作:クロケット・ジョンソン 訳:岸田衿子 出版:文化出版局
壁に絵を描き始めたはろるど。
どんどん描いて行くうちに、いつの間にか絵の中へ。
遠近や大小がころころ変わる、絵だからこその、不思議な冒険が始まります。
あらすじ
はろるどは壁に絵を描きたくなり、真っ直ぐな線を描き始めた。
その線に、紫色のクレヨンで家を描いた。
さらにたくさん家を描くと小さな町。
小さく見えるから遠くの町だ。
町のそばに森を描き、その町へ続く道を、町から自分の足元まで伸ばしていった。
はろるどは、月夜だったらきれいだと思い、絵の中の道を登り、町まで来て、町の上に三日月を描いてみた。
はろるどはまるで巨人のよう。
はろるどは、町の人が気付く前に町をまたいで外に出た。
どんどん丘を描いきながら進んでいく。
丘をひとまたぎできるなんて、はろるどはなんて大きいのだろう。
陸地を描くのは終わりにし、そこからは海を描いた。
はろるどはとても大きいから、海の中も歩いて進める。
帆掛け船を描いた後、その先に崖を描いた。
はろるどが崖を登るために足場になる岩も。
崖の上には灯台。
帆掛け船の船員に崖があるのを知らせるためだ。
はろるどはそのまま山を描き始めた。
飛行機も。
はろるどは一番高い山より高く、飛行機をよけないとぶつかりそうなほど大きかった。
山間には谷があり、その谷には線路が敷いてある。
手前に向かって線路を伸ばしていくはろるど。
最初はとても細かった線路は、手前に来るにつれ幅が広くなっていく。
描ききった時には、本物の線路と同じくらいの広さになっていた。
はろるどは線路の上を歩きながら、花や鳥を描いていく。
さらに線路も伸ばしていく。
そうしているうちに、はろるどは気付いた。
自分がとても小さくなっていることに。
気付けば線路はとても大きくなり、自分は花や鳥より小さな小人になっていた。
これでは小さすぎて、山を越えるなんて無理だ。
家に帰れないかもしれない。
・・・と、思ったが、はろるどはこれがただの絵だと気付いた。
自分の描いた絵にバツを描き、自分は大きくも小さくもないいつも通りだと考えて、家路についた。
でも、はろるどは思った。
本当にそうだろうか・・・?
そこであることをして確かめてみることにした。
『はろるどのふしぎなぼうけん』の素敵なところ
- 絵の中に入り込み自由に世界を作れるおもしろさ
- 遠近法をフルに使った不思議な冒険
- 絵の世界と現実の世界の曖昧な境界線
絵の中に入り込み自由に世界を作れるおもしろさ
この絵本のなによりおもしろいところは、自分の描いた絵の世界に入り込んでしまうところでしょう。
しかも、入り込んだ世界を、自分で絵を描き広げていくことができるのだからたまりません。
自分で描いた道を歩き、町へ行き、そこから丘へと続いていく。
昼や夜も自由自在。
陸地も海も好きなように繋げられます。
きっと、海の中に潜っていけば、深海の世界にも行けることでしょう。
宇宙へ飛び立つことだってできるに違いありません。
この自由さが、この絵本のとても素敵なところです。
子どもたちも、
「イルカも描きたい!」
「お城も描いたらいいのに!」
「海の中にも潜れるのかな?」
と、絵のイメージがどんどん広がってくみたい。
これにははろるどが、思いつくままに絵を描いていくという、子どもらしい絵の描き方をしていることも関係あるのでしょう。
はろるどとシンクロすることで、自分も絵の中に入った気持ちになると同時に、自分が描いた絵にも入れるような期待感が湧いてきます。
そうなったらどんなに楽しいだろうか。
そんな夢が自然と膨らんでいくのです。
この、自分の絵で好きなように世界を作っていける、絵というものの自由なおもしろさを味あわせてくれるのが、この絵本のとても素敵なところです。
遠近法をフルに使った不思議な冒険
また、この絵本には絵ならではのおもしろさが、もう一つあります。
