再話:ソ・ジョンオ 絵:シン・ミンジェ 訳:おおたけきよみ 出版:光村教育図書
イヌとネコがおばあさんのために立ち上がる、韓国の昔話。
日本の昔話と通ずるものに親近感が湧いたり、
韓国でイヌよりネコがかわいがられる理由がわかるお話です。
あらすじ
昔、おばあさんがイヌとネコと一緒に暮らしていました。
ある日、川辺を散歩していると、漁師に捕らえられたスッポンに出会いました。
おばあさんは持っていたお金を全て漁師に渡し、スッポンを逃がしてやりました。
あくる日、おばあさんの元へ男の子が訪ねてきました。
なんと、その男の子は昨日のスッポンで、竜王の息子だと言うではありませんか。
男の子はお礼をするため、おばあさんを川の底にある竜宮へと連れていってくれたのでした。
竜宮で楽しく過ごしたおばあさんは、帰り際に竜王から「なんでも一つ土産に持って行っていい」と言われました。
おばあさんは、竜王の息子が目配せしてくれた、竜王の杖についている玉をもらうことにしました。
その玉は、なんでも願いが叶う魔法の玉でした。
思うだけでなんでも出てくるのです。
おばあさんの暮らしは、見違えるほど豊かになりました。
魔法の玉の噂は広がり、川向こうの欲張りばあさんの耳にも入りました。
そしてある晩、欲張りばあさんは小間物売りの振りをして、おばあさんに近づき、魔法の玉と偽物の玉を取りかえて、さっさと逃げて行ってしまいました。
魔法の玉を失い、おばあさんの生活は元通り。
おばあさんはすっかり元気をなくしてしまいました。
それを見ていたのが、イヌとネコ。
2匹は話し合い、欲張りばあさんから魔法の玉を取り返すことにしました。
その夜、イヌとネコは静かに家を抜け出し、欲張りばあさんの家へ向かいます。
欲張りばあさんの家は川向こう。
ネコがイヌの背中に乗り、川を渡っていくのでした。
欲張りばあさんの家へ行くと、イヌは門の見張りを、ネコは玉を探しに屋敷へ入ります。
ネコが明かりの漏れている部屋へ入ってみると、そこにはネズミの大群が。
ネコはすかさずネズミの王様を捕まえると、王様を放す代わりに、魔法の玉を見つけてくるようネズミたちに頼みました。
家中を探し回るネズミたち。
その数の多さで、あっという間に魔法の玉を見つけてくれました。
約束通り王様を放すと、魔法の玉を口に入れ、また川を渡って帰ります。
その途中、イヌがネコに話しかけてきますが、ネコの口には玉が入っているので口を開けません。
それでもしつこく聞いてくるイヌ。
イヌが大きく体をゆすったことへの驚きもあり、ネコはつい答えてしまい・・・。
果たして、魔法の玉は無事に、おばあさんの元へ帰ってくるのでしょうか?
『いぬとねこ』の素敵なところ
- 日本の昔話との共通点に親近感が湧く
- わかりやすいからこそハラハラドキドキさせられる
- 鮮やか過ぎる伏線回収
日本の昔話との共通点に親近感が湧く
この絵本のおもしろいところは、韓国の昔話ですが、日本の昔話との共通点があることです。
それが、物語前半の竜宮へと行く部分。
舞台が海ではなく川ですが、展開は『うらしまたろう』とほとんど一緒。
子どもたちも、
「うらしまたろうに似てるね!」
「日本と一緒だ!」
と、ほとんど展開が同じだと気付き、驚いていました。
川の底に行き、そこで過ごした後お土産をもらうなど、竜宮へ行った後の流れも、ほとんど同じ。
国や言葉は違うけれど、みんな大好きな昔話の中にある共通点に、韓国への親近感が湧いてきます。
同時に、その後の展開の違いや、『いぬとねこ』ならではのおもしろさにも惹きつけられ、どの国の昔話もおもしろいことに気付きます。
これは、前半が馴染みある昔話と同じ展開のこの物語だからこそ、よりわかりやすく子どもに伝わるのでしょう。
そんな外国と日本の文化を繋いでくれるのが、この絵本のとても素敵なところです。
わかりやすいからこそハラハラドキドキさせられる
さて、前半は『うらしまたろう』そっくりなこの物語ですが、お土産をもらうところから、大きく展開が変わります。
玉手箱ではなく、好きなものをもらえるのです。
そこでもらった魔法の玉は、まさに夢のような道具。
なんでも思ったものが出てくるのです。
これには子どもたちもうっとり。
「すご過ぎる!」
「好きなおもちゃ出せるじゃん!」
「お金も出せるね!」
などなど、夢と妄想が膨らみます。
しかし、そこに現れるのが欲張りばあさん。
その名前を聞いた途端、子どもたちの表情に緊張が走ります。
だって、名前からして絶対玉を盗みに来そうなんですから。
そして案の定、近づいてくる欲張りばあさん。
子どもたちの警戒はMAXに。
「絶対、魔法の玉とろうとしてるよ!」
「見せちゃダメ!」
と、ハラハラドキドキ・・・。
けれど、やっぱり取られてしまって、「ほらー!」とがっくり。
「欲張りばあさんいけないよね!」
「泥棒だ!」
と、避難の嵐です。
こんな風に、結果は残念なのですが、このわかりやすい展開やネーミングもこの絵本のとても楽しいところです。
「欲張りばあさん」と聞いただけで、次に何が起こるか予想できるのだから、事件が起こるまでハラハラドキドキしない訳がありません。
他にも、魔法の玉と言うわかりやすく万能な道具や、イヌとネコが玉を取り返しに行くという展開も、シンプルゆえにワクワク感やドキドキ感へ繋がります。
このわかりやすいからこそ、「理解」よりも「気持ち」に集中でき、ワクワクハラハラドキドキ感を全力で味わえるのも、この絵本のとても素敵なところです。
物語の各所で味わえる、たくさんの子の気持ちが一つになる一体感のおもしろさは、ぜひ体験してほしいところです。
鮮やか過ぎる伏線回収
また、この物語、最後にアッと驚く展開がまっています。
ですが、そこへの伏線の張り方が、この物語らしくわかりやすいのも、この絵本のおもしろいところ。
そのわかりやすさはダチョウ倶楽部の「押すなよ押すなよ」レベルです。
欲張りばあさんの家から、魔法の玉を見つけ出したネコ。
手には持てないので、口に含んで帰路につきます。
そこへ話しかけてくるイヌ。
ネコの返事は「・・・」。
だって、口を開けないのですから。
子どもたちも「今しゃべれないよ・・・」と、ネコの味方をしてくれます。
でも、やっぱり話しかけてくるイヌ。
子どもたちも徐々に展開が予想でき、ハラハラドキドキ。
「返事しちゃだめだよ!」
「口を開けちゃダメ!」
と言う言葉はまさに「押すなよ押すなよ」。
もう、口を開けるまでのカウントダウンは始まっていることでしょう。
そして・・・。
このわかりやすくも鮮やか過ぎる伏線回収もまた、この絵本のとても盛り上がる楽しさが詰ったところです。
この時の、子ども達のがっかり感と一体感は相当なもの。
わかっちゃいたけどつい「あーあ・・・」とため息が出てしまいます。
あ、でもちゃんとハッピーエンドで終わるので安心てくださいね。
最後まで見たら、なぜ韓国ではネコの方が重宝されるかわかることでしょう。
二言まとめ
わかりやすい伏線の数々に、わかりやすいからこそハラハラドキドキさせられる。
日本の昔話との共通点に、なんだか韓国に親近感を感じる昔話絵本です。
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