【絵本】とこやのザリガニータ(4歳~)

絵本

作・絵:タツトミカオ 出版:ひかりのくに

ザリガニの床屋さんは自慢のハサミで大繁盛。

野菜や虫など、毎日たくさんのお客さんが訪れます。

そんなある日、店の前に大きな影が・・・。

あらすじ

夏の畑の脇を流れる小川のほとり。

そこに、ザリガニの床屋さんザリガニータの店がありました。

見習のサワガニ、サワガニッチと一緒にお店を開いています。

最初にやってきたお客さんは汗だくのトウモロコシ。

髪が暑いので、短くオシャレにしてほしいとのこと。

ザリガニータは、注文通り、髪を短く切り、カーラーを手際よく巻き、ウェーブのかかったオシャレな髪形に仕上げました。

トウモロコシは大満足。

嬉しそうに帰っていきました。

それと、入れ替わりで入ってきたのはナス。

時代劇の写真を持っています。

どうやら、その写真と同じようなちょんまげにしてほしいようです。

ザリガニータはへたを手際よく結い上げて、見事なちょんまげを作ってくれました。

ナスも大喜びで帰っていったのでした。

次にやってきたのは、糸だらけのクモ。

どうやら、自分の糸に絡まってしまったみたい。

ザリガニータはべたつき止めのスプレーをかけた後、糸を切ってくれました。

さらにそれだけではなく、切った糸をクモの頭に集め、かわいい髪の毛に。

クモはその髪型をうっとり眺めながら帰っていったのでした。

こうして、店が終わり、片付けをしていたその時。

急に、店が揺れ、パシャパシャという怪しい音が聞こえてきました。

その音は段々とお店に近づいてきます。

2人が外を見てみると・・・

大きな鳥が鋭い目つきで、店の中を覗き込んでいるではありませんか。

ザリガニータは、店が潰されては大変と、外へ飛び出し、ハサミを振り上げました。

ところが、鳥にくわえられてしまったザリガニータ。

必死にハサミで鳥の頭をはさみます。

鳥はあまりの痛さに大暴れし、ハサミを引きちぎって飛び去っていったのでした。

なんとか店を守り、生き延びることができたザリガニータ。

ですが、大切なハサミを片方失ってしまいました。

ザリガニータはやる気を失い、しばらく店を閉めることにしたのでした。

ですが、何日経ってもザリガニータは落ち込んだまま、けれどお客さんはたくさん来ます。

そこで、サワガニッチが代わりに切ることに。

しかし、うまくいかず、失敗ばかり。

サワガニッチは泣きべそをかいてしまいます。

そんなサワガニッチを見ているザリガニータは、ちぎれたハサミの付け根をかきむしってばかりです。

それを見た、サワガニッチは自分が泣きべそをかいているのにと、怒りました。

それでも、かゆくてかきむしるザリガニータ。

ついにガーゼが取れてしまいます。

でも、取れたガーゼの下からは・・・。

『とこやのザリガニータ』の素敵なところ

  • お客さんの特性に合わせたオシャレな髪形
  • 急に訪れる絶体絶命の大ピンチにドキドキ
  • ザリガニの特性を活かした最後場面

お客さんの特性に合わせたオシャレな髪形

この絵本のとてもおもしろいところは、身近なザリガニが、身近な野菜や虫の床屋さんをしているところでしょう。

しかも、その腕前は確かで、仕上がりはどれもオシャレです。

でも、ただオシャレなだけで終わらないのも、この床屋さんのすごいところ。

髪が長いトウモロコシは、その元々もウェーブを活かし、カーラーだけでパーマのように仕上げます。

ナスのちょんまげにしたいという願いは、長いへたを活かして結い上げ見事なちょんまげに。

クモの糸は粘着性を活かして、ウィッグのように・・・

というように、多種多様なお客さんの特性を、思う存分活かしつつ、オシャレに仕上げてくれるのです。

このトウモロコシのひげや、ナスのへた、クモの糸を髪の毛に見立てる発想が、とてもおもしろいところ。

見方によって、色々なものが髪の毛に見えてくることでしょう。

それを、ザリガニータのお役様に寄り添ったアイディアで、不可能と思えるような髪形も、手際よく実現してしまうのが、この絵本のとても楽しく気持ちのいいところです。

急に訪れる絶体絶命の大ピンチにドキドキ

こうして、大繁盛しているザリガニータの床屋さんですが、急にピンチが訪れます。

揺れて暗くなる店内。

近づいてくる不気味な音。

まるでホラーのような展開です。

急な雰囲気の変化に、子ども達もびっくり。

「え!?どうしたの!?」

「こわいこわい・・・」

「怪物がきたのかな・・・?」

と、身を寄せ合い一気に体がこわばります。

これまでの平和な雰囲気が嘘のように静まり返ってしまいます。

さらに、現れた鳥を見て愕然。

どう見たって、ザリガニが敵う大きさではありません。

それでも、店を守るため、戦うザリガニータ。

自然と応援の声にも力が入ります。

「がんばれー!」

「食べられちゃったよ!?」

「逃げてー!」

などなど、まるで本当に目の前で壮絶な戦いが繰り広げられているかのような熱量です。

この、絶体絶命のピンチに立ち向かうドキドキの展開も、この絵本のとてもおもしろく盛り上がるところです。

しかも、ハサミが引きちぎられるという衝撃の結末。

これには子どもたちも驚きのあまり「あっ!」と声を失ってしまいます。

食べられなかったことに安心しつつも、ハサミを失ったことにザリガニータと一緒に落ち込む子どもたち。

でも、この後味の悪さは、最後の場面へのバネとして、とてもいい伏線になってくれるのです。

ザリガニの特性を活かした最後場面

さて、命と引き換えに、片方のハサミを失ってしまったザリガニータ。

しばらく、どんよりとした空気感が続きますが、最後はハッピーエンドで終わります。

この終わり方が、なんともザリガニの特性を活かした生物学的なものになっているのも、この絵本の素敵なところ。

なんなら、鳥との戦いで、ハサミを犠牲にしたのも、ザリガニの特性を描いたものとなっています。

それはトカゲのしっぽ切りのような、人間では考えられない戦い方。

その驚くべき特性を、ザリガニータというキャラクターと、この物語を通し伝えてくれるのです。

おもしろいのは、このザリガニの特性を知っていても知らなくても楽しめるというところ。

知っていれば、この結末を予想したり、鳥との戦いの際に、ザリガニの戦い方が再現されていることへ驚いたり感心することでしょう。

知らなければ、後々に、ザリガニが本当にこんな戦い方をすると知った時、ザリガニータが頭に思い浮かび驚くことでしょう。

こんな風に、ザリガニの特性が、きれいに物語にはめ込まれていることで、自然とザリガニへの興味や知識へ繋がるのも、この絵本のとてもおもしろいところなのです。

ぜひ、この絵本を読んだら、ザリガニ釣りにも行ってみてください。

きっと、本物のザリガニを見ることで、もう一度この絵本を開きたくなると思いますから。

二言まとめ

どんな注文へも手際よく応えてくれる、ザリガニータの仕事ぶりが気持ちいい。

ザリガニの特性を活かした物語に、本物のザリガニへの興味も湧いてくる絵本です。

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