作:軽部武宏 出版:小峰書店
ヤマネコのヤマピカリャーは流れ星を待っていた。
ついに流れ星が落ちた日。
ヤマピカリャーは落ちた流れ星を探しに山を下っていったのだった。
あらすじ
遠い遠い南の島に、年老いた1匹のヤマネコが住んでいました。
名前はヤマピカリャー。
ヤマピカリャーは、長い間、流れ星が落ちるのを待っていました。
そんなある晩、2つの輝く流れ星が落ちていたのが見えました。
ヤマピカリャーは流れ星を探しにさっそく出かけていきました。
ヤマピカリャーが山を下っていくと、ウリボウの兄弟に出会いました。
ウリボウも流れ星を見たそうだったので、一緒に行くことになりました。
しばらく行くと、目の前に大きな目が立ちはだかっています。
しかし、近づいてみると、それは大きな蛾の羽模様でした。
蛾は近道のトンネルを教えてくれました。
トンネルを抜け川を渡り、ヤマピカリャーが山の中をさ迷い歩いているうちに、たくさんの生き物たちがついてきました。
いつの間にか、ヤマピカリャーの後ろには動物たちの長い行列。
と、その時、どこからともなく花びらが降ってきました。
その甘い匂いに誘われるように、ヤマピカリャーと動物たちが歩いていると、見えてきたのは海。
その波打ち際に、なにかが光っているではありませんか。
もしかして流れ星?
『ヤマピカリャー~西表島のヤマネコのおはなし』の素敵なところ
- ドキドキが連続する流れ星探しの旅
- 不気味だけれど美しい夜の山
- 衝撃的で考察しがいのある最後の場面
ドキドキが連続する流れ星探しの旅
この絵本のなによりワクワクするところは、落ちた流れ星を探すというところでしょう。
流れ星を見るだけでも素敵なのに、それを拾うことができるかもしれないなんて夢のようです。
そりゃあ、探しに行かないわけにはいきません。
もう出発の時点で、ワクワクが止まらないのですが、その道中にはドキドキすることが盛りだくさん。
夜の山なので、そこかしこから生き物の気配がし、色々なものが出てきます。
草むらを揺らして出てくるウリボウ。
遠くから見ると大きな目に見える蛾の羽。
草むらに光る金色の目。
などなど、蓋を開けてみれば、害のない生き物だったのですが、正体がわからない時のドキドキ感は相当なもの。
野生の世界に生きている緊張感が常に付きまとってくるのです。
「本当に流れ星がみつかるのか?」
「流れ星はどんな形をしているのか?」
「すごい猛獣が出てくるんじゃないか?」
そんなドキドキワクワクが、ずっと続くヤマピカリャーの流れ星探しの旅。
この、困難に立ち向かいながら、宝を探すようなドキドキワクワクの冒険感を、ヤマピカリャーの旅から感じられるのが、この絵本のとても素敵で夢中になってしまうところです。
不気味だけれど美しい夜の山
また、このドキドキワクワク感を盛り上げるのに欠かせないのが、不気味でありつつも美しい夜の山を描いた絵です。
静まり返った夜の山。
ですが、そこには多くの命が感じられ、静かなのに賑やかです。
そんな雰囲気が、この絵本のそこかしこから発せられているのです。
夜の闇の中で、月明かりを反射して、目だけが光る生き物たち。
揺れる草むら。
満天の星空の下、うごめく森には霊的なものすら感じます。
それは不気味でありながらも、厳かで神々しいような不思議な感覚。
まるで、自分が夜の山に迷い込んでしまい、不安なのに、妙な高揚感も感じてしまっている時のような感覚になるのです。
この、夜の山が持つ、不気味だけれど美しい、自然そのものの魅力を心の底から感じ取れる絵もまた、この絵本のとても魅力的で見入ってしまうなところです。
衝撃的で考察しがいのある最後の場面
さて、こうして山の中を歩き回り、海に出たヤマピカリャー。
そこで2つの輝くものを見つけます。
この後の展開が、予想の斜め上を行く、衝撃的なものになっているのがこの絵本のとてもおもしろいところです。
それが本当に流れ星だったのかはわかりませんが、その美しさや不思議な力は確かに人智を越えたもの。
きっと流れ星だったのでしょう。
ですが、驚かされるのはこの後。
その不思議な力を使ったヤマピカリャーの行方です。
不思議な力を使い楽しそうなヤマピカリャー。
てっきり戻ってきて、流れ星を宝物のように持って帰るのかと思いきや、まさかの最後を迎えます。
この最後を見てみると、ヤマピカリャーの素性など、これまで気にならなかったことに興味が湧くのがとてもおもしろい作り。
流れ星の不思議な力を発揮するには、あまり思いつかないような使い方をしなければいけません。
でも、ヤマピカリャーはそれを最初から知っていたようです。
しかも、その力をコントロール出来ている様子。
なのに、あの最後ということは、ヤマピカリャーは元々そのつもりだったのかも?
そうなってくると、最初の場面が気になってきます。
ヤマピカリャーが年老いていること。
ずっと流れ星を待っていること。
この島の名前や、ヤマピカリャーがイリオモテヤマネコではなくヤマネコと呼ばれていること。
これらを組み合わせると「ヤマピカリャーはこの島のヤマネコではないのでは・・・?」などなど、色々な考察がはかどるのです。
一見、衝撃的で突拍子がなく見える最後の場面ですが、考えれば考えるほど色々なことが想像できる、この最後の場面もまた、この絵本ならではのとてもおもしろく素敵なところです。
二言まとめ
流れ星を探しに、不気味で美しい夜の山を冒険するドキドキワクワク感がたまらない。
衝撃的な最後にあっけにとられつつも、そこからさらに想像が膨らんでいく絵本です。
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