作:松岡たつひで 出版:福音館書店
今年は冬眠しないことにしたカエルたち。
初めての冬の世界に大興奮。
雪景色の中、色々な雪遊びや発見を楽しみます。
あらすじ
ある寒い雪の日のことです。
ダンゴムシやテントウムシ、カタツムリが冬眠の準備をしていると、カエルの夫婦がやってきて止めました。
カエルの夫婦は、冬の探検車を作っているから、今年は冬眠せずに遊ぼうと誘いに来たのです。
虫たちは、その提案に乗り、探検車作りの手伝いを始めます。
探検車の材料はペットボトル。
温かい土の中で、ペットボトルの中に、モーターやバッテリーなどの動力や、生活のために必要なものを設置していきます。
そして、ついに完成!
さっそく土の中から出てみると、外は辺り一面雪が積もって、真っ白になっていました。
初めての雪に、みんな大興奮です。
冬は誰もいないと思っていた森にも、リスやハタネズミなど生き物がいることを知りました。
カエルたちはさっそく、雪遊びをすることに。
ミノムシの巣や、イラガの繭で作った防寒コートを着て外に出ます。
雪玉づくりにかまくら作り、ペットボトルキャップや葉っぱのソリも楽しみます。
雪遊びをたくさんして喉が乾いたら、柿の実を食べに行きます。
冬の柿の実はまるでシャーベットのようでとても美味しいのでした。
雪に埋もれたクヌギの木にも、生き物たちが隠れています。
テントウムシは、木の割れ目にいる友だちにも会うことができました。
次は探検車に乗り込み、動物たちの足跡探し。
キツネやウサギなど、雪の上には色々な生き物の足跡が続いています。
木の下にも生き物たちがいた跡を見つけることができます。
フクロウがネズミを丸呑みした後に吐き出したペリットや、アカゲラが木を突いた後の木くずなど、色々なものが落ちているのです。
探検車はさらに森の奥へ進んでいきます・・・が、上から雪の塊が落ちてきて、探検車の風力発電用プロペラが壊れてしまいました。
しばらく、足漕ぎ式発電機で頑張りましたが、とうとう疲れ果て、一歩も進めない状態に・・・。
極寒の雪の中、カエルたちはどうなってしまうのでしょうか?
『ゆきやまたんけん』の素敵なところ
- ロマンあふれるペットボトルの探検車と雪山探検
- リアルに描かれた雪山の様子と色々な発見
- 「やっぱりこれが一番!」なカエルたちの結末
ロマンあふれるペットボトルの探検車と雪山探検
この絵本のとてもワクワクするところは、ペットボトルの探検車で雪山探検をするところでしょう。
特に、この探検車がとてもよく考えこまれ、ロマン溢れる物になっているのが冒険心をくすぐります。
素材の手軽さとは裏腹に、足にはかなりしっかりした、ソリとキャタピラがついていて、さながらスノーモービルのような仕上がりの足まわり。
動力周りも、屋根に着いたプロペラから、ジェネレーターやモーター、バッテリーへと繋がり、しっかいりと風力発電の機構ができています。
その上での、過ごしやすい内装作り。
しかも、見た目も緑に塗られ、さながら昭和の怪獣映画に出てくるメカのようでテンションが上がるのです。
この、しっかりと寝られたリアリティからくる、雪山探検のワクワク感がたまりません。
さらに、この探検車を作った動機が「冬眠をせず、冬を楽しむため」だというのだから、ここにもロマンを感じます。
「いつも通りを乗り越えて、新しいものが見たい・自分で確かめたい」
それはまるで、クリスマスの日に、サンタさんが来るまで起きていようと頑張る子どもたちのよう。
きっと、子どもたちにも、このロマンが伝わっているのでしょう。
「初めて雪を触ったらびっくりしちゃうんじゃない!」
など、初めて冬を体験するカエルたちのワクワク感が、伝わっている様でした。
この、まさしく探検家のような好奇心や、そこからのロマン溢れる発想が、この絵本のとてもワクワクさせてくれるところです。
リアルに描かれた雪山の様子と色々な発見
そんな雪山探検ですが、本当の雪山を探検しているように、リアルに描かれているのも楽しいところ。
絵本の最後に「このお話は、新潟県長岡市川口の里山を取材して作りました。」とあるので、見たままの本当にある景色を写し取っているのかもしれません。
そう思えるくらい、風景の解像度が高いのです。
木の根の空洞に巣を作っているハタネズミ。
柿やミノムシをついばむ鳥の姿。
一面の雪景色に点々とある足跡。
クヌギに身を寄せ合う虫たちなど、どれもリアルかつ、蛾の羽につく鱗粉や、鳥の羽毛の一本まで見えてきそうなほど繊細に描き出されているのです。
また、自然だけなく、物語の後半で訪れるある場所も、実在する人物なのかなと思うほどの実在感があります。
きっと、このリアルな雪山だからこそ、そこに住む生き物たちや、新潟の冬にとても興味が湧くのでしょう。
「柿のシャーベット食べてみたいな~」
「足跡探しして見たい!」
など、雪国の冬ならではの遊びに、目をキラキラさせている子どもたちでした。
このリアルに描かれた雪国の自然の中を、カエルたちと一緒に探検し、本当に雪国にいる気持ちになれるのも、この絵本のとても素敵なところです。
「やっぱりこれが一番!」なカエルたちの結末
さて、そんな探検も、探検車が壊れたことで一大事を迎えます。
一緒について来ていたリスに引っ張ってもらい、なんとか窮地を脱しますが、リスが連れていってくれたところは意外な場所でした。
そこでの身も心も温まるやり取りが、この絵本のなんとも素敵なところです。
そこでカエルたちは、冬の楽しさだけでなく、厳しさも教えてもらうことになります。
いつも寝ているカエルたちには、どちらも知らないことでした。
そんな冬の二つの顔を知ったカエルたちが最終的に取った行動・・・。
これが、なんともカエルたちらしく、自然の摂理を感じる結末になっているのが、なんとも素敵なのです。
自然の摂理に逆らって、なんとか冬を楽しもうというところから始まった物語が、色々なことを知った結果、自然の摂理に戻ってくる。
なんだか、この流れに、カエルたちの挑戦も含めて、全てを包み込む自然の大きさや懐の深さを感じてしまうのです。
同時に、きっとこの結末だからこそ、カエルたちは、次の春を、思いきり楽しめるんだろうなという予感も一緒に。
この色々なことに挑戦しながらも、やはり自然の環の中にいることを感じさせてくれる、物語の結末も、この絵本のとても素敵なところです。
二言まとめ
冬眠をせず、ペットボトルの探検車で、雪山を思いきり楽しもうとするカエルたちのロマンあふれる行動にワクワクが止まらない。
リアルに描かれた雪山を、本当に探検している気分になれる、冬の楽しさと厳しさが詰った自然科学絵本です。
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