作:新美南吉 絵:西村敏雄 出版:すずき出版
あるところに、化けるのが下手な子だぬきがいた。
けれど、下駄に化けるのだけはとても上手。
でも、そこにお侍がやってきて、その下駄を履いていってしまい・・・。
あらすじ
ある村の近くの木の下で、お母さんタヌキが、子どものタヌキに化けるのを教えていました。
でも、うまく化けることができません。
そんな子どものタヌキでしたが、下駄に化けるのだけはとても上手でした。
そこで、子どものタヌキは下駄に化け、木の下に転がっていると、そこへ侍がやってきました。
侍は下駄の緒を切って困っているところ。
子どものタヌキが化けた下駄を見つけると、大層喜び、その下駄を履いていってしまいました。
木の影からその様子を見ていたお母さんタヌキはびっくり。
侍の後をついていくことにしました。
侍はどんどん歩いていきますが、子どものタヌキは潰れそうで思わず声が出てしまいます。
さらに、下駄の後ろの方からしっぽも出てきてしまいます。
けれど、侍は構わず歩きます。
とうとう子どものタヌキは、大声で泣き出してしまったのでした。
そのうちに、侍は村の下駄屋までやってきました。
侍はそこで新しい下駄を買うと・・・。
下駄に化けたタヌキは一体どうなってしまうのでしょうか?
『げたにばける』の素敵なところ
- 昔話のような空気感
- 侍に履かれてしまってハラハラドキドキ
- 子どもらしいシンプルで嬉しい結末
昔話のような空気感
この絵本は読んでいると、『ももたろう』などの王道昔話を読んでいる感覚を覚えます。
きっと語り口が、昔話のような語り聞かせる雰囲気だったり、出てくる単語に昔使われていたものがあったりするからなのでしょう。
この昔話の雰囲気が、侍のいる時代や、タヌキが下駄に化けるという物語と、とても噛み合っているのが、この絵本の素敵なところ。
昔話の雰囲気により、昔の世界へ自然と入り込んでいけるのです。
だからこそ、下駄の化けたり、侍が登場しても、特に驚きなくすんなり受け入れられるのでしょう。
「そりゃ、侍は歩いているでしょ」というくらい、当然のこととして。
侍に履かれてしまってハラハラドキドキ
そんな風に、自然にこの物語の世界に誘われた子どもたち。
ですが、その世界での物語にはハラハラドキドキさせられてしまいます。
なんせ、タヌキの化けた下駄が、本当に履かれてしまうのですから。
侍がやってきて、下駄を履いていってしまった時の子どもたちの表情は必見。
鳩が豆鉄砲を食らったような表情で、みんな唖然としています。
「履いてっちゃった!」
「重そう・・・」
「タヌキさん大丈夫かな?」
と、心配そうにハラハラドキドキ。
でも、そのハラハラドキドキは1ページごとに、どんどん大きくなっていきます。
なぜなら、ページをめくるごとに、変化が解けていってしまうから。
最初は重さに耐えかねて声を出してしまい、
次にしっぽが出てきて、
最後は泣き出して顔も出てきてしまうのです。
子どもたちも、
「やっぱり重いんだよ・・・」
「タヌキさん潰れちゃう!」
「侍にバレちゃうよ!」
と大慌て。
「バレて侍に捕まってしまうんじゃないか?」「潰れてしまうのではないか?」という不安が、ページをめくるたび大きくなっていくのです。
この、どんどん大きくなっていくハラハラドキドキ感もまた、この絵本のとてもおもしろいところ。
子ども達を物語の世界へ惹きこんで釘付けにしてしまうのです。
「次はバレてしまうかも」とハラハラドキドキしながらのページめくりを、ぜひ子どもたちと楽しんでみてください。
子どもらしいシンプルで嬉しい結末
さて、そんな物語の結末は、とても子どもらしいシンプルなものでした。
シンプルゆえにわかりやすく、子ども達もとても共感できるもの。
これまでの苦労が報われたなと思えるハッピーエンドです。
(大人が見ると、若干、侍が意地悪にも見えますが・・・)
子どもたちも、
「よかったね!」
「頑張ったからね!」
「大変だったけどよかったね!」
と、タヌキと気持ちをわかちあっている様子。
タヌキも子どもたちも、この結末でこれまでの苦労は帳消しになっているようでした。
このシンプルなわかりやすい結末に「あー、よかった!」と思えるところも、この絵本のとても素敵なところです。
二言まとめ
侍が歩くたび、タヌキの変化が解かれていくハラハラドキドキ感が、たまらなくおもしろい。
ハラハラドキドキしたからこそ、シンプルなハッピーエンドに、これまでの苦労が報われてスッキリした気持ちになれる絵本です。
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