作・絵:ブライアン・リーズ 訳:さいごうようこ 出版:徳間書店
夜行性のコウモリたち。
海水浴へ行くのももちろん夜。
月が沈むまで、コウモリたちはどんなレジャーを楽しむのでしょうか。
あらすじ
お日さまが沈んだ静かな夜。
コウモリたちが次々空へ現れます。
今日は満月。
みんなで海へ遊びに行く日です。
コウモリたちは、お弁当に、遊び道具、バンジョーなど、色々な荷物を持って海へと飛び立ちました。
海に着くと毛布を敷いて、つきやけ止めを塗ってから、海で遊び始めます。
子どもたちは、浜辺で集めたもので遊んだり、コウモリあげをしたり、よそから来たコウモリたちと友だちになったり。
大人は月の光を浴びながら、寝椅子で一休みしています。
サーフィンや、翼を広げてのヨット遊びなど、スリルのある遊びを楽しむものも。
お腹がすいたらお弁当を食べます。
バスケットには虫を使ったおいしそうな料理がぎっしり。
焼きムシマロも、楽しみなおやつの一つです。
アイスのお店では、光に群がる虫が食べ放題。
お腹がいっぱいだけど、つい食べてしまいます。
焚火の側ではおじいちゃんたちが歌を歌い、子ども達は海遊びも終わってウトウト。
そこへ、バンジョーのメローディーが優しく響きます。
こうして夜は更けていき、しばらくして東の空が明るくなってくると・・・。
『コウモリうみへいく』の素敵なところ
- コウモリならではの海水浴と遊び方
- 丁寧に描き込まれた写実的で美しい絵
- 優しく歌うような心地いい語り
コウモリならではの海水浴と遊び方
この絵本のおもしろいところは、コウモリならではの夜の海水浴を、余すところなく見られるところでしょう。
行く時間はもちろん夜。
月が登って沈むまでの時間です。
これがまず、人間と正反対でおもしろい。
とてもウィットに富んだ対比になっています。
でも、海水浴での遊び方は、意外に人間と変わりません。
浜辺で砂遊びをしたり、お城を作ったり、サーフィンをしたり。
人間もよくやる遊びをコウモリたちがしているのは、親近感が湧きつつも、なんだかおもしろい光景です。
もちろん、翼のあるコウモリならではの遊びもたくさんあり、ロープを掴んで跳ぶコウモリあげや、自分の翼を帆にしてバランスを取るヨット遊びなどもしています。
けれど、もっともコウモリらしさがでるのは、やっぱり食事でしょう。
バスケットの中に入っているごちそうは、カブトムシ、アリンコ、ナメクジのピクルス、イトトンボのフライ・・・などなど、人間は「うえ~」となるようなものばかり。
これには子どもたちも、
「やだー!食べたくな~い!」
「ギャー!虫が入ってる!」
「そんなの食べるの!?」
と大騒ぎ。
それまで、海の遊びを一緒に楽しんでいたのが嘘のように、食文化の違いを痛感しているのでした。
さらに、虫の入ったマシュマロ、ムシマロの虫の足が思いっきり飛び出ているビジュアルや、アイスのお店でおいしそうに虫を食べる姿もあり、その食文化の違いは決定的なものに。
でも、それはそれで、軽いホラーのような感覚で楽しんでいる様でもありました。
この、遊びや食文化など、コウモリならではの海水浴をじっくりと見ることができるのが、この絵本のとても素敵なところです。
丁寧に描き込まれた写実的で美しい絵
また、この楽しい海水浴を、よりおもしろく、発見の多いものにしてくれている要素があります。
それが、とても写実的で、細かく描き込まれた絵。
コウモリたちを見るだけでもわかると思いますが、この絵本では、その毛並みや翼の質感まで本物そっくりに描かれます。
もちろん、コウモリたちだけでなく、海や、小物、焚火の火に虫まで、そのどれもが本当に細かく、本物そっくりに描き出されているのです。
だからこそ、コウモリたちと本当に海水浴に来ている気分になれるのでしょう。
その姿や表情から、水の気持ちよさや、空を飛ぶ楽しさがひしひしと伝わってくるようです。
さらに、丁寧に描き込まれているからこその楽しみがもう一つあります。
それは、文章には出てこないコウモリたちの姿もおもしろいということ。
水に足をつけて寒そうに身震いするコウモリ。
ストローの剣で戦いごっこをするコウモリ。
ビーチバレーをするコウモリ・・・。
など、見れば見るほど、おもしろいものが見つかります。
中には、
瓶の上で手紙を書いて、次のページで瓶の中に手紙を入れる。
というように、ページをまたいで動きを見せるコウモリも。
こんな風に、細かく描き込まれているからこその楽しみが、全てのページに詰まっているのです。
それはまるで、全てのコウモリが本当に生きているみたい。
そこには生きた世界が広がっているのです。
この、写実的に細かく丁寧に描くことで、見れば見るほどおもしろいものが見つかる生き生きとした海水浴場の景色もまた、この絵本のとても特徴的で素敵なところです。
優しく歌うような心地いい語り
さて、こうして絵を見ているだけでも楽しいこの絵本。
ですが、文章も同じくらい素敵です。
この絵本の文章には、どこか詩のような、歌うようなリズム感があり、聞いていても読んでいても心地いいものになっています。
例えば、冒頭の文章は、
「おひさま しずんで あたりは しずか。だんだん おそらが くらくなる。おものき、やねうら、ちかしつからも、コウモリたちが、つぎつぎ そらへ。きーきー ちーちー うれしそう。」
海水浴も終わりに近づいくころには、
「うたは おわって、あそびも おしまい。バンジョーの メロディーが やさしく ひびき、たきぎが ポンと おとを たてた。ちいさいこたちは おとなに くっつき、うとうと ねそうに なっている。」
といったように、とても優しく、包み込むような雰囲気になっています。
これは、遊んでいる時も同じで、楽しそうな中に、どこかお母さんから見守られているような不思議な安心感が漂います。
この安心感が、夜の海というロケーションと相まって、なんだかとても気分を落ち着けてくれるのです。
思いきりアクティブに遊んでいる場面でも、この安心感や落ち着きが感じられるのも、この絵本の不思議なところで、絵本全体から包み込むような雰囲気を感じます。
この聞いていると、とても楽しいのになんだか安心して眠たくなってくるような、不思議で温かく、心地のいい語りも、この絵本のとても素敵なところです。
二言まとめ
コウモリならではの遊びや食事、過ごし方が、とてもコウモリらしくておもしろい。
楽しくてワクワクするのに、不思議と安心感と落ち着いた気持ちに包まれる絵本です。
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