作:竹与井かこ 出版:教育画劇
隙間に落とした鉛筆やボタンはありませんか?
実は、そういったものからは、手足が生えて動けるようになるのです。
そう、それが「すきまっこちゃん」!
あらすじ
棚やソファーの下などの、家の中の狭い隙間に、すきまっこちゃんたちは暮らしています。
すきまっこちゃんたちも、もとは普通の鉛筆やサイコロ、ドングリや米粒でした。
けれど、ある時、隙間に落ちて忘れられてしまったのです。
すると、目と口と手足が生えて、動けるように。
こうして、生まれたすきまっこちゃんたちは、家の隙間で仲良く暮らしていたのでした。
そんなある日のこと。
ビーだまっこと、ちびえんぴつっこと、クッキーっこが遊んでいると、外から悲鳴が聞こえてきました。
なんと、こんぺいとうちゃんが、アリに連れていかれてしまったのです。
3人はすぐにアリを追いかけましたが、すでにこんぺいとうちゃんはアリの巣の中。
これでは手出しができません。
そこで、3人は家に帰り、すきまっこちゃんたち全員がお皿の上で会議するおさらのうえ会議を始めました。
それぞれ意見を出し合いますが、中々結論に辿り着きません。
そんな中、手を挙げたのがくろごまっこ3兄弟。
3人の立てた作戦は、3兄弟がアリに変装して、アリの巣に忍び込むというもの。
さっそく、3兄弟は合体して、アリに変装し、アリの行列に加わりました。
作戦は見事成功。
アリの巣の中に入ることができました。
しかし、アリの巣の中は複雑で迷路のよう。
サナギ部屋に、台所、赤ちゃん部屋に、ゴミ捨て部屋など、色々なところを探していきます。
そうこうしているうちに、3兄弟はアリたちがパーティをするという噂を聞きつけ、パーティ会場に行ってみることにしました。
着いた先は、女王の部屋。
その部屋の奥に、女王とともに、こんぺいとうちゃんもいます。
と、その時、女王から「お星様をいただきましょう」という声が。
さらに、とんかちで細かくしようとこんぺいとうちゃんに迫ります。
それを見た3兄弟は意を決し・・・。
3兄弟とこんぺいとうちゃんの運命やいかに!?
『すきまっこちゃん』の素敵なところ
- どの家にもきっといるすきまっこちゃん
- ハラハラドキドキのアリの巣潜入作戦
- アリだからこその驚きの展開
どの家にもきっといるすきまっこちゃん
この絵本のとてもおもしろいところは、すきまっこちゃんという不思議な生き物。
その存在の絶妙な不思議さにあるでしょう。
しかも、その生まれ方が、とても身近で、思い当たる節があり過ぎるのがポイント。
みなさんも、大掃除をしていたら色々なものが出てきた経験があることでしょう。
日常生活の中でも、「あ、こんなところにあったんだ」という経験は少なくないと思います。
そんな隙間に落ちたものたちに、命を吹き込んでくれたのがすきまっこちゃん。
ここでおもしろいのが、落ちたものがそのまま擬人化されているわけではないところです。
大抵の物語は、落ちる前から擬人化されていますが、この絵本は違います。
隙間に落ちたものに、目と口と手足が生えて動き回れるよう、現実的なものからすきまっこちゃんへと生まれ変わるのです。
この設定が、なんとも現実とファンタジーをうまく結びつけていておもしろい。
「落としたと思ったら探しても見つからないのは、すきまっこちゃんになっていたからかも」
「だから、すぐ拾ったらすきまっこちゃんになっていないのかな?」
などなど、妙なリアリティと解釈が生まれます。
さらに、
「うちにも、こめつぶっこっちゃんいると思う」
「さいころっこちゃんは、ちゃんと拾わないと双六できなくなるから、うちにはいないはず!」
「あー。びーだまっこうちにいそうだな」
と、ものすごい親近感。
やっぱり、みんな心当たりがあるようです。
この、ものすごく身近な隙間に落ちたものたちを、絶妙なファンタジーで描き出すすきまっこちゃんという存在が、この絵本のとても素敵でおもしろいところです。
ハラハラドキドキのアリの巣潜入作戦
ですが、そんなある日。
すきまっこちゃんたちの仲間、こんぺいとうっこちゃんに絶体絶命の危機が訪れます。
甘いものにとって天敵とも言えるアリに連れていかれてしまったのです。
これには子どもたちも、
「甘いものはアリに食べられちゃう!」
「大変だー!」
「取り返してー!」
と、大騒ぎ。
普段からアリの観察をよくしている子どもたちだけに、どれだけ大変なことなのか身に染みてわかっている様子です。
ただ、大量のありと正面衝突するわけにもいきません。
そこで、お皿会議の結果決まったのが、黒ゴマ3兄弟による潜入作戦。
最初は、「小さいからすぐ食べられちゃうんじゃない?」と言っていた子も、3兄弟の見事な変装に「すごい!アリそっくり!」「そういうことか!」と驚き納得していました。
こうして作戦は始まり、アリの巣へと侵入していきます。
もちろん、子どもたちも息を潜めてアリたちにばれないように。
「大丈夫かな?」
「目がいっぱいあるから気付かれちゃうかも・・・」
と、ドキドキです。
さらに、パーティのためにアリたちが用意していたキラキラジュースを見て驚愕。
この見た目がこんぺいとうっこちゃんと同じピンクだったものだから、
「あれ、こんぺいとうっこちゃんじゃない!?」
「溶かしてジュースにされちゃったのかな!?」
と、大慌て。
確かにアリたちがこんぺいとうっこちゃんを呼ぶ時の「おほしさま」というワードと、ジュースの「キラキラ」というワードもうまく絡まって、その心配もわかります。
そのため、こんぺいとうっこちゃんを見た時の、
「あのジュース違ったんだ!」
「よかったー」
という安堵感はひとしおなようでした。
この、色んなところからハラハラドキドキさせられる、アリの巣への潜入作戦も、この絵本のとても楽しいところです。
アリだからこその驚きの展開
さて、なんとかこんぺいとうちゃんを見つけた3兄弟。
でも、とんかちで割られそうになっているという絶体絶命のピンチです。
そこでパーティー会場へ躍り出る黒ゴマ3兄弟。
ですが、ここで子どもたちに不安がよぎります。
だって、多勢に無勢なのですから。
アリたちは数十匹。
黒ゴマは3粒。
どう見ても勝ち目はありません。
けれど、ここでアリたちが予想外の反応を見せるのです。
これもまた、この絵本のとてもおもしろいところ。
アリたちだからこその勘違いで、会場はパニックに陥るのです。
これには子どもたちも唖然。
だけど、確かにアリたちの視点にたてば、その反応も無理はありません。
この、予想外のアリたちの反応による一発逆転と、小さな3兄弟による大量のアリたちからの見事な脱出劇もまた、この絵本のとても素敵な見どころとなっています。
二言まとめ
どの家にもきっといる、身近過ぎるすきまっこちゃんという生き物に気付かせてくれる。
その小さな体を活かした、ハラハラドキドキの救出劇に驚きが止まらない、家の隙間をのぞいてみたくなる絵本です。
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