作・絵:りとうようい 出版:金の星社
イボイノシシの母ちゃんは、2児の母。
でも、ある日、子ども達に魔の手が迫る。
そんな時、頼れるのは・・・この強靭な肉体だけ!!!
あらすじ
イボイノシシの母ちゃんが、サバンナで2匹の坊やたちに、乳を飲ませていました。
その時、坊やを狙って、ハイエナの群れが近寄ってきました。
母ちゃんは、坊やたちを体の後ろに隠すと・・・
ハイエナたちに突進し、見事に蹴散らしてしまいました。
と、その時、隙をついたチーターが、坊やの元に迫っています。
さらに、もう一匹の坊やがワシにつかまり空へ。
ワシを追いかける母ちゃんは目の前にキリンを見つけました。
キリンの背中をお借りして、キリンの頭の上へ駆けあがる母ちゃん。
そして、ジャンプ!
そのままワシに激突し、なんとか坊やを助け出したのでした。
けれど、安心もしていられません。
今度は、もう一人の坊やを追っているチーターめがけて、そのまま落下。
けれど、外れて地面にドシン!
このままでは坊やがチーターに食べられてしまいます。
と思った瞬間・・・
『たすけてー』の素敵なところ
- 優しくて、強くて、頼りになるおちゃめな母ちゃん
- 疾走感あふれる絶対絶命なピンチの連続
- ピンチなのに笑いの絶えないおもしろさ
優しくて、強くて、頼りになるおちゃめな母ちゃん
この絵本の特徴的なところは、母ちゃんの圧倒的な存在感でしょう。
表紙の絵から伝わるように、とても優しく、思いやりに溢れた母ちゃん。
けれど、ひとたび坊やに危機が迫れば、その優しい顔は一転、野生の顔に変わります。
特に、度肝を抜かれるのが、ハイエナに襲われた場面。
完全に捕食者の顔をして現れたハイエナに、子ども達は、
「ハイエナが来た!」
「食べられちゃうよ~」
と、とても不安そうな顔。
でも、ページをめくったとたん、ハイエナを蹴散らしている母ちゃん。
ハイエナの表情も、母ちゃんのあまりの強さに恐れおののき情けない顔に。
これには、
「母ちゃん、つよっ!?」
「めっちゃ強いじゃん!」
と、みんな驚きを隠せず、その蹴散らしっぷりに目玉が飛び出していました。
さらに、ピンチが続きますが、どんなに絶体絶命でも諦めません。
使えるものはすべて使い、坊やを助けようとする姿は、まさに頼れる母ちゃんです。
この、坊やたちへの優しさと、坊やがピンチになった時の豹変っぷりという、母ちゃんという存在の様々な顔を描き出しているのが、この絵本のとてもおもしろく素敵で度肝を抜かれるところです。
最後の最後で、失敗してしまうおちゃめさもぜひ見てみてください。
疾走感あふれる絶対絶命なピンチの連続
こんな風に、頼れる母ちゃんですが、絶体絶命のピンチが怒涛のように押しよせてきます。
ハイエナを蹴散らしたら、チーターが坊やを追いかけ、もう1匹の坊やはワシにつかまりと、とてもじゃないけど、母ちゃんの体一つじゃさばききれないレベルです。
このページをめくるたび、ピンチが起こる疾走感と絶望感もまた、この絵本のとてもおもしろくハラハラドキドキするところ。
だって、ピンチが解決する前に、次のピンチが起こっていくのですから。
頭を整理する暇もありません。
そして、それは母ちゃんも同じです。
じっくり考える時間のない中で、対処していかなければいけない忙しさ。
ここで、子ども達と母ちゃんの気持ちがリンクするのでしょう。
気付けば、大きな波に乗っているかのような、不思議な気持ちよさが生まれます。
ただ、走り抜けるしかない疾走感とでもいうのでしょうか。
ワシを追いかけ、キリンの背中をかけ登り、ジャンプしてワシを撃退し、そのままの流れで、チーターめがけて落下する・・・
という、考えているような、ただただ走っているような不思議な感覚。
この、次々起こるピンチに、考えている暇もなく、ひたすら走り抜けていくという、まさに母ちゃんと同じ心境を味わえるのも、この絵本のとてもおもしろいところです。
ピンチなのに笑いの絶えないおもしろさ
さて、このように、ピンチが続き、ハラハラドキドキし続けるこの絵本。
ですが、不思議なことに笑いも絶えないのがおもしろいところです。
それは、それぞれの場面が、とてもコミカルに描かれているからでしょう。
ハイエナを蹴散らす場面は、まるでドタバタ劇のように。
ワシに頭突きする場面は、ロケットのように直立不動でぶつかります。
特に、爆笑が起こるのが、チーターを外して地面に激突する場面。
誰もが、チーターにぶつかると思っていたからこそ、その失敗と、まるでギャグマンガのような、地面へのめり込みっぷりに、
「ぶつかっちゃった!?」
「地面に埋まってる!」
「顔つぶれてるー!」
と、大爆笑。
さらに、その影響が強く残る最後の場面でも、母ちゃんの頭を見てまた大爆笑が起こっていました。
この、見るだけでおもしろい絵のコミカルさもまた、この絵本のとてもとても魅力的なところです。
きっと、絶体絶命なピンチのハラハラドキドキ感と、母ちゃんの一生懸命さ、そこにコミカルさがバランスよくブレンドされているからこそ、子ども達が何度見ても夢中になってしまうのだと思います。
二言まとめ
母ちゃんが、一生懸命かつ、コミカルに絶体絶命のピンチを蹴散らしていくのが、たまらなくおもしろい。
ハラハラドキドキしながらも、常に笑いが絶えない、母親の愛情が詰った絵本です。
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