それが遠近法をフル活用したおもしろさ。
はろるどの絵は、あくまで絵なので、はろるどが絵の中に入っても、縮尺が変わることはありません。
絵の中の町に入り込むと、家が大きくなり、自分がその町の住人のようになるというのはよくありますが、この絵本ではそんなことはありません。
はろるどが遠くの町として小さく描いたものは、はろるどが近づいても小さなままなのです。
これが本当におもしろい。
はろるどが画面の奥に行けば行くほど、巨人になり、画面の手前に行くほど小人になっていくのですから。
月を描きいれるハロルドは町より、雲より、飛行機よりも大きな巨人。
けれど、線路を伸ばして手前に来るにつれ、花より小さな小人になるはろるど。
これがシームレスに繋がっていくので、子ども達も最初は気付きません。
当たり前のように、はろるどが大きくなったり小さくなったりするのを、冒険を楽しみながら見ています。
ここで、この絵本にはおもしろい仕掛けが一つ。
要所要所で、
「はろるどは丘をひとまたぎ。「ぼくはなんて大きいんだろう!」。」
「この時、はっと気が付いた。はろるどは、なんて小さくなっていたんだろう。」
というように、はろるどが、大きくなったり小さくなったりしていることに、気付かせてくれる言葉が組み込まれているのです。
これを聞いて、はっと気づく子ども達。
「ほんとだ!はろるどが巨人みたいになってる!」
「あ!さっきまで山より大きかったのに!」
「不思議~!」
と、なんでこれまで気づかなかったのか不思議と言わんばかりに驚いていました。
この、遠近法をフルに使った冒険の不思議さとおもしろさを、しっかりと子どもに気付かせて絵のおもしろさや奥深さを感じさせてくれるのもまた、この絵本のとても素敵なところです。
絵の世界と現実の世界の曖昧な境界線
さて、こんな風に大きくなったり小さくなったりしながら、描き続けていったはろるど。
ですが、最後の場面で、驚くべきことに気付きます。
それが、これまでのものはすべてただの絵だということ。
これは中々の禁じ手でしょう。
描いたものにバツを描いて、なかったことにできるのですから。
ここまで描いた絵を絵として扱う絵本も珍しい。
子どもたちも、不思議な冒険の世界から、現実の世界へといきなり引っ張り出されてびっくり。
「えー!?」
「そんなことしていいの!?」
と、驚きの声があがります。
けれど、ここで終わらないのが不思議な冒険の不思議さです。
はろるどは、一度は遠近法による自分の大きさの変化を否定しますが、「本当にそうだろうか?」と疑問に思い始めます。
そこで、実験としてある絵を描くのです。
結果的に、自分の大きさがいつもと同じだと確認するのですが、ここで現実世界と絵の世界の境界がものすごく曖昧に。
絵本の中では、「現実世界に戻りめでたしめでたし」のように終わるのですが、よく考えると「本当に現実の世界なのか?」という疑問が浮かびます。
これがこの不思議な冒険の最後の不思議。
考えれば考えるほど、パラドックスのようにこんがらがっていくのです。
子ども達も、
「まだ絵の中にいるんじゃないの?」
「この絵の中にも入れるのかな?」
「ずっと自分の部屋にいたってこと???」
などなど、頭がこんがらがりつつも、色々な想像が膨らみます。
この、最後の最後に一番の不思議を投げかけてくる、不思議な冒険の結末も、この絵本のとても見ごたえのあるところです。
ぜひ、見た後に、自分だけの絵の世界へ冒険に出かけてみてください。
長い模造紙を使って、際限なく世界を広げていけるようにすると、きっと見たこともない世界へ旅立てると思いますよ。
二言まとめ
絵の特性と遠近法をフル活用した、トリックアートのような不思議な冒険がたまらなくおもしろい。
自由自在に世界を作れる絵のおもしろさを、思いきり味わえる絵本です。
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