【絵本】はりねずみのルーチカ(4歳~)

絵本

文:かんのゆうこ 絵:北見葉胡 出版:講談社

妖精や動物が仲良く暮らす国。

そこに住むハリネズミのルーチカと、仲間たちの暮らしが楽しく美しく描かれます。

今日は、森へあかすぐりをとりに行くみたいですよ。

あらすじ

動物や妖精、不思議な生き物が仲良く暮らしているフェリエの国。

そのフェリエの森に、ハリネズミのルーチカは暮らしていました。

ある朝、ルーチカは美しい笛の音色で目を覚ましました。

窓を開け、笛の奏者を探しましたが、笛の音はぱたりと止み、代わりに風が吹き抜けました。

ルーチカは気を取り直し、朝ごはんを食べると、森へあかすぐりをとりに出かけていきました。

森へ向かっている途中、モグラのソルと、妖精のノッコに声をかけると、2人も一緒に行くことに。

3人で森を歩いてしばらくいくと、急に空が暗くなり始めました。

もうすぐ雨が降りそうなので、3人は木のうろの中へ。

すると、すぐに雨が降り始め、空を飛ぶ魚そらうおが森の中を泳ぎ始めました。

フェリエの国では雨が降る時、そらうおの群れがやってくるのです。

そらうおたちが行ってしまうと、すっかり雨も上がり、3人はまた歩き始めました。

その時、朝聴いた笛の音が。

ルーチカが笛の音がする方へ歩いていくと・・・。

そこにはたくさんのあかすぐりが咲いているではありませんか。

3人は、大喜びであかすぐりをたくさん摘みました。

あかすぐりをたくさん摘んだ3人は、小川に沿って歩きます。

小川は先ほどの雨で、いつもより流れが急になっていました。

と、その時、3人の目の前を誰かが流されていきました。

それは、テントウムシのニコでした。

3人は慌ててニコを追いかけますが、流れが速すぎて追いつけません。

ニコが沈みかけたその時・・・。

3人の横を風が吹き抜け、青い服を着た少年が軽やかにニコを助け出してくれたのです。

ニコがお礼を言うと、その少年はトゥーリだと名乗りました。

興味津々のソルとノッコが、トゥーリのことを色々聞くと、うつむいてしまうトゥーリ。

それを見たルーチカは、話を切り上げ、トゥーリの歓迎パーティーをしようと提案しました。

これにみんなも大賛成。

さっそく、ルーチカの家で歓迎パーティーが始まりました。

そのパーティーでトゥーリは・・・。

『はりねずみのルーチカ』の素敵なところ

  • 妖精が当たり前にいる世界での、不思議で幻想的で美しい暮らし
  • 想像が膨らむトゥーリの正体
  • フェリエの国と同じくらい美しい文章

妖精が当たり前にいる世界での、不思議で幻想的で美しい暮らし

この絵本のなにより魅力的なところは、フェリエの国という美しい世界観でしょう。

そこら中に、妖精や動物が当たり前のように暮らしている不思議な国。

そこには夢のようで、のどかで、幻想的な光景が広がっています。

ほのかに光り泡を吹くかわいい花。

その花の世話をする小さな妖精。

木の根元で本を読むウサギ・・・

など、見れば見るほど不思議がたくさん見つかります。

さらには、雨とともに泳いでくるそらうお。

妖精ノッコの木の上に建つ赤い屋根の一軒家。

不思議な少年トゥーリ。

など、そのすべてがファンタジー。

まさにおとぎ話の世界に入りこんでしまうのです。

けれど、そのファンタジーな世界はどこかリアル。

森の木々や流れる小川、草花などには現実感があり、本当の森の中にいるようなリアルさがあるのです。

それはまさに「森に足を踏み入れたら、そこが妖精たちの国だった」というような感覚と言えばよいのでしょうか。

本当にフェリエの国がそこにあると言うような、説得力があるのです。

きっと、この現実感とファンタジーのバランスが、ただかわいいだけでも、美しいだけでもない、幻想的な雰囲気を生んでいるのだと思います。

この、フェリエの国の幻想的な美しさと、そこでの不思議で魅惑的な暮らしを、森へ本当に足を踏み入れたかのように体験させてくれるのが、この絵本のとても素敵なところです。

想像が膨らむトゥーリの正体

そんなフェリエの森で、この日、新しい出会いがありました。

それが、不思議な少年トゥーリとの出会いです。

このトゥーリの謎多き描き方も、この絵本のとても素敵でおもしろいところです。

というのも、トゥーリの正体を探る様々なヒントは散りばめられているのですが、最後までトゥーリが何者で、どこから来たのかは明かされないのです。

ただ、トゥーリ、笛、風の関係性を見ていると、「風の妖精なのかな?」と推測できます。

子どもたちも、

「風の妖精じゃない?」

「ニコを助けた時、風が吹いたもんね!」

「笛を吹く時も風が吹いてた!」

と、この3つの関係性から、予想を立てていました。

けれど、はっきりとは言及されていないので、絶対の正解はありません。

これが、想像力を無限に広げてくれるのです。

「笛を吹いて風を吹かせてるのかな?」

「風の国を追い出されちゃったのかな?」

「お家はどこにあるんだろう?」

などなど、トゥーリの背景まで想像は膨らんでいきます。

この、なんとなくわかるけれど、はっきりとはわからないトゥーリの描き方に、色々な想像が浮かんでくるのも、この絵本のとても素敵なところです。

ぜひ、読み終わった後、子ども達とあれやこれや話してみてください。

きっと、その子ども達だけとのトゥーリ像が出来上がると思いますよ。

フェリエの国と同じくらい美しい文章

さて、このように絵も世界観も、本当に素敵なこの絵本。

ですが、この世界を語る文章も、それに負けないくらい美しいのがこの絵本のすごいところ。

この幻想的な世界を、その美しい文章でさらに彩ってくれるのです。

特に、素敵だと思ったのが、

「ルビーのように輝くあかすぐり」

「そらうおというのは、恵みの雨を連れてくる、大きな大きな魚たちです。」

そして、笛の音色を表現する言葉。

これは、音が出ない絵本という媒体で、笛の音のこの世のものとは思えない美しさを、絵と色合いと言葉を溶け合わせて、見事に表現しているので、絵本の中で読んでみてください。

頭の中に、その美しい笛の音が聴こえてくると思います。

もちろん、紹介した表現以外にも、文章の端々から美しさを感じられ、細かな表現や言葉遣いの一つ一つが美しくも、ファンタジーな雰囲気を醸し出し、世界観を作り上げ、彩ります。

この、絵と同じくらい大切な、物語を彩る美しい文章もまた、この絵本のとても素敵なところなのです。

二言まとめ

妖精や不思議な生き物が当たり前にいる、美しくて幻想的なフェリエの国に、心を奪われてしまう。

身も心も、ファンタジーの世界へと、思う存分浸ることができる絵本です。

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