作・絵:井上洋介 出版:すずき出版
お月様は本当は電球で、観覧車はハツカネズミが回してる。
そんな誰も知らないたくさんのこと。
それって真実?それともまぼろし?
あらすじ
誰も知らないけれど・・・
お月様はよく見ると大きな電球。
誰も知らないけれど・・・
電車のトンネルからはたまにでっかいモグラが顔を出している。
誰も知らないけれど・・・
カタツムリの真似をして、お月様もカタツムリの形をしている時がある。
誰も知らないけれど・・・
歩道橋の代わりにゾウが道路をまたいでいる。
誰も知らいけれど・・・
『まぼろしえほん』の素敵なところ
- 確かにそう見えることがあるまぼろしたち
- 言いたくなる決まり文句の内緒感
- 真実か?まぼろしか?
確かにそう見えることがあるまぼろしたち
この絵本のなによりおもしろいところは、身近なものをまぼろしを通して見てみるところでしょう。
見るものは、月、歩道橋、トンネル、観覧車など、どれも馴染みのあるものばかりです。
でも、そんなものたちをまぼろしを通して見ると、なんと摩訶不思議で楽しいことでしょう。
お月様は電球に、
歩道橋は大きなゾウに、
観覧車の中にはハツカネズミが・・・。
そんな不思議な世界が見えてきます。
これが、独創的ながらも荒唐無稽じゃないところがなんとも絶妙。
「たしかにそう見える!」
という絶妙なラインのまぼろしを見せてくれるのです。
このまぼろし視点で世界を見ると、なんとおもしろいことでしょう。
当たり前が当たり前じゃなくなり、新たな世界が見えてきます。
クレーン車がキリンになったり、門が大きな口になったり・・・。
この楽しいまぼろしを通して、子どもたちの空想の世界を爆発させてくれる。
これが、この絵本の楽しくてしかたがないところです。
言いたくなる決まり文句の内緒感
また、この絵本の特徴的なところとして、決まり文句の存在も忘れてはいけません。
それが、
「だあれもだあれも知らないけれど」。
全てのページは、この決まり文句の書き出しから始まります。
これがなんとも言いたくなってしまう不思議な魅力を持っているのです。
言うなれば「昔々あるところに」という、昔話定番の書き出しのよう。
しかも、内緒話のような雰囲気を持っているのも、言いたくなってしまう要因なのでしょう。
この言葉には「絶対に誰にも言わないでね・・・」というようなニュアンスが感じられ、むしろ言いたくなってしまうのです。
この内緒だけど言いたくなってしまう決まり文句も、この絵本の魅力の一つです。
真実か?まぼろしか?
さて、このまぼろしと、決まり文句が組み合わさると、ある不思議なことが起こります。
それが、「この絵本の中のことは、実は本当なのか・・・?」という疑問です。
みんなタイトルからまぼろしであり、本当のことではないと思って見始めます。
ですが「だあれもだあれも知らないけれど」と言い続けられると、「実はそんなこともあるのかな?」という気分になってくるのです。
さらに「そうだったらおもしろいな」という気持ちも重なり、どんどん真実なのかまぼろしなのかわからなくなってくるのです。
子どもたちも、
「えー!本当だったらどうしよう!」
「絶対まぼろしだよ!」
「でも、こういうの見たことあるよ!」
など、意見もわかれます。
そして、意見が分かれたことで、より真実味が増してしまうのです。
この、タイトルとのパラドックスが、この絵本のなんともおもしろいところ。
きっと「まぼろしだと思っていたら、まぼろしではないかもしれない」という、頭がこんがらがるような、哲学的な問いを考えすぎた時のような、不思議な感覚を味わうことができることでしょう。
二言まとめ
まぼろしを通して見る身の回りの世界が、摩訶不思議でおもしろい。
まぼろしだと思いたいけれど、そうとも言い切れない不思議な感覚を味わえる、幻のような絵本です。
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