【絵本】ぼくのひみつのともだち(4歳~)

絵本

作:フレヤ・ブラックウッド 文:椎名かおる 出版:あすなろ書房

男の子には学校に友だちがいませんでした。

そんな男の子の友だちは、森にいる樹木のゾウ。

でも、ある日、森の木が切られることに・・・。

あらすじ

男の子はいつも通りの朝を過ごします。

着替えて、歯を磨き、学校へ。

学校では、男の子は1人ぼっち。

とても長い一日です。

帰ってくると、男の子は2人分の食事を持って、こっそり外に出かけます。

向かったのは、家のとなりにある森。

奥へと入っていくと、そこには樹木のゾウが佇んでいました。

男の子はゾウに食事をあげ、一緒に食べました。

男の子は、いつもそのゾウの近くで遊んでいました。

秋が来て、冬になって、春が来ても。

そんな春のある日。

森の前に「売地」という看板が立ち、工事の人たちが森を見に来ました。

そして、木にバツ印を描いて帰っていったのです。

男の子にはバツ印の意味がわかりませんでした。

けれど、ゾウがどうなるのか心配でたまりません。

その夜、男の子が寝付けずにいると、窓をコンコンと叩く音が。

男の子はこっそりと家を抜け出し、ゾウの元へ向かいました。

男の子はゾウを逃がそうとしました。

けれど、木で出来た足は、しっかりと根をおろしていて動かせません。

男の子は、ゾウを抱きしめると、涙をこぼしながら森を後にするのでした。

ですが、男の子がしょんぼりと座り込んでいると、壁にゾウの影が現れ男の子の元へ。

男の子は、笑顔でその影を先導してきます。

男の子についていくゾウの影。

さらにその後ろからは、キリンやサイ、ラクダの影も・・・。

翌朝、工事の人たちが木を切りに来ると、森はすっかりなくなり空き地が広がっていました。

さて、あの樹木の動物たちは、一体どこにいってしまったのでしょう?

『ひみつのともだち』の素敵なところ

  • 本物なのかそう見えるだけなのか、樹木で出来た不思議なゾウ
  • 木が切られる不安からの、不思議で幻想的な脱出劇
  • 2つの意味を持つ秘密の友だち

本物なのかそう見えるだけなのか、樹木で出来た不思議なゾウ

この絵本のなによりも魅力的なのは、樹木で出来た不思議なゾウでしょう。

鼻や足などは、どう見ても普通の木ですが、その葉が集まりまるでゾウのように見えるのです。

このゾウが、静かな木漏れ日の中にたたずむ姿が、本当に美しく幻想的。

特に、初めてゾウが出てくる場面では、その美しさに目を奪われ時が止まることでしょう。

それは、まるでおとぎの国で、魔法の生き物に出会ったような感覚なのかもしれません。

子どもたちも、

「木がゾウになってる・・・」

「きれい・・・」

と、驚きというより、感嘆の声の方が多く漏れ出していました。

また、このゾウの魅力はそれだけではありません。

本当にゾウなのか?男の子にそう見えているだけなのか?

という曖昧さも、ゾウの不思議さな魅力を引き立てているのです。

物語の中盤まで、このゾウは動くこともしゃべることもありません。

むしろ、普通の木のように、秋になれば紅葉し、冬になれば葉が落ちて骨のゾウのようになってしまいます。

ゾウの形に見える物の、その姿はまさに樹木。

やっぱり、男の子にそう見えているだけのように映ります。

けれど、それだけで終わらないから、このゾウは不思議なのです。

物語の終盤で、このゾウは動き出すのですから。

この、目を奪われるほど幻想的で美しい、ゾウなのか木なのか曖昧だからこその不思議さを漂わせる、樹木で出来たゾウの魅力が、この絵本のとても素敵なところです。

木が切られる不安からの、不思議で幻想的な脱出劇

そんなゾウが、終盤で動き出す理由。

それは、森の伐採が始まるからでした。

男の子とゾウの平和な日常に突如現れた大人たち。

彼らは、木にバツ印をつけて帰っていきます。

男の子は、バツ印の意味がわかりませんが、不吉なものであることは感じます。

これとまったく同じ気持ちになるのが、絵本を見ている子どもたち。

「切るっている印じゃない?」

「ゾウも切られちゃう!」

「そこにはゾウがいるんだよ!」

と、バツ印の意味を予想して、男の子と一緒に不安な気持ちや焦りを感じているようでした。

この男の子と気持ちがリンクするハラハラドキドキ感があるからこそ、この後の展開に心が躍るのでしょう。

夜になり、窓を叩く音と、窓から少し見えたツタのようなもの。

男の子は何も言わずにゾウの元へ向かいますが、子どもたちは、

「ゾウじゃない!?」

「きっとゾウだよ!」

と、風向きが変わる予感に大盛り上がり。

きっと、男の子も心の中では同じ気持ちだったのではないでしょうか。

こうして、ゾウのもとに着きますが、やっぱり木なので返事もしないし動くこともありません。

この時の、場を包む絶望感は、なんとも言えないものでした。

けれど、座り込む男の子のもとに、ゾウの鼻の影が現れたとたん、子どもたちの顔と男の子の顔がパッと輝きます。

「ゾウだ!」

「動いたんだ!」

と歓声もあがります。

この時の、子どもたち全員と男の子の一体感はすごいもの。

どんなにゾウを助けたかったかというのが、痛いほどに伝わってきました。

ここからの脱出劇は、もう興奮の連続です。

男の子について歩く影。

ゾウだけじゃなく、キリンやサイなど、他の動物がいたことへの驚きなど、樹木で出来たゾウが本当に生きていたという確信と合わさって、もうワクワクが止まらないのです。

歩く動物が影だけしか描かれないという、幻想的な演出とも相まって、この場面での盛り上がりは最高潮。

特に、街頭の薄明りの中、大通りを歩いていく巨大な動物の影という場面は、迫力と美しさ、そして強い解放感を感じられるものとなっています。

この、迫力たっぷりの開放感あふれる脱出劇と、男の子と驚く程リンクする「助かってよかった」という気持ちも、この絵本のとても素敵なところです。

きっと、動物たちを連れて行った先に驚くとともに、ほっと安心すると思いますよ。

2つの意味を持つ秘密の友だち

さて、こうして秘密の友だちを助けることができた男の子。

でも、最後のページでもう一人、秘密の友だちができるのも、この絵本のおもしろくて嬉しいところ。

てっきり、タイトルの秘密の友だちは、ゾウのことだと思っていましたが、最後のページを見ると、もう一つの意味があったことに気付かされます。

この友だちになるきっかけが、なんとも自然なのが本当にすごいのです。

背景だと思っていたものが、実は伏線だったり、

そのきっかけが、動物たちの脱出劇に絡んでいたり・・・。

男の子と動物たちの物語があったからこそだと思える、最後の場面になっています。

確かによく考えると、ゾウは助けられましたが、男の子が学校で一人ぼっちなの変わっていないので、このままだと翌日からの男の子の一日は相変わらず長いまま。

この男の子の課題を、さり気なく解決してくれるので、心から安心して物語を終えることができます。

この、ゾウの脱出劇を通してわかる、もう一つの「秘密の友だち」もまた、この絵本のとても優しく安心感を与えてくれる素敵なところです。

二言まとめ

樹木のゾウと男の子の温かな友情に、驚くほど感情移入してしまう。

だからこそ、ゾウが動き出した時、心の底から嬉しく思い、男の子とともに歩く姿に胸が躍る、優しさが胸いっぱいに広がる絵本です。

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