文:長谷川摂子 絵:ながさわまさこ 出版:福音館書店
不思議な形と不思議な音。
その不思議な魅力に、いつの間にか目も耳も奪われてしまいます。
ナンセンスだからこそ、自分だけの意味を自然と想像してしまう絵本です。
あらすじ
ぐやん よやん ぐやん よやん
波打つような大きなうねりが目の前に広がります。
ほんやー ぞぞぞぞ びーん
そのうねりの先端が長細く突き出して、先っぽから小さな細長いものが飛び出しました。
じんじ じんじ ずー じんじ じんじ
飛び出したものは、這うように動き少しずつ大きく・・・大きく・・・
ずー
一気に大きくなり、破裂するように様々な色が弾けます。
だんべ ぼんべ ほう ほう
うす暗いな中、浮き上がる二つの白い風船のようなもの。
ほんにょろ ぶわー
赤い渦のようなものの中から、噴き出る煙のようなもの。
ばあ ばあ あっぱっぱ
中心に太陽のような光が現れ、周囲が一気に明るくなりました。
だや どや でや ぼや
さて、次に出てくるのは・・・?
『ぐやんよやん』の素敵なところ
- 感性で楽しめるナンセンスな内容
- 目と耳を奪われる色と音
- 意味や物語を自然に想像してしまうおもしろさ
感性で楽しめるナンセンスな内容
この絵本のなによりおもしろいところは、感性に全力で訴えかけてくるナンセンスな内容にあるでしょう。
『もこもこもこ』や『もけらもけら』など、感性で見るナンセンス絵本は、他にもたくさんありますが、それらはページ間の繋がりがなんとなく見えてきます。
ですが、この絵本はそれらよりも、ページ間の繋がりがあまりわからず、感性に特化していると感じます。
半面、だからこそのおもしろさがこの絵本にはあります。
目まぐるしく変わっていく、色合いやスケール感。
頭を空っぽにして、その絵と音だけに集中できる、感性が研ぎ澄まされる感覚。
それらは場面ごとの繋がりが希薄だからこそ、感じられるものなのでしょう。
1ページ1ページに、感性が刺激され、
一気に広がった迫力に「うわっ!」と圧倒されたり、
急に暗い雰囲気になり「夜になったみたい」と感じたことをそのまま言葉にしたり。
しがらみがないからこそ、発想や感性が自由に働くのです。
この、ページ間の繋がりが希薄なナンセンスだからこそ、目の前のページと全力で感性を研ぎ澄まし向き合えるところが、この絵本のとても楽しいところです。
このタイプの絵本は、正直なところ、実際にページを開いてみないとそのおもしろさは伝わらないと思うので、ぜひ本物を見てみてください。
目の前に広がる感性の塊に、きっと圧倒されると思いますよ。
目と耳を奪われる色と音
そんなこの絵本のとても特徴的なところが、色と音。
その色使いは、繊細で多層的で、そのグラデーションに一瞬で魅入られてしまいます。
例えば最初のページのうねりなら、青から緑、黄色へと変わっていくグラデーションの中に、紫やピンクのアクセントが入っていて、とても美しく心が落ち着く色合いに。
そのゆったりと丸みを帯びたフォルムと相まって、目を釘付けにされてしまいます。
そこから先端が尖り始めると、この落ち着いた雰囲気とは一変して、黒、紫、黄を基調とした毒々しい色合いへ。
その激しい動きと重なって、これまでと全然違う印象を受けますが、やっぱりそのきれいな色の塊から目を離すことができません。
こんな風に、この絵本の色使いはどれも多層的で、まるで虹のグラデーションを見ているかのような美しさを感じるようになっています。
それと同時に、色合いや絵にピッタリ合った音も見逃せません。
文章ではなく、擬音と効果音を合わせたような音だけでこの絵本は進行していくのですが、絵が本当に動いているのか思えるほどピッタリなのです。
波がたゆたうような「ぐやん よやん」
「ほんやー」と波が変化し「ぞぞぞぞ」と先端が尖って伸びて「びーん」と発射される塊。
まさに、絵と音が連動して、自然と音が動きとして頭に入ってくるのです。
この一体感が、たまらなくおもしろくて心地いい。
「考えるのではなく、感じる」という言葉がピッタリとはまるような感覚が味わえることでしょう。
これはきっと、思考する部分を極力排除しているからこそ、感じられるものなのだと思います。
この、絵と色と音が見事に重なりあい、頭の中で絵が動きているような感覚が味わえる、この絵本ならではのおもしろさが味わえるのも、この絵本の大きな魅力の1つです。
意味や物語を自然に想像してしまうおもしろさ
さて、そんな感性に全力で訴えかけてくるこの絵本。
子どもたちも、1ページごとに感性を研ぎ澄ませ向き合っていますが、その中で自然と意味合いや物語を想像してしまうのも、この絵本と人間の想像力のおもしろいところです。
飛び出した塊が「じんじ じんじ」と進むのを見て、「毛虫みたいだね!」と見立てたり、
暗い場面から、太陽のような光が現れ明るくなった場面で「朝になったよ!」と場面の繋がりを作ったり。
自分の頭の中で、ページの繋がりを作り上げていく子どもたち。
特に、最後の場面がおもしろく、「じーやや じーやや ぽー」と細長い生き物のようなものが、頭から煙のようなものを出し、ページの奥に進んでいく構図から、ページをめくると、雪景色の中で奥の方にぼんやり影のようなものが見える場面で終わります。
これを見た子どもたちは、
「あの奥にいるの、頭から煙を出してたやつじゃない?」
「あっちに帰ったのかな?」
「旅に出たのかもしれないよ」
と、ページの繋がりを作りつつ考察。
きっと、どんなにナンセンスなものの中にも、意味や繋がりを求めるのが人間の性なのでしょう。
当たり前のように、子どもたちは物語を作りあげていました。
この、ナンセンスだからこそ「こうじゃない?」「ああなのかもしれない」と、自由に想像力を働かせられるのも、この絵本のとても楽しい素敵なところです。
感性に強く訴える内容だからこそ、その感性から想像力などの思考力が刺激されるというのは、本当におもしろいですよね。
二言まとめ
絵と色と音で、子どもたちの感性が刺激され、目と耳を釘付けにされてしまう。
感性で楽しむだけじゃなく、意味がないからこそ、その中にある意味や物語を想像するのも楽しい、ナンセンス絵本です。
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