作:ふくざわゆみこ 出版:福音館書店
森に嵐が来たある日のこと。
クマさんはヤマネくんに、アジサイを見に行こうと誘われました。
雷が怖くて断るとヤマネくんは一人で外に。
その時、洪水が起きて・・・。
あらすじ
森に嵐が来て、雷が鳴っているある日。クマさんがあまりの怖さに家で震えていると、誰かが扉を叩きました。
クマさんがこわごわと扉を開けると、それは友だちのヤマネくんでした。ヤマネくんはクマさんと花を見に行きたくて誘いに来たのです。話を聞くと、カエルさんが七色谷のアジサイが満開だと教えてくれたのだそう。でも、クマさんは乗り気ではありません。
ちょうどその時、大きな雷が落ち、クマさんは布団をかぶってしまいました。その姿を見たヤマネくんは、「アジサイの花を持ってきてあげる」と、1人で外へと飛び出して行くのでした。止めようとしましたが、もうヤマネくんの姿はありません。
クマさんが家でヤマネくんの心配をしていると、ドアから水が・・・。あっという間に、家は水浸しになってしまいました。七色川が溢れて洪水が起きたのです。
川上からは木の枝に混じって、アジサイが流れてきます。ヤマネくんの向かった七色谷は、七色川の上流にあります。クマさんは雷が怖いのも忘れ、ヤマネくんを探しに走り出しました。
どんどん川上に向かって走って行くと、七色谷が見えてきました。満開のアジサイが咲いています。
その時、ヤマネくんの助けを求める声が、谷中に響き渡ります。よく見ると、ヤマネくんが今にも川に落ちそうに、アジサイにしがみついているではありませんか。クマさんは慌ててヤマネくんのところに行こうとします。ところが、その瞬間、アジサイの茎が折れ、ヤマネくんは川の中に。
クマさんは、ヤマネくんを助けることができるのでしょうか?
『あめのもりのおくりもの』の素敵なところ
- 好奇心旺盛なヤマネくんと臆病なクマさんの対照的なやり取り
- 絶体絶命の緊迫感ある捜索劇と救出劇
- 美しい森の風景と、さらに美しい最後の場面
好奇心旺盛なヤマネくんと臆病なクマさんの対照的なやり取り
この絵本のおもしろいところは、ヤマネくんとクマさんの性格の違いが、とてもよくわかることでしょう。
特に雷に対しての反応が対照的で、大きな雷が落ちた時に「かっこいい!」と窓に飛びつくヤマネくんに対し、布団に飛び込み震えるクマさん。まさに正反対の性格です。
体の大きいクマさんが臆病で、体の小さなヤマネくんの方が怖がらないというのも、見た目的におもしろく、子どもたちも、思わず笑ってしまいます。他にも、葉っぱの傘を被ったヤマネくんを鬼と勘違いして怯えたり、クマさんは布団をかぶってばっかりです。
対してヤマネくんは嵐の中でも構わずに、怖がるクマさんのためにアジサイをとってきてあげようと外に出ていく勇敢ぶりです。
ただ、ずっとこのままではありません。洪水が起き、ヤマネくんの身が危ないとなると、クマさんは立ち上がります。友だちのためなら、雷も気にしない勇敢さと力強さ、優しさを見せてくれるのです。
この前半の好奇心旺盛なヤマネくんと臆病なクマさん。そして後半の助けに行くクマさんと、助けられるヤマネくんという立場の逆転が、この絵本のとてもおもしろいところです。
絶体絶命の緊迫感ある捜索劇と救出劇
こうして、ヤマネくんを助けに向かったクマさん。その道中は、ドキドキとした緊迫感が張りつめています。激しく降る雨、荒れ狂う川。どう見ても森が危険だということが伝わってきます。そんな中一人で川上に向かったヤマネくん。これが心配にならないはずありません。
子どもたちの心も、見事にクマさんとリンクして、

ヤマネくん大丈夫かな?



溺れてないかな?



早く見つかって!
と、一生懸命ヤマネくんを探しているみたいです。
そして辿り着いた七色谷には美しい景色とともに、危機一髪な光景が広がります。今にも落ちそうなヤマネくん。思わず、クマさんと一緒に駆け出したくなる場面。
これだけでもドキドキなのに、ページをめくると茎が折れ、川を流されるヤマネくんの姿。誰もがみんな息を呑み、ものすごい緊張感がその場を支配します。このドキドキ感と緊張感も、この絵本のとても素敵なところでしょう。
クマさんの家に水が流れ込んできたところからの捜索劇~救出劇は、まさに現実さながら。時間との勝負という焦りがとても伝わってくるのです。同時に、これだけの緊迫感を味わったからこそ、最後の場面がより美しく見えるのだとも思います。
美しい森の風景と、さらに美しい最後の場面
さて、ヤマネくんのピンチというハラハラドキドキの展開で最後の場面を迎えたこの絵本。最後の場面では息を呑むほど美しい光景が待っていました。
表紙を見ただけでもわかるように、青々とした木々を、色鮮やかなアジサイやキイチゴなどが彩ります。最初から雨が降っているので、薄暗さはありますが、雨の雰囲気と相まって、むしろ幻想的に見えてきます。
中でも七色谷に広がる満開のアジサイはうっとりしてしまうほど美しい。ヤマネくんを早く助けなければいけないのですが、その美しさに目を奪われ、ページを中々めくれません。この美しさの上で、七色谷はさらに美しい景色を隠しています。
その最高に美しい光景を見られるのが、この絵本の最後の場面。見開きいっぱいに広がる七色谷。そこには緊迫感が解かれ、頑張った2人へのご褒美と言わんばかりのとびきりの光景が広がります。この光景には子どもたちも、



わ~・・・きれい・・・
と感嘆の声。



行ってみたいな~
など、うっとりしながら見つめているのが印象的でした。
この美しい森の景色だけでも素敵なのに、一番最後にさらに美しくうっとりしてしまう景色をみせてくれるところも、この絵本のとても素敵なところです。
二言まとめ
嵐の中ヤマネくんを助けに行く、緊迫感が張りつめた救出劇にとってもドキドキさせられる。
無事に救出した後の、美しすぎる七色谷に目を奪われる梅雨にぴったりな絵本です。
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