作:京極夏彦 絵:城芽ハヤト 編:東雅夫 出版:岩崎書店
物を粗末にすると化けて出る。
おじいちゃんはその言葉を信じ、とても物を大切にしていました。
でも、ある日、なぜか大切にしていたものがオバケに・・・。
あらすじ
男の子は、いつもおじいちゃんから「物を大切にしないと化けて出るよ」と言われてきました。
でも、化けて出るってどういうことなのでしょう。
道具がオバケになってしまうということなら、嫌だなと思っていました。
でも、男の子は化けて出ても出なくても、物を大切に使っていました。
なくなったら困るし、新しいものを買ってもらえるとも限らないから。
おじいちゃんはそんな男の子を見て、物を大切にするいい子だと言いました。
男の子はおじいちゃんも物を大切にしているのか聞いてみることに。
すると、おじいちゃんは大切にしているものを見せてくれました。
ほうきや下駄に傘など、おじいちゃんの家には、おじいちゃんのお母さんの頃から大切に使っているものがたくさん。
おじいちゃんは、昔のものは大切に使えば100年でも使えるのだと教えてくれました。
と、その時、持っていたほうきが突然お化けに。
さらに傘や下駄もオバケになって、おじいちゃんと男の子を追いかけてきたのでした。
大切に使っていたと思っていたのに化けて出た道具たち。
おじいちゃんは、なにが悪かったのかオバケたちに聞いてみました。
すると、オバケたちは悪くなんかないと言い、道具は100年経つと化けるのだと教えてくれました。
そして、100年大切に使われ化けて出た道具たちは、あることをするのだということも。
『つくもがみ』の素敵なところ
- 「物を粗末にすると化けて出る」という古くからの大切な言い伝え
- 日ごろ使っている道具を見つめ直す尊い時間
- 自分も会いたくなるつくもがみ
「物を粗末にすると化けて出る」という古くからの大切な言い伝え
この絵本のとても素敵なところは、普段忘れがちな「物を大切にする」ということを、深く考えさせてくれるところです。
きっと多くの人が聞いたことのある「物を粗末にすると化けて出る」という言い伝え。
この言い伝えをもとに、身近な道具が化けて出るとどうなるか?
物を大切にするってどういうことなのか?
を改めて考えます。
この時、男の子の視点で考えて見せてくれるのが、この絵本のおもしろいところ。
身近なものを壊したり、使えるものを捨てたら化けるのかな?
どれもないと困るし、新しいものを買ってもらえないと困るから、大切にするのは当たり前。
使えなくなったり、無くなったら不便だから、わざと壊したり、使えるのに捨てたりなんてするもんか。
と、男の子の素直な目線で、物を大切にするということや、化けて出るということについて考える姿が描かれているのです。
だからこそ、子どもたちにも伝わり、物を粗末にしない大切さを素直に考える機会になるのでしょう。
加えて、長い時間ものを大切にしてきたおじいちゃんの目線が入るのも、この絵本のすごいところ。
実際に物を100年大切にしてきたおじいちゃんの言葉には、男の子にはない重みがあります。
特に、おじいちゃんのお母さんの時から使っているという言葉には、子どもたちもびっくり。
「おじいちゃんのお母さんってすごい長く使ってるじゃん!」
「そんなに長く使えるんだ!?」
「うちのおじいちゃんちにもあるかな?」
と、その長さを実感できたようで、そんなに長く使えることへの驚きと、古い道具への興味が湧いているようでした。
この、男の子の自分たちに近い目線と、おじいちゃんの100年使い続けてきた目線。
その両方で「物を粗末にすると化けて出る」という古い大切な言い伝えを通して「物を大切にする」ことを考えさせてくれるのが、この絵本のとても素敵なところです。
日ごろ使っている道具を見つめ直す尊い時間
こうして、「物を大切にする」ということを考えていると、目に入ってくるのが自分の身近な道具たち。
この絵本を見てから身の回りの物を見ると、大切に使っているかや、化けて出たらどんなオバケになるのか自然と気になってきます。
と、同時に粗末に扱っているものを見た時に、ズキンと心が痛む感覚も。
この絵本を見ていると、化けて出る姿を見ているからか、すべてのものに心が宿っているように思えてくるのです。
この、すべてのものが化けて出るかもしれないと、身近なものを見つめ直す機会になるのも、この絵本のとても素敵なところ。
物にも心が宿っていると思うと、大切にする使い方も変わってきます。
「こうしたら喜ぶかな?」
「きれいにしてあげた方が気持ちいいもんね!」
と、道具としてよりも、自分に近いものとして扱うようになったりします。
ぜひ、この絵本を通して、物を見つめ直し対話する機会を作ってみてください。
その体験はきっと子どもにとって、尊くかけがえのない時間になると思います。
自分も会いたくなるつくもがみ
さて、こんな風に物の大切さについて深く考えてきた男の子とおじいちゃん。
ですが、なぜか道具が化けて出るという緊急事態が起こります。
ここで初めて「大切にしていても100年経つと化けて出る」ということが判明。
彼らはつくもがみということがわかります。
しかも、オバケはオバケでも、100年大切に使われたつくもがみは、とても楽しいオバケ。
むしろ出てきて欲しいと思えるオバケです。
このつくもがみとの楽しそうな最後の場面も、この絵本のとても楽しいところで、最大の見どころです。
100年大切に使った物たちと、楽しそうにまるで子どもに戻ったように遊ぶおじいちゃん。
その姿だけで、物を100年大切にしようと思えてきます。
さらに、つくもがみという存在の素敵なところは、自分の身近な物すべてがつくもがみになるかもしれないと思えるところ。
自分のお気に入りの道具が意思を持ち、こうして一緒に遊べるかもしれない。
それがどんなに嬉しいことか。
大切にしている人形と話せるかもしれない。
大好きな絵本がしゃべりだすかもしれない。
ヒーローロボットが動き出すかもしれない。
そう思っただけで心が躍り、とても幸せな気分になることでしょう。
この、おじいちゃんとつくもがみが遊ぶ姿を通して、自分の身近な物がつくもがみになり一緒に遊ぶ姿を想像させてくれ、それが物を大切にすることへ繋がるところもまた、この絵本のとてもとても素敵なところです。
ぼくも子どもの頃つくもがみを知り、その頃のパンダのぬいぐるみを今も大切に持っているのはここだけの秘密です・・・。
二言まとめ
「物を粗末にすると化けて出る」という言い伝えを元に、物を大切にするということを深く考えさせられる。
見れば、自分の身近なものもつくもがみになってほしいと、物を大切にしたくなるオバケ絵本です。
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