文:秋野和子 絵:秋野亥左牟 出版:福音館書店
タコはかくれんぼの名人です。
場所に合わせて体の色が変幻自在。
そんなタコの波乱万丈な一日を見てみましょう。
あらすじ
南の海の大きなサンゴの穴深くに、1匹のタコが住んでいました。
昼寝をしていたタコは、サンゴから飛び出して、お昼の散歩に出かけます。
飛び出したとたん、体の色を白くして、水の中に溶け込みながら出発です。
と、少し行くと前から虹色魚が泳いできました。
タコはすぐに黄色のサンゴにくっつくと、体の色を黄色に変えて隠れます。
そして、気付いていない虹色魚が近づいてくると・・・
足を伸ばして、虹色魚を捕まえました。
タコはそのまま虹色魚を食べてしまいました。
満腹になったタコは、ご機嫌で海藻の中を歩いていきます。
が、ばったりウツボと出くわしてしまいました。
すぐに海藻と同じ色になり隠れるタコ。
ですが、ウツボの目はごまかせません。
足に噛みつかれてしまいました。
絶体絶命のタコは、最後の手段を使うことに・・・。
タコは逃げ出すことができるのでしょうか!?
『たこなんかじゃないよ』の素敵なところ
- タコの驚くべき秘密がよくわかるハラハラドキドキの物語
- 本物そっくりに描かれた臨場感たっぷりの絵
- 耳に残る「たこなんかじゃないよ」の合言葉
タコの驚くべき秘密がよくわかるハラハラドキドキの物語
この絵本のなによりおもしろいところは、タコの秘密が全部わかってしまうところでしょう。
場所に合わせて色を変えられる体は、まさに変幻自在。
波の白、サンゴの黄色、海藻の黒・・・と、本当によく見ないとわからないほど巧みに体の色を変えていきます。
絵本を見ている子どもたちですら、一瞬見失うほどの擬態能力。
その使い方も多種多様で、泳ぐ時、捕食する時、逃げる時など、様々な場面で活用されます。
タコに取って、とても重要な能力だと言うことが感じ取れることでしょう。
また、擬態能力だけじゃなく、墨や再生能力についても触れられていて、タコのすごさや奥の手の多さにも驚かされる物語となっています。
これらのタコのすごい力を、とてもおもしろいハラハラドキドキの物語として見せてくれるのが、この絵本のすごいところ。
そこには、図鑑や説明文とは違う臨場感があり、本当に海の中でタコの生活を体験している気分にさせてくれます。
そうなってくると、タコの擬態能力も他人事ではなく、とても身近なものに感じられるから不思議なもの。
説明されるより100倍わかりやすく、タコの生態が自分の中にすっと入ってくることでしょう。
特に、ウツボに見つかった時のドキドキ感はすさまじく、みんなタコの気持ちと一体化。
「見つかりませんように」
「タコじゃないよ、海藻だよ~」
と、声を潜めて見つからないことを祈る姿は、まさにタコ。
その後の、怒涛の展開も相まって、物語としてもとてもおもしろいものになっています。
この、おもしろい物語の中で、タコの生態や秘密を体感できるところが、この絵本のとても素敵なところです。
本物そっくりに描かれた臨場感たっぷりの絵
そんなハラハラドキドキの物語に欠かせないのが、とてもリアルに描かれた絵でしょう。
海の中や、他の生き物のリアルさももちろんですが、タコのリアルさは異常です。
表紙の時点で伝わってくると思いますが、
そのクネクネとした軟体感、
タコ特有の目のリアルさ、
言葉で言い表しがたい模様の表現力、
キャラクターとは違う絶妙な位置にある墨を吐く器官・・・
などなど、もうそこにタコがいるのです。
さらに、臨場感を増してくれるのが、タコの独特な動きや形の変化。
穴の中で眠る時の、ぎゅっと押し固めたような形、
泳ぐ時の宇宙人のようなフォルム、
足を広げ開いた傘のようになる形・・・などなど。
もう、変形と思えるくらい動きによって変わるタコの形も、見事に表現されています。
中でもすごいのが、捕食する時の魚を丸呑みにする姿。
開いた体と相まって、ウルトラマンに出てくる怪獣かと思うくらい、不気味姿が画面いっぱい広がります。
これには子どもたちも、
「こわっ!」
「宇宙人みたい!」
「食べちゃった!」
と、そこだけホラーを見ているような反応。
そういう部分も含めて、とてもリアルに臨場感たっぷりなタコの姿を描き出しているのも、この絵本のとても特徴的なところです。
耳に残る「たこなんかじゃないよ」の合言葉
さて、そんなタコがよく言う合言葉があります。
それは、隠れる時に言う「たこじゃないよ」という言葉。
これは、この絵本のタイトル同様、大きなキーワードになっています。
なぜなら、タコが擬態して隠れる場面がとても多いから。
虹色魚を捕まえる時は「私はサンゴ。私はサンゴ。タコなんかじゃないよ。」
ウツボから隠れる時は「私は海藻。私は海藻。タコなんかじゃないよ。」
というように、要所要所の見どころで、この言葉が出てきます。
これが、妙に耳に残る。
子どもも言いたくなってしまうようで、「タコなんかじゃないよ」と一緒に言って、相手に見つからないようにタコと一体化していました。
また、絵本が終わった後も、「タコなんかじゃないよ」と言っている子も。
この言葉には、口ずさんでしまう、呪文のような魅力があるのです。
この、妙に耳に残りついつい言いたくなってしまう、実にタコらしい「タコなんかじゃないよ」という言葉も、この絵本のとても素敵で楽しいところです。
実は、この言葉には、もう1つおもしろい要素があります。
それが最後の場面で、家に帰った後にタコが言う言葉。
これまで、色々なものに擬態し「たこじゃないよ」と言っていたタコが、眠りにつく前に言う言葉がここまでの流れを見ていると、クスリとさせられてしまいます。
この後味が、なんとも心地よいのも素敵だと感じるところです。
二言まとめ
タコの暮らしやその秘密を、リアルで臨場感たっぷりに体感できるハラハラドキドキの物語がおもしろい。
見たら「タコなんかじゃないよ」と、言いながらかくれんぼがしたくなる海の中の絵本です。
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