作:内田麟太郎 彫刻・絵:はしもとみお 出版:教育画劇
一人ぼっちは寂しいですか?
もし、最初から周囲に誰もいない環境だったとしても?
これは、初めて他者に会ったイグアナのお話です。
あらすじ
広い海の真ん中に、小さな島がありました。
島には一匹のイグアナが住んでいて、何不自由なく暮らしていました。
そんなある日。
一匹の羽を傷めたカモメが島に落ちてきました。
イグアナは手当てをして、魚を持ってきて、カモメを看病してあげました。
カモメは少しずつ傷が治ってくるとイグアナに聞きました。
「一人ぼっちなの?」と。
ですが、イグアナは意味がわかりませんでした。
なぜなら、イグアナが卵だった頃に島を台風が襲い、イグアナが生まれた時には他に誰もいなかったからです。
カモメは次の日にも聞きました。
「友だちはいなかったの?寂しくなかったの?」と。
やはりイグアナには意味がわかりませんでした。
カモメはイグアナをかわいそうに思い、春の歌を歌ってあげました。
それから毎日カモメは歌ってくれました。
遠い国の話もしてくれました。
イグアナは毎日とても幸せでした。
こうして何日も過ぎ、涼しい風が吹き始めた日。
傷もすっかり治ったカモメは、行かなくてはならないことをイグアナに伝えました。
初めての友だちとの別れ。
イグアナはなにを思い、なにを伝えるのでしょうか・・・。
『ともだちのなまえ』の素敵なところ
- 寂しいという感情って幸せなことなのかも
- 初めての友だちとの楽しい時間
- 寂しさと希望が入り混じった切ない結末
寂しいという感情って幸せなことなのかも
この絵本のとても特徴的なところは、「寂しい」という思いを特別なものとしているところです。
普段、ぼくたちが当たり前のように感じる寂しさ。
でも、イグアナにはわかりません。
だって、最初から一人ぼっちだったから。
たしかに、寂しいというのは、一人ぼっちに「なる」から寂しいのであって、最初から一人ぼっちなら寂しさは湧かないでしょう。
そんな寂しさが生まれる所について、この絵本は深く考えるきっかけをくれます。
同時に、寂しさを感じる相手がいることが幸せなことだという気付きも。
負の感情だと思っていた寂しさが、実は幸せだから起こる感情なのかもしれない。
離れたくない人がいるからこそ、寂しさを感じるのですから。
いつもの当たり前の前提を崩し、当たり前の感情について深く考えさせられる。
この哲学的なおもしろさが、この絵本のとても素敵で特別なところです。
初めての友だちとの楽しい時間
さて、一人ぼっちだったイグアナに、ある日初めて友だちができます。
それが、ケガをして落ちてきたカモメ。
看病をするうちに仲良くなり、カモメから色々なことを聞かれます。
一人ぼっち、友だち、寂しさ・・・。
どれも、イグアナが知らない言葉、知らない感情です。
これが、カモメとの日々を過ごしていく中で、わかるようになっていく流れがとても温かく素敵なのです。
カモメがイグアナを思い歌ってくれる歌、話してくれる話。
それを聞くイグアナの顔はとても嬉しくて幸せそう。
2人の時間を見ていると、こちらまで温かく幸せな気持ちになってきます。
そこからは、カモメに教えてもらった言葉だけではなく、幸せや楽しさ、世界の広さなど、様々なことを発見していることが伝わってくるのです。
この2人が仲良くなり、友だちになり、楽しい時間を過ごす場面も、ずっとこのまま幸せでいて欲しいと願わずにはいられない、とても素敵な場面です。
寂しさと希望が入り混じった切ない結末
ですが、カモメは渡り鳥。
一つの場所にずっといることはできません。
冷たい風が吹いてきたら、温かい場所へと渡らなければならないのです。
どんなに一緒にいたくても、引き留めることはできません。
なにより、友だちとの関わりが少ないイグアナには、引き留める言葉が見つからないのです。
この別れの場面が、本当に切なくて、寂しくて、胸を締め付けれます。
きっと、これからの一人ぼっちは、これまでの一人ぼっちとは違うでしょう。
もしかしたら、カモメと出会わなかった方が、イグアナには幸せだったのでは?
そんなことも考えてしまいます。
けれど、希望がまったくないわけではありません。
カモメは渡り鳥だから、いつか戻ってくるかもしれないという希望も示唆する終わりになっています。
この、寂しさと希望が入り混じった、切なさを感じる別れの場面も、この絵本ならではの気持ちが味わえるところです。
再開できたら、きっとそれまでの寂しさをひっくり返すくらい、幸せな時間をまた過ごせるでしょう。
でも、もう会えなかったら、イグアナはずっと寂しいままなのかもしれない。
イグアナにとって、寂しさを覚えたことは、幸せだったのか・・・?
それはイグアナにしかわからないのかもしれません。
二言まとめ
寂しさも、友だちも知らない一人ぼっちのイグアナの姿に、寂しさは相手がいないと存在しないことに気付かされる。
初めての友だちとの幸せな時間、そして別れに、イグアナとともに心揺さぶられる絵本です。
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