作:田島征三 出版:偕成社
遠足の日に遅刻した。
一本後のバスで追いかけたけど、着いた所は「しらないまち」。
目の前を、タンポポが歩いていき、道端には小鳥が生えている!?
あらすじ
遠足の日、妹が家から飛び出し、お兄ちゃんにお弁当を渡してくれた。
おにいちゃんは、お弁当を受け取り急いだが、予定のバスに間に合わなかった。
すぐに次のバスに乗ったが、どうやら行き先が違っていたみたい。
「しらないまち」で、バスを降り歩いていると、目の前をタンポポの子どもたちが歩いていた。
男の子は驚いた。
よく周りを見ると、道には草の代わりに小鳥が生えている。
小川には、パイナップルやバナナやマンゴーが泳いでいたので、男のことはバナナを2匹捕まえた。
畑では牛や豚や魚が育っていて、
この町の人は車の代わりに、ダンゴムシに乗っている。
男の子がバナナを食べていると、キリギリスがやってきて、バナナをくれたら町まで乗せていってくれると言ってきた。
男の子はキリギリスにバナナをあげ、背中に乗せてもらうことにした。
到着した町は野菜でできていた。
町に着いたキリギリスは、バナナだけでは足りなかったらしく、スイカで出来たビルを食べ始めた。
男の子は怖くなり、ビルの住人と一緒に逃げ出した。
お腹がペコペコだったので、ベンチに座りお弁当を食べようとしたら、イヌのような街路樹におにぎりを食べられてしまった。
仕方がないのでハンバーガー屋さんにいったが、ハンバーガーではなくネコの植木を売っていた。
歩き回ってようやくレストランを見つけ入ると、そこはタンポポのレストランだった。
そこでは、お風呂にも入れてくれるらしい。
言われた通り、男の子がお風呂に入っていると、上の方から「いただきます」という声がした。
その声の主は、なんと大きなタンポポ。
男の子の入っているお風呂を掴むと・・・。
男の子は無事に知っている町に戻ることができるのでしょうか?
『しらないまち』の素敵なところ
- なにもかもがめちゃくちゃでおもしろい「しらないまち」
- おもしろいような恐ろしいような奇妙な体験
- あっけにとられたまま終わる物語
なにもかもがめちゃくちゃでおもしろい「しらないまち」
この絵本のなによりおもしろいところは、「しらないまち」のめちゃくちゃな世界観でしょう。
タンポポが歩き、小鳥が生えて、畑で豚や牛や魚が育てられている。
その、植物と食べ物が反対になった世界はまさにめちゃくちゃ。
まるで、子どもがその場の思い付きで話す「こうだったらおもしろいよね!」という話くらい突拍子がありません。
でも、だからこそおもしろい。
最初は、だいぶ話の流れが予想と違っていたらしく、驚いている子ども達でしたが、すぐにこの世界観が気に入り大笑い。
ページをめくるたび、新たなネタが出てくる様は、まさに大喜利のようで、
「えー!?」
「バナナが泳いでるだって!」
「なんでー!?」
と、もう笑いが止まりません。
しかも、最初から最後までノンストップで、奇妙なものが出てくるからたまらない。
ほとんど笑いっぱなしで、駆け抜けていくのです。
この、予想の遥かに上を行く、めちゃくちゃすぎる「しらないまち」の世界観が、この絵本のとてもおもしろく特別なところです。
おもしろいような恐ろしいような奇妙な体験
ですが、この笑いの中に、めちゃくちゃ過ぎるからこその、薄気味悪さが適度にブレンドされているのも、この絵本の奥が深いところとなっています。
空腹と言う理由だけで、ビルを食べ始めるキリギリス。
弁当を奪い取る街路樹。
最後の場面で出てくる大きなタンポポ・・・。
など、笑いつつも、どこか背筋が冷たくなる場面が練り込まれているのです。
それは、1人で外国に来た時の不安のようなものなのでしょうか。
自分の全く知らない文化や環境に踏み入った時の、本能的な不安感や防衛本能なのだと思います。
そこには、自分の慣れ親しんだ秩序はなく、ずっと心が休まらない。
そんな、まさに「しらないまち」にいる感覚が、常につきまとっているのです。
この、ひとつひとつの場面はめちゃくちゃで笑えるのだけど、驚きに慣れてきた時、「しらないまち」に1人いる気味悪さを感じられるのも、この絵本のとてもおもしろいところです。
きっと大人が読んだら、『世にも奇妙な物語』を観ているような感覚になると思いますよ。
あっけにとられたまま終わる物語
さて、この奇妙な旅の最後の場面。
これがまた、なんともあっけにとられたまま終わるのも、この絵本の特徴的なところです。
無事家には帰ってくるのですが、その帰り方がなんとも特殊。
もちろん、バスに乗っては帰ってきません。
ただ、そんな特殊な帰り方をしているのに、お母さんや、妹の反応が不思議に満ちているのです。
まるで「こんなこと日常茶飯事」とでもいうような空気感。
この驚きとともに最後の場面を見ている子どもたちと、当たり前のように不思議な現象を受け止める男の子の家族。
この、空気感のギャップが、奇妙さを生み出しているのでしょう。
形だけ見れば、「めでたしめでたし」のはずなのに、実際に見るとあっけにとられ、奇妙な居心地の悪さを感じるのです。
なんだか、帰って来たのにまだ「しらないまち」にいるみたい・・・。
そのせいか、こういう展開なら大体出てくる、
「よかったね!」
「帰ってこれた!」
という、純粋なよろこびの声があまりなく、少し混乱したような表情に。
言葉にならない、奇妙な違和感を感じている様でした。
この、画面は平和そのものなのに、素直に受け止められず、なんだかあっけにとられているうちに終わってしまう奇妙な感覚も、この絵本のおもしろく唯一無二なところです。
二言まとめ
「しらないまち」のめちゃくちゃ過ぎる世界観のおもしろさに、笑いが止まらない。
同時に、自分の常識が通用しない場所にいる不安感もそこはかとなく感じられる、奇妙な絵本です。
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