作:となりそうしち 絵:伊藤潤二 編:東雅夫 出版:岩崎書店
壁の染みや、天井の模様が顔に見えたことはありませんか?
もし、その顔がみんなこっちを見始めたら・・・?
あらすじ
世界にはいっぱい顔がある。
生き物だけじゃない。
空に浮かぶ雲や、校庭の木、机の傷、壁の汚れに、床の模様にも、顔がある。
でも、ぼく意外、誰も気づいていない。
お母さんにそのことを相談したけど、困った顔をされた。
その時、お母さんの向こうの壁にあった顔が、こっちを見た。
それからすべての顔が、ぼくだけを見るようになった。
電柱、通行人の服、壁、マンホール・・・。
そこかしこに顔があり、いつもぼくを見ている。
ぼくは怖くて駆け出した。
でも、転んでしまった。
膝をすりむいた。
消毒して絆創膏を貼ったから、もうかさぶたになり血は出ていない。
けれど、絆創膏をはがせない。
だってはがしたら・・・。
『こっちをみてる。』の素敵なところ
- ページいっぱいに広がる、床や壁の顔に見える模様
- 見られ続ける恐怖
- ぞっとする最後の場面
ページいっぱいに広がる、床や壁の顔に見える模様
この絵本のなにより怖いところは、壁の染みや床の模様が顔に見えるという、日常的に体験する現象が元になっているところでしょう。
「あの模様顔に見える」
「あそこになにかいる気がする」
そんな、誰もが一度は体験したことがあるようなできごとだからこそ、その怖さが身に染みてわかるのです。
「もし、あの時の顔もこっちを見ていたら・・・」
「そういえば、あそこに顔みたいなのあった・・・」
などというように。
さらに、この絵本にはそこにもかしこにも、顔に見えるものが描かれています。
木や雲の陰影、建物の形、壁の染み、衣服のしわ・・・。
このぼんやりと顔が散りばめられている光景が、本当に不気味。
子どもたちも、
「あそこにも顔がある!」
「ここも顔になってるよ!」
と、身を震わせながら気付きます。
はっきりと描かれていないからこその、リアルな恐怖感があるのです。
見られ続ける恐怖
でも、ぼんやりとした怖さで終わらないのも、この絵本の恐ろしいところ。
お母さんに顔のことを相談した時から、顔がこっちを見るようになります。
そのとたん、ぼんやりとした「顔のように見える」ものたちが、本当の顔になり一斉にこっちを見始めるのです。
ここからは完全にホラー。
街中のいたるところに顔が現れ、見開いた目でこっちを見てきます。
どんどん増える顔。
安心できるところはもうどこにもありません。
味方や安心できる場所がなく、どんどん追い詰められていくホラー展開。
怖さに言葉を失い、ページに釘付けになったり、身を寄せ合う子どもたち。
まさにホラーの醍醐味と言った、非日常の空気感を味わえるのも、この絵本のとても怖くておもしろいところです。
ぞっとする最後の場面
さて、ここまででも十分怖いこの絵本ですが、最後にとっておきを残しています。
それが絆創膏をはずす時。
きっと、この紹介を見ている人も、絵本を見ている子どもたちも、絆創膏の中がどうなっているか薄々気づいていると思います。
「きっと、顔がある・・・」と。
でも、薄々気づいていても怖いのがこの絵本。
絆創膏をはがすまでの溜めが、ものすごく「くるぞくるぞ」というドキドキ感と恐怖感と怖いもの見たさを増幅してくれるのです。
そして、はがした時の、
「キャー!」
「怖いよー!」
という、叫び。
これにより胸に渦巻いていた怖さや不安感が、思いきり発散され、怖いながらも気持ちよく終われまするのです。
なにより、ホラーならではの体験が思い切り味わえるところが楽しい。
この、これまでの息を呑むようなハラハラした怖さから、最後にわかりやすい怖さで思い切り怖い思いを発散させてくれるのも、この絵本の素敵なところです。
もしかしたら、夜になって思い出し、色んなものが顔に見えてくるかもしれませんが・・・。
二言まとめ
壁や床の模様が顔に見えるという、よくある不気味体験をモチーフにしたホラー展開が怖すぎる。
見れば、そこかしこに顔が見つかって、夜眠れなくなってしまうかもしれないホラー絵本です。
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