作・絵:たかはしとしひで 出版:文芸社
いつもほうきを持ち町を掃除している少年がいた。
そんな少年を見て、町の人は「どうして掃除しているの?」と聞いてくる。
少年はその疑問が不思議で仕方なかった。
だって、そんなこと考えたことなかったから。
あらすじ
ある町にジンという少年がいた。
ジンはいつもほうきを持ち歩き、ゴミを見つけてはほうきで掃除をしていた。
そんなジンを見て、周りの人は「変わってる」と言った。
「罰で掃除をさせられているのだ」と言う人もいた。
「えらいわね」と言う人も。
でも、ジンはどの言葉もピンとこなかった。
ジンにはもう一つ不思議なことがあった。
それは、あちこちにゴミが捨ててあること。
なんでこんな風になるのか、ジンは不思議でたまらなかった。
ある日、ジンが砂浜でゴミ拾いをしていると、ジョギングをしていたお姉さん2人が声をかけてきた。
お姉さんは、「どうして、ゴミ拾いをしているの?」と聞いてきた。
けれど、ジンはその質問にうまく答えることができなかった。
だって、本当にわからなかったから。
お姉さんたちは、ジンのゴミ拾いを手伝い帰っていった。
ジンは「どうして?」という疑問が不思議でならなかった。
なぜなら、ジンはお腹がすいたら食べるように、眠くなったら眠るように、自然と掃除をしていたからだ。
そこで、ジンはあえて掃除をやめてみることにした。
ほうきも家に置いていった。
でも、掃除をやめると、いつもより町中のゴミが気になりウズウズ。
ジンは帰ってくると、誰も気に留めない、何も言われない自分の部屋を掃除しながら考えていた。
みんな自分の家は掃除しているのに、「どうして?」なんて言うのは変じゃないかと。
ジンが掃除をしなくなって1週間が経った頃、ジンは家の外を掃除しているおばあさんに会った。
ジンはおばあさんに「どうして掃除しているの?」と聞いてみることにした。
すると、おばあさんは「きれいにしたら気持ちいだろ。自分が住んでいるところは大切にしないと」と当たり前のように答えたのだ。
ジンはさらに「だったら家の中だけすればいいんじゃないの?」と聞いてみた。
おばあさんはこれまた当然のように「家の中だけで生きてるんじゃないからね」と答える。
その瞬間、ジンの頭の中でパッとイメージが膨らんだ。
ジンは再びほうきを手に取ると・・・。
『ほうきをもつ少年』の素敵なところ
- 当たり前だと思っていることに「どうして?」と言われる不思議
- 掃除やゴミのポイ捨てを深く深く考えていく
- とてもシンプルで真理を突いた「どうして?」の答え
当たり前だと思っていることに「どうして?」と言われる不思議
この絵本のとてもおもしろいところは、当たり前にやっていることへ「どうして?」と言われた時、その答えが意外と難しいということに気付かせてくれるところでしょう。
みんなそれぞれ、周りにはわかってもらえないけれど、自分は好きなことがあると思います。
ジンの場合は掃除でしたが、なにかを集めることだったり、筋トレすることだったり、スポーツをすることだったり・・・。
「どうして?その服が好きなの?」という質問もあるかもしれません。
そんな時、大好きだったり、当たり前にやっているはずなのに、「どうして?」に明快な答えを出せる人は少ないのではないでしょうか?
きっと、「なんとなく」と思う人が多いでしょう。
その「なんとなく」を明確化することの難しさに、この絵本は気付かせてくれるのです。
それは同時に、自分のやっていることを深く考えていくということ。
これがとてもおもしろい。
自分のやっていることの新しい側面に気付くきっかけや、物事を深く考えるきっかけになることでしょう。
この、ジンへの「どうして?」という質問を通して、自分のやっていることへの「どうして?」も考えさせてくれるのが、この絵本のとてもおもしろい素敵なところです。
ぜひ、読み終わった後、子どもたちにも、自分の心にも「どうして?」と聞いてみてください。
新しい発見がたくさんあると思いますよ。
掃除やゴミのポイ捨てを深く深く考えていく
そんな風に、「どうして?」を考えていくこの絵本ですが、物語のテーマは「どうして掃除をするの?」。
確かに、ジンのように進んで掃除をしていたら「えらいね」「どうして?」と言われることが多いと思います。
実際、子どもたちもジンの姿を見て「掃除してえらいね!」と言っていました。
一般的には、掃除をするのは偉いことなのです。
けれど、この絵本ではそんな一般論が不思議なこととして捉えられています。
だって、みんな家の中は掃除するし、ゴミがない方が気持ちいいと思っているのに、家の外は掃除をしないし、ポイ捨てが後を絶たないのですから。
これはよく考えると、とても大きな矛盾点と言えるでしょう。
こうして、ジンが考えることを通して、掃除やゴミ、きれいにすることについて深く考えていくことになります。
これもまた、この絵本のとてもおもしろいところです。
それに、子どもたちにとってもとても身近な問題です。
子どもたちも毎日掃除をするし、片付けをするのですから。
この、掃除という、いつもはなんとなくやっていたり、言われてやらされている、とても身近な問題を、ジンの悩みを通して深く、その本質を考えるきっかえになるところも、この絵本のとても素敵なところです。
とてもシンプルで真理を突いた「どうして?」の答え
さて、こうして色々考え、掃除をやめてみたりもしたジンは、家の前を掃除しているおばあさんとの出会いから、「どうして?」の答えへと辿り着きます。
これがなんともシンプルで気持ちいいのも、この絵本のとても素敵なところです。
理屈っぽくもなく、説教臭くもない。
ただ、「きれいにしていたら気持ちいい」という答え。
これほどに納得感のある、真理を突いた答えがあるでしょうか?
さらに、おばあさんの言葉を聞いたジンの頭に浮かぶイメージもとても素敵。
そのイメージからは、ジンの優しさや、ジンの持つ世界の広さが直感的に伝わってきます。
このイメージの広がりは、子どもならではの、大人も見習わないといけないものかもしれません。
そして、このイメージの広がりからは、おばあさんの言葉が腑に落ちて、ジンの心に定着したことも感じられます。
まさに、「おばあさんが言っていたから」ではなく、その言葉をきっかけに「自分の答えを見つけた」ことが伝わってくるのです。
この、驚くほど納得感のある「どうして掃除をするの?」という、ジンが見つけた問いへの答えもまた、この絵本のとても素敵なところです。
こんな風に、掃除を「やらなければいけないこと」ではなく、「すると気持ちいいこと」と考えて出来るようになりたいものです。
二言まとめ
ジンの掃除を通して、当たり前にやっていることへの「どうして?」を、深く考えてみるのがおもしろい。
「やらないといけないもの」という掃除への考え方を大きく変えてくれるかもしれない、哲学的な絵本です。
コメント