【絵本】さかなまちいきでんしゃ(2歳~)

絵本

文:いぬいちえ 絵:にしむらしげお 出版:福音館書店

人間の町のお祭りにやってきたタコくん。

夢中で見て回っているうちに、迷子に・・・。

タコくんは家に帰るため、ある電車に乗り込みます。

あらすじ

タコくんが海から人間の町へやってきました。

そこではお祭りがやっています。

おみこしを見て、出店を回り、お祭りを楽しんでいると、いつの間にか知らない場所にいたタコくん。

帰り道がわからなくなってしまいました。

町を歩き回っていると電車を見つけ、駅へと向かいます。

駅にいたおじいさんに、海の家へ帰りたいことを伝えると、さかなまちいき電車に乗るよう言われました。

さっそく、来た電車に乗り込むと、電車は海の中へ走って行きます。

海中の線路を走って行くと、いつものお店がある、いつもの町が見えてきます。

終点のさかなまちに着くと、タコくんはおじいさんにお礼を言って、無事に家へ帰りつけたのでした。

『さかなまちいきでんしゃ』の素敵なところ

  • とてもシンプルでわかりやすいお話
  • 地上と海を行き来する不思議でおもしろい電車
  • 見れば見るほど発見がある町並みや背景

とてもシンプルでわかりやすいお話

この絵本のおもしろいところは、話の展開がとてもシンプルで、誰でも物語を楽しめるところでしょう。

話をまとめると、

「タコの男の子が、お祭りを見ているうちに迷子になり、電車に乗って家に帰る。」

ただこれだけ。

そこには長時間迷ったり、電車に乗った後サメに追いかけられたりなどのハプニングはありません。

とても素直にわかりやすく進んでいきます。

こういう作りの物語は意外と珍しく、

小さい子向けだと、繰り返しになっているけれど物語性が少ないものが多く、

それをより大きい子向けになると、紆余曲折があり、途中で話の展開がわからず迷子になりやすい絵本が多いです。

そんな中、この絵本はわかりやすさと物語性のバランスがとてもよく、物語絵本を読み始める時にとても読みやすいのです。

さらに、出てくるキーワードも「お祭り」「迷子」「電車」「お家」と、子どもに馴染み深いものが多く、イメージするにも困りません。

この、とてもわかりやすくシンプルな作りの中で、物語ならではのおもしろさや場面転換を楽しめるのが、この絵本のとても素敵なところです。

地上と海を行き来する不思議でおもしろい電車

こんな風に、誰もがわかりやすいよう、とてもシンプルに作られた物語ですが、もちろん子どもたちがあっと驚く場面も用意されています。

それが、海の中へと進んでいく電車。

地上を走る電車に乗るタコの男の子を見て、

「これで海の中に帰れるのかな?」

「電車は海の中を走れないんじゃない?」

と心配する子どもたち。

ですが、ザブゴトザブゴトと海に潜っていく電車を見ると、

「海に入って行っちゃったよ!」

「この電車潜れるんだ!」

「潜水艦みたい!」

と大喜び。

予想はしつつも、やっぱりその姿を見るとテンションが上がってしまうようです。

さらに、海の中を走る電車もとても幻想的。

周囲を泳ぐ魚や、水面に月が揺れる中、走って行く電車を見ていたら、乗ってみたくなることうけあいです。

さらにさらに、進んだ先には海底の町があり、そこでは人と同じように暮らす海の生き物たちの姿が。

先ほどまでの、幻想的な雰囲気とはうって変わって、賑やかで楽しげな景色が楽しめます。

この、電車に乗っての海中の旅という、非日常的な体験もこの絵本のとても素敵なところです。

見れば見るほど発見がある町並みや背景

さて、物語としてはとてもシンプルで、小さい子にもおすすめなこの絵本。

実は大きい子にもおすすめしたい深みも、この絵本には隠されています。

それが、たくさんの発見が散りばめられた、想像力が働かずにはいられない、細かく描き込まれた絵です。

まず、シンプルに背景を見ているだけでおもしろい。

お祭りのお面やさんに並ぶお面。

出ている出店と、そこにいる人々。

駅や電車内に貼られた「うみぼうずまん」「深海ツアー」「ほかほか海中温泉」などの広告。

海の町の気になるお店。

などなど、これらを見ているだけでも発見が止まりません。

ですが、真骨頂はここからで、

車内でおじいさんにお面を見せて楽しそうに話すタコくんの姿から、どんなことを話しているのか想像したり、

そもそもひょっとこのお面を買ったのは、タコに似ているからかもしれないと気付いたり、

竜宮城のようなところから、カメがおじいさんを迎えに来ているところから、このおじいさんは浦島太郎なのではないかと思ったり、

すると、浦島太郎のお話の後の世界なのかなと妄想が膨らんだり・・・。

他にも、カニがおにぎりの絵を描いている。

人魚がバーを開いている。

などなど、他の物語を知っているからこその発見も、たくさん盛り込まれています。

これは物語に慣れ親しんだ、ある程度大きい子ではないと気付かなかったり、想像力が働かないところ。

反対に、大きい子であれば、物語のシンプルさと対照的な、描き込まれた世界観に夢中になれることでしょう。

この、小さい子への物語の入門編としてだけでなく、物語が大好きな大きい子もたくさんの発見を楽しめる、作りこまれ描き込まれた世界も、この絵本のとても素敵でふところの深いところです。

二言まとめ

とてもシンプルな話の展開に、小さい子でもしっかりと物語のおもしろさが楽しめる。

同時に、大きい子は、描き込まれた世界を見て、無限に想像力の翼を広げることができる絵本です。

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