文:おおなり修司 絵:たけがみたえ 出版:絵本館
おいしそうなサナギを見つけたカエル。
ジロッと見るとパクッ。
しかし、そこを通りかかったヘビにジロッと見られて・・・。
あらすじ
カエルが、おいしそうなサナギを見つけました。
ジロッと見た後、パクッと食べてしまうカエル。
カエルはお腹もいっぱいになり、昼寝を始めたのでした。
すると、その近くをヘビが通りかかります。
起きたカエルはやり過ごそうとしましたが・・・
お腹の中で羽ばたく音。どうやらさっき食べたサナギが羽化したみたい。
その音を聞きつけたヘビがカエルの目の前にやってきて、ジロッとカエルを見つめます。
カエルは大急ぎで逃げ出しました。
それを追いかけるヘビ。
逃げるのに一生懸命だったカエルは、崖に気付かず真っ逆さまに落ちてしまいます。
と、そこへ、ちょうどペリカン飛んできて、カエルをパクッ。
けれど、大人しく食べられている訳にもいきません。
カエルは、ペリカンの袋の中で大暴れ。
カエルの運命やいかに・・・。
『ジロッ』の素敵なところ
- 立場がコロコロ変わるドキドキ感
- マトリョーシカのような関係性がおもしろい
- 言葉が少ないからこそ感じる余白のおもしろさ
立場がコロコロ変わるドキドキ感
この絵本のおもしろいところは、カエルの立場がコロコロと変わっていくところでしょう。
最初は、サナギを見つける捕食者としてのカエル。
お腹もいっぱいになり、眠ります。
とてもカエルらしい姿です。
しかし、天敵のヘビが近くを通ると空気感が変わります。
カエルは一瞬で捕食される側に。
こうなると、子ども達の緊張感が一気に高まります。
でも、まだ見つかっていないので、息をひそめる子どもたち。
「見つかっちゃうよ~」
「静かにして―」
と、小声で注意を呼びかけます。
が、ここでその声を聞いていたかのように、サナギが反旗を翻し、チョウになって暴れ出すので大慌て。
案の定、ヘビに見つかりジロッと見られてしまいます。
この時の静けさがなんともおもしろく、カエルも子どもも、まさに「ヘビに睨まれたカエル」。
ピタッと時が止まります。
けれど、必死で逃げ出し、今度は逃亡者になるカエル。
それも束の間、崖から落ちて、ペリカンに食べられてしまいます。
こんな風に、ページをめくるごとに、忙しなくカエルの立場が変わっていくのが、この絵本のおもしろいところ。
ノンストップで進んでいくので、ハラハラドキドキが止まりません。
特に物語最後の、立場の変化は必見ですよ。
マトリョーシカのような関係性がおもしろい
また、この絵本をおもしろくしている、もう一つの要素があります。
それが食べたものがマトリョーシカのようになるところ。
この絵本では、食べたものが消化されず、丸々お腹の中に残っています。
それどころか、お腹の中で生きてさえいるのです。
だから、カエルのお腹の中でチョウが羽化するし、暴れ出すのです。
これは、その後のペリカンでも同じです。
そして、ペリカンに食べられた時こそ、おもしろさの真価を発揮します。
「ペリカンに食べられたカエルのお腹にいるチョウ」という構図が出来上がるのです。
そして、それぞれがそれぞれのお腹の中で暴れたら、その後の流れはきっと想像がつくでしょう。
そう、その瞬間、清々しいすっきり感と、マトリョーシカが大きさ順に並んだような美しさを感じられるのです。
そこにまだ続くカエルのピンチが重なって、なんとも言えない感情に。
この、食べたものがマトリョーシカのような入れ子構造になっているのも、この絵本をおもしろくしている大きな要因となっています。
言葉が少ないからこそ感じる余白のおもしろさ
さて、この絵本の特徴的なところに、文章が少ないというものがあります。
少ないというか、擬音しか使われません。
物語の冒頭から文章を抜き出すと、
「ジロッ」
「パクッ」
「ケロケロスー、ケロケロスー」
「スーッ」
という感じ。
でも、だからこそ、絶妙な余白が生まれ、ドキドキ感やおもしろさを高めてくれるのです。
ヘビにジロッと見られた時の、時が止まる感じ。
そして、ページをめくり逃げ出した時には、脳内で勝手に大慌てなBGMが再生されていることでしょう。
この、言葉が少ないからこそ、想像力が働き自分だけの物語が形作られるのも、この絵本の素敵で楽しいところです。
子どもたちも、
チョウがカエルの腹の中で暴れるところを見て、「チョウになった!」「出して―!って言ってる!」と話していたり、
ヘビから逃げる場面を見て、「たーすけてー!」とセリフを自分でつけたり、
と、頭の中で物語が展開している様子。
特に、子どもたちだけで絵本を見ている時に、ページめくりのタイミングを、自分たちの中にある余白に合わせることで盛り上がっていたのが印象的。
言葉が少ないからこそ、自分たちでお話のペースを自由に作れているようでした。
二言まとめ
食べる側から、食べられる側へと、役割がコロコロ変わるカエルの姿に、ハラハラドキドキが止まらない。
文章が少ないからこそ、余白に自分なりの間や、様々な想像が楽しめ絵本です。
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