文:こさかまさみ 絵:山内彩子 出版:福音館書店
ネズミの畑に、イチゴがたくさんなりました。
1人では食べ切れないので、みんなにもわけてあげることに。
ネズミはイチゴを気前よく分けていきますが、気付けば最後の1粒になっていました。
イチゴをあげたことを後悔しているネズミ。
でもその時、家の扉を叩く音がして・・・
あらすじ
ネズミの畑にイチゴがたくさんなりました。
1人では食べ切れないので、
「みなさんどうぞ」
と、近くの木にお知らせの看板を出しておくことに。
すると、ウサギが、
「イチゴを少しくださいな」
と、イチゴをもらいにやってきました。
ネズミは雑草を抜きながら、
「どうぞどうぞ」
と、答えます。
ウサギは両手いっぱいイチゴをつんで帰りました。
次にキツネが、
「イチゴを少しくださいな」
と、イチゴをもらいにやってきました。
ネズミは水をやりながら、
「どうぞどうぞ」
と、答えました。
キツネは両手いっぱいイチゴをつんで帰りました。
さらにクマも、
「イチゴを少しくださいな」
と、イチゴをもらいにやってきました。
ネズミは花をつみながら、
「どうぞどうぞ」
と、答えました。
クマは両手いっぱいイチゴをつんで帰りました。
ネズミが花をつみ終わり、イチゴ畑を振り返るとびっくり。
そこには小さなイチゴが1つしか残っていなかったのです。
ネズミは最後のイチゴを家に持って帰り、みんなにあげてしまったことを後悔しました。
仕方がないので、お茶を入れ、小さなイチゴを食べることに・・・。
と、その時、家のドアを叩く音が。
ドアを開けると、そこにいたのはイチゴをあげたウサギでした。
ウサギはネズミがお茶の時間だとわかり、自分もお茶をいただきたいと言ってきます。
ネズミは、最後のイチゴをあげたくないと思い、とっさにイチゴを自分の後ろに隠しました。
すると、その時、またドアを叩く音が。
ドアを開けると、やってきたのはキツネでした。
キツネもお茶をいただきたいと言ってきます。
さらに、またドアを叩く音が。
ドアを開けると、クマが息を切らせて入ってきました。
お茶の時間に間に合うよう急いで走ってきたようです。
その手には、イチゴのお礼に持ってきたものが・・・。
クマの持ってきた嬉しいサプライズとは!?

おしまい!
『どうぞどうぞ』の素敵なところ
- 「どうぞどうぞ」とイチゴのやり取りをする楽しい繰り返し
- どんどん減っていくイチゴのハラハラ感
- 「トントントン」のだんだん増えていく嬉しい繰り返し
「どうぞどうぞ」とイチゴのやり取りをする楽しい繰り返し
この絵本のとても楽しいところは、「どうぞどうぞ」とイチゴをあげていく繰り返しです。
動物たちがやってきて、
「イチゴを少しくださいな」
と言ってくるので、そのたびに、
「どうぞどうぞ」
と返す繰り返し。
その「どうぞどうぞ」という言葉には、イチゴがたくさんできて嬉しい気持ちを、みんなとわけあおうという温かさが込められています。
だから、言いたくなるのでしょう。
繰り返しの流れがわかってくると、子どもたちも、

どうぞどうぞ♪
と、ネズミと一緒に言ってくれます。
その言い方がとても楽しそうで嬉しそうなのが印象的。
手を差し出しながら満面の笑顔で、



どうぞどうぞ!
と、孫にお菓子をあげるおばあちゃんくらい嬉しそうに、イチゴをわけてくれるのです。
そんな本当に嬉しそうで楽しそうな子どもたちの「どうぞどうぞ」を見ていると、
「きっと、誰かにしてあげたいというのは、人間の持っている根源的な欲求や嬉しさに繋がるものなのだろうな」
と、思わせられます。
この、動物たちの「くださいな」に、「どうぞどうぞ」と気前よくイチゴをあげるやり取りの繰り返しが、この絵本の自分も誰かにしてあげたくなる、とても素敵なところです。
どんどん減っていくイチゴのハラハラ感
けれど、イチゴを気前よくあげると、その分イチゴは減っていきます。
この、減っていくイチゴを見るハラハラ感も、この絵本のおもしろくて心を揺さぶられるところとなっています。
最初は、無限にあるかと思われていたイチゴも、気付けば半分くらいになり、クマが来た頃には数えるほどになっています。
キツネくらいまでは、子どもたちもあまり気にしていませんでしたが、クマが来る頃にはさすがに気づき始め、



イチゴあとちょっとしかないよ!



あげたらなくなっちゃうよー!
と、ネズミに呼びかけます。
そして、イチゴはたった1つに。
1つしか残っていないイチゴを見てしょんぼりするネズミと一緒に、



一個だけになっちゃったよ・・・



いっぱいイチゴ食べたかった・・・
と、きれいに気持ちがシンクロする子どもたち。
まさにネズミと同じ気持ちになっていました。
この、楽しい「どうぞどうぞ」のやり取りと裏腹に、自分の食べるイチゴが減っていってしまうというジレンマも、この絵本のとてもおもしろくハラハラさせられるところです。
2回目に、イチゴをあげるたび、



あと、○○個しかない!」
と、話の流れがわかっているからこその、イチゴのカウントダウンが見られておもしろいですよ。
「トントントン」のだんだん増えていく嬉しい繰り返し
こうして、1つだけになってしまったイチゴにしょんぼりするネズミ。
でも、ここからもう一回楽しい繰り返しが待っていたからおもしろい。
しょんぼりするネズミのもとに、
「トントントン」
と、扉を叩く音がして、イチゴをもらいにきていた動物たちが、どんどんやってくるのです。
最初は、お茶をいただきにきた動物たちに、イチゴが取られるのではないかとネズミと一緒に心配しますが、動物たちの気持ちがわかると、とても嬉しい繰り返しに大変身。
クマの持ってきたものや、他の動物たちが持ってきたものをも見て、



おいしそ~



イチゴが帰ってきたね♪
と、ネズミも子どもたちも顔がパッと輝きます。
それはまさに、どんどん嬉しさが増えていく繰り返し。
先程までの、イチゴが減っていく繰り返しとはまさに真逆と言えるでしょう。
しかも、この繰り返しは、ネズミがみんなにイチゴをたくさんあげたから生まれたもの。
「どうぞどうぞ」と誰かに分け与えたことで、さらに嬉しいことが起こるという、幸せの連鎖がイチゴを通して感じられるものになっています。
この、イチゴを分け与える繰り返しと、分け与えてもらう繰り返しのセットで、とても嬉しく優しく温かな気持ちを感じられるのも、この絵本のとてもとても素敵なところです。
二言まとめ
動物たちの「くださいな」に、「どうぞどうぞ」とイチゴをあげるやり取りが、真似したくなるほどおもしろい。
あげたものが、形を変えて返ってくる、嬉しさや優しさや温かさ2つの繰り返しを通して感じられる、甘酸っぱいイチゴ絵本です。
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