文・絵:はせがわかこ 出版:大日本図書
もう泣かないと約束した泣き虫の小僧さん。
ある日、迷子の男の子を見つけ、お母さんを探してあげることに。
荒れ狂う天気に、泣きそうになる小僧さんですが・・・。
あらすじ
昔、泣き虫の小僧さんがいた。
泣いてばかりではお坊さんになれないので、もう泣かないと和尚さんに約束したのだった。
ある日、ふもとの村に買い物に行った帰り道に赤い実を見つけた。
小さい頃に母さんと摘んだ実だった。
懐かしい気持ちで、赤い実を食べていると、ちょうど雨が降り、雷も鳴り出した。
鐘つきに遅れては大変なので、小僧さんはお寺へと急ごうとした。
しかしその時、「キューン」という鳴き声が聞こえてきた。
ウサギだろうと小僧さんは思ったが、その鳴き声は次々と変わり、しまいには「えーん」という子どもの泣き声になった。
小僧さんが仕方なく声のする方へ引き返すと、岩の隙間に坊やが落ちていた。
不思議なことに、ほんの小さな坊やなのにとてつもなく重い。
足のケガに手拭いを巻いてあげ、小僧さんは坊やをおんぶすると、お寺に向かって走り出した。
和尚さんに、坊やの母親を知らないか聞いてみようと思ったのだ。
けれど、雨はどんどん強くなってくる。
そして、坊やはどんどん重たくなってくる。
小僧さんは泣きそうになったが、歯を食いしばった。
川に出ると、そこには橋が架かっていたが、水は荒れ狂う波のようだった。
小僧さんは、泣きそうになったが意を決して、橋に向かって走り出した。
ところが、向こう岸につく寸前、水の塊に突き飛ばされ、川の流れに放り込まれてしまった。
「もうだめだ・・・」と思ったその時、不思議なことに小僧さんの身体が浮き上がった。
なんと、小僧さんと坊やは、大きな竜の頭の上に乗っていた。
小僧さんは「くわれる!」と思ったが、大きな竜は坊やを抱き寄せると泣き出した。
すると、坊やは竜の姿に。
この竜は親子だったのだ。
小僧さんを頭に乗せ、雨雲を吹き散らしていく竜の親子。
小僧さんは食われる恐ろしさに、泣きそうになったが我慢した。
すっかり雨雲が消え、空が晴れ渡ると、竜の母さんは小僧さんをそっと降ろし、光る玉を小僧さんに渡した。
そして、空へと消えていったのだった。
その玉は、以前に和尚さんから聞いたことがある、願いが叶う竜の玉だ。
小僧さんは願い事を考えた。
「母さんに合わせてもらうかなぁ」
ちょうどその時、空を見ると・・・。
小僧さんは竜の玉にどんな願いをしたのでしょうか?
『こぞうさんとりゅうのたま』の素敵なところ
- 泣くのをぐっと我慢する小僧さんの頑張る姿
- 竜の親子との不思議な出会い
- 泣き虫じゃなくなった小僧さんが最後に見せる涙
泣くのをぐっと我慢する小僧さんの頑張る姿
この絵本のとても素敵なところは、泣き虫だった小僧さんが泣くのを我慢し、成長していく姿でしょう。
和尚さんとの約束を機に、泣かないと決めた小僧さん。
その小僧さんが、泣きそうになりながらも、泣かないように頑張る姿がとても具体的に描かれているのです。
雨が降り出し、心細くて泣きそうになり、
雷の音に泣きそうになり、
橋に打ち付ける川の流れに泣きそうになり・・・。
と、場面場面で泣きそうになりながらも、歯を食いしばったり、「負けるもんか!」と自分に声をかけながら、泣かないように頑張っていることがとても伝わってきます。
さらに、試練の内容がどんどん苛酷になっているのに、泣かずに頑張る姿にも、小僧さんの成長を感じさせてくれます。
最初は雨が降り出しただけで心細く泣き出しそうだったのが、荒れ狂う波の中、ぼうやのために橋を渡ろうとするのだからすごい。
自分より弱い者のため、どんどん成長し、勇気を手に入れていく小僧さんは、物語の最初に見た泣き虫小僧さんとはまるで別人。
特に、最後のページの小僧さんはとても頼もしく見え、この冒険を通して心が大きく成長したことを感じさせてくれるものになっています。
この、小僧さんが少しずつ成長していく姿を、丁寧に描いているのが、この絵本のとても素敵なところです。
竜の親子との不思議な出会い
そんな冒険の中で、小僧さんは竜の親子と出会います。
この竜たちとのやり取りも、この絵本の素敵でロマンあふれるところです。
まず、竜と会うだけで、子どもたちはテンションが上がります。
それが、頭の上に乗って空を飛ぶなんてことになったら、喜ばないはずがありません。
川に落ちた小僧さんが、竜の頭の上に乗っていた時の子どもたちのリアクションはまさに「目をキラキラ」させるという言葉そのもの。
「うわ~、竜だ・・・」
「おっきいー!」
と、まるで空を見上げるように、竜を見ている子どもたち。
「食われる!」と泣きそうになっている小僧さんとは正反対の反応が、少しおもしろい光景でした。
さらには坊やが竜だったこと、迫力満点に雨雲を吹き飛ばす様子や、坊や竜の仕草のしかわいさなど、思う存分、竜の雄姿を楽しめます。
極めつけは、竜から玉をもらうという場面。
物凄く美しい、願いが叶う竜の玉。
もう欲しくならないはずありません。
もちろん子どもたちからは、
「いいな~」
「きれい・・・」
と、うっとりする声。
恐れる小僧さんの姿とは裏腹に、竜とやってみたいことが詰っているのです。
この、子どもが憧れる竜との関わりを、思いきり叶えてくれるのも、この絵本のとてもロマンあふれるところです。
泣き虫じゃなくなった小僧さんが最後に見せる涙
さて、そんな竜の玉への願いですが、不可抗力で発動してしまうことになりました。
そのため、小僧さんはがっかりしてしまいます。
ですが、そのおかげでこれまで気づかなかったことに気付く機会に。
自分がどれだけ大切にされているかを知ることになるのです。
それを知った小僧さんは、大泣きしてしまいます。
そして、この涙が本当に素敵なのです。
母さんと同じくらい、自分のことを思っている人がいることを知り溢れる涙は、泣き虫の涙とは違います。
きっとここまで我慢して頑張った緊張の糸が、自分への思いを知って切れ、安心の涙へと変わったのだと思います。
坊やのために年齢不相応に頑張ってきた小僧さんが、年齢相応に戻る瞬間と、戻れる場所がある安心感。
そんなことを感じさせてくれる、たくさん頑張った後の涙も、この絵本のとても素敵なところです。
二言まとめ
泣き虫な小僧さんが、小さな坊やのために勇気を振り絞る姿に、見ている人も勇気をもらえる。
勇気の大切さと一緒に、甘えられる場所の大切さも感じられる子どもの成長物語です。
コメント