文:昼田弥子 絵:高畠那生 出版:ブロンズ新社
道端でイトウくんは、イカに出会いました。
でも、そのイカは本当はスイカで、「ス」をどこかでなくしてしまい「イカ」になってしまったのだと言い張ります。
信じていないイトウくんでしたが、落ちていた「ス」が自分の体にくっつくいてしまい・・・
なんと、イトウくんがスイトウに!?
あらすじ
男の子イトウくんが道を歩いていると、イカが落ちていました。
イトウくんがイカを見て驚くと、そのイカは自分のことをスイカだと言ってきます。
イカの話しでは、「ス」を落としてしまい、「イカ」になってしまったのだそう。
でも、イトウくんは信じずに、イカを捕まえようとしました。
けれど、イトウくんはイカにすみを吐かれて返り討ち。
イカは逃げてしまいました。
イトウくんが気を取り直し、道を歩いていくと「ス」が落ちているではありませんか。
と、その時、イトウくんは石につまずき、「ス」の上へ転んでしまいました。
転んだ拍子に、「ス」がイトウくんの頭にくっついたからさあ大変。
イトウくんは、スイトウになってしまいました。
ちょうどそこへ、リサイクルショップのおじさんがやってきて、イトウくんのスイトウを拾っていきます。
リサイクルショップにつくと、奥さんにスイトウを洗ってもらうよう頼み、奥さんがスイトウをタワシでゴシゴシ。
ゴシゴシ洗われたスイトウから、「ス」と「ウ」がはがれ、イトウくんは「スイトウ」から「イト」に変わってしまいました。
イトになったイトウくんは、排水の中へ吸い込まれ、水道管の中を流されていきます。
なんとか、一緒に流されてきた「ウ」をもとに戻そうとしましたが、流されていくうち「イ」と「ト」もはがれてしまい・・・
イトウくんは名前がなくなり透明人間になってしまいました。
でも、そのおかげで自由に動けるようになったイトウくん。
マンホールから外へ出ると、「イ」と「ト」と「ウ」を体に貼り付け、イトウくんに戻ることができました。
もとに戻ったイトウくんのもとへ、なにやら言い争う声が聞こえてきます。
その声は、イカと八百屋のものでした。
イカは自分をスイカだと言い張り、八百屋に来ましたが、八百屋はイカに魚屋へ行けと言い争っているのです。
それを見た「ス」を持っているイトウくんは・・・。

おしまい!
『ほんとはスイカ』の素敵なところ
- 名前が変わると姿も変わってしまうパズルのような言葉遊び
- 姿の変化を活用したハラハラドキドキの物語
- 「めでたしめでたし?」な衝撃的でシュールな結末
名前が変わると姿も変わってしまうパズルのような言葉遊び
この絵本のなによりおもしろいところは、名前から文字が取れたり、くっついたりすることで、本当に姿が変わってしまうところです。
「ス」を落として「イカ」になってしまったと言い張るイカの言葉を、まったく信じないイトウくんと子どもたち。

そんなわけないじゃん!
とまさにイトウくんの気持ちとシンクロした反応を見せます。
でも、本当に「ス」が落ちていて、イトウくんが「スイトウ」に変わってしまうからさあ大変。



本当にスイトウになっちゃった!?



てことは、あのイカもスイカだったんだ!
と、いきなり認識がひっくり返されます。
人間が水筒になってしまうのだから、なにが起こっても不思議ではありません。
イトウくんに「ス」がくっついて「スイトウ」になり、
「スイトウ」から「ス」と「ウ」がはがれて、「イト」になり、
「イト」から「イ」と「ト」がはがれ、なんにもなくなると透明人間になり、
という、まるで言葉のパズルのような楽しさが味わえます。
さらに、この言葉遊びのおもしろさに、姿が変化する絵のおもしろさが加わるからたまらない。
文字を足し引きして、言葉を変える言葉遊びをしたことはあっても、動きのある絵で姿が変わる様子を見せられるとおもしろさが桁違い。
改めて、1文字増えたり減ったりするだけでぜんぜん違うものに変わってしまう言葉遊びの不思議さとおもしろさを実感します。
子どもたちの楽しそうに驚く姿を見ていると、言葉遊びと絵が組み合わさった爆発力のすごさがよくわかりますよね。
この、文字の足し引きでぜんぜん違うものになってしまう言葉遊びのおもしろさを、動きのある楽しい絵で倍増させてくれるところがこの絵本のとても素敵なところです。
姿の変化を活用したハラハラドキドキの物語
言葉遊びとえのおもしろさが組み合わさり、爆発的におもしろいこの絵本ですが、物語も忘れてはいけません。
言葉遊びと絵のおもしろさが、存分に活かされたハラハラドキドキの物語となっています。
なんせ、姿が変わるたびに、驚きの展開が待っているのですから。
水筒になれば、リサイクルショップのおじさんに拾われ売り物にされそうになり、
糸になれば細い体を活かして排水溝に潜り込み、
透明人間になることで自由に動けるようになり、
と、なんにでもなれることで、とても自由な発想の物語が展開していきます。
自由な発想ということは、全然予想がつかないということ。
見ている子どもたちも、



糸になって流されちゃったよ!



ええ!?名前なくなってなんにもなくなっちゃった!?
と、変身するたびに驚きながら大盛りあがりです。
まったく予想がつかない展開に、絵本へ釘付けになっていました。
この、姿が言葉遊びに合わせ自由に変わっていくからこその、ユニーク過ぎる物語展開に最初から最後まで全然予想がつかないハラハラドキドキのおもしろさも、この絵本のとても楽しいところです。
「めでたしめでたし?」な衝撃的でシュールな結末
さて、そんなハラハラドキドキの物語は、最初に会ったイカに戻って終わります。
最初は、イカが本当は「スイカ」だという言葉をまったく信じていなかったイトウくん。
ですが、最後の場面では違います。
自分の変身体験を通して、イカが本当に「スイカ」なのだとわかっているし、「ス」もちゃんと持っているのです。
最後の場面で、イカに「ス」を返してあげるイトウくん。
こうして、「ス」ももとに戻り、めでたしめでたしかと思いきや、最後の1ページで衝撃の結末が・・・。
スイカとして考えれば本望かもしれませんが、これまで話しをしてきたイカと考えると複雑なような・・・。
そんな、「めでたしめでたし?」と、首を傾げるようななんとも言えない気持ちで終わるのです。
最後のページでイトウくんが見せる爽やかな笑顔と痛快な一言でカラッと終わるぶん、なおさら見ている方は複雑な気持ちに。
この、めでたしめでたしかと思いきや、衝撃的な最後のページでなんとも言えない複雑な驚きを味わえるところも、この絵本ならではの素敵でシュールなところです。
ぜひ、自分の目で最後のページを確認してみてください。
きっと、ぼくの気持ちがわかるはず。
二言まとめ
名前が変わると姿も変わるという言葉遊びに、ユーモアたっぷりの絵と物語を加えることで、おもしろさを倍増させた。
予想のつかないハラハラドキドキの展開と衝撃的でシュールな結末に、驚きっぱなしの言葉遊び絵本です。
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