになりました。
大人はハンドルを握り、右に左にハンドルを回し、クラクションも鳴らします。
ようやく到着し、本を読めると思ったのも束の間。
現れた文章は、誰も知らない言葉で書かれていました。
「いきなり すごく ぺっぱらりで 本は ふんごれなかった。」
大人はひどい本だと思いましたが、子どもはまだ寝ていません。
仕方なく誰も知らない言葉を読み続けました。
ちょうど一段落し、大人がため息をついたその時です。
突然、本から翼が生えてきたではありませんか。
本は飛び立つ勢いで羽ばたきます。
大人は必死で抑えます。
そして、抑え込んで10カウント!
これで本も降参したかと見てみると・・・。
してませんでした。
今度は、文字がどんどん小さくなっていったのです。
虫眼鏡で対抗していると、次は反対に、文字がどんどん大きくなっていきます。
飛行機よりも船よりも大きくなったと思ったら、いきなりウサギの絵になりました。
大人はウサギの絵に話しかけたり、触ったりしてみます。
でも、絵だから何の反応もありません。
それから、大人はウサギの名前を子どもにそっとささやきます。
けど、声が小さすぎて、誰にも聞こえませんでした。
と、ここで本はおしまい。
おわりです。
おわりだから、ページをめくることもできません。
しかし、大人と子どもはページをめくりました。
すると、本は自分からページを閉じようとします。
大人は本をガッチリつかんで閉じさせません。
必死に頑張る大人。
全然寝ない子ども。
全力で終わらせようとする本。
この本は一体いつ終わるのでしょう?
『この本はよまれるのがきらい』の素敵なところ
- アトラクションのようなおもしろさ
- まるで魔法の本のような百変化
- また持ってきたくなる終わり方
アトラクションのようなおもしろさ
この絵本のなによりおもしろいところは、まるで遊園地のアトラクションのようなおもしろさを感じるところでしょう。
まず最初から、「違う本にした方がいいよ」と進めてきます。
だって、読まれるのが嫌いなのですから。
この時点でつかみは完璧。
子どもたちは、
「えー!読んで!」
「いいから!」
と、この絵本の世界にすでに引き込まれてしまっています。
そして始まるこの絵本。
いきなりハンドルに変化して、本を右に左に傾けながらまるでカーレースでもしているかのよう。
とても絵本を読んでいるとは思えません。
その後も、飛んで逃げる本を捕まえようしたり、降参したか本に聞いたりと読み手は大忙し。
子どもは大笑い。
もう絵本を読んでいるというより、パントマイムの世界です。
でも、これがたまらなく楽しい。
例えるなら、ディズニーランドのジャングルクルーズ。
隊長と乗客の呼吸とかけあいで生まれるあの楽しい空気感。
それがこの絵本でも感じられます。
子どもたちの反応を見て、時にはアドリブを入れて、抑揚を変えて・・・。
そんな風にして生まれる一体感は、読むたびに違うもの。
その一回きりの一体感です。
これはまさに、劇場型のアトラクション。
この一期一会のおもしろさが、この絵本のとてつもない魅力なのです。
まるで魔法の本のような百変化
また、そのアトラクションが千差万別、あの手この手で仕掛けられるのもこの絵本のおもしろいところです。
ただ、絵本が動いたりするだけではありません。
ハンドルになって走り出す、翼が生えて飛び立とうとする、といった動きのあるもの。
字が誰にも読めない言葉に変わる、「わ」が「か」に変化してしまう、といった言葉遊び。
字がとてつもなく小さく、大きくなるという大きさを使った遊び・・・。
などなど、バリエーションがとにかく豊富。
ページをめくるたびに、新たな変化が待っています。
読む方は対応するのに大忙しですが、子どもたちは楽しくって仕方がない。
読み手も聞き手も、最後までまったく飽きさせないのも、この絵本の大きな魅力です。
また持ってきたくなる終わり方
さて、そんな絵本の終わりには、なんとも子どもにとって魅力的な一言が仕掛けられています。
読まれるのが嫌いな本、読むのが大変だった大人、その両方にとって幸せな方法です。
それを子どもが寝た隙に実行します。
きっとこれでもう子どもが「この本読んで」と持ってくることもないでしょう。
・・・と思ったのも束の間、目の前の子どもたちから、
「絶対また持ってくる!」
との声が。
そうでした、まだ寝ていない子が目の前にいるのでした。
むしろ、この一言と大人の行動が、「また見たい」という心に火をつけてしまうのです。
この「読まない」と言えば「読んで」と言ってくる子どもの心理を見事に使い、また読んで欲しいと言う気持ちを盛り上げて終わらせるこの結末も、この絵本のとても楽しいところです。
二言まとめ
本を見ているというよりも、まるでパントマイムを見ているようなおもしろさが詰っている。
劇場型アトラクションのような、一体感と盛り上がりを感じられる絵本です。
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