作:くすのきしげのり 絵:ふるしょうようこ 出版:学研
自分にはいいところがないと思っている女の子。
友だちに相談すると、「手が温かいところ」がいいところだと褒めてくれました。
嬉しくなって、掃除の後、他の子の手を温め続けてあげました。
でも、その友だちが温めてもらいに来た頃には、自分の手が冷たくなっていて・・・
あらすじ
小学生のあいちゃんは、自分にはいいところが1つもないと思っていました。
背も低く、力も弱く、走るのも遅く、声も小さく、100点なんてとったことがなかったからです。
学校からの帰り道、自分にはいいところがないことを、友だちのともちゃんに話しました。
すると、ともちゃんは「そんなことない」と言ってくれます。
あいちゃんは信じず、「それなら、いいところを教えて」と返すと、なかなか出てこないともちゃん。
ともちゃんは、「明日までに考えてくる」と言いながら帰ってしまいました。
あいちゃんはすっかり落ち込んでしまいました。
けれど、翌日の朝。
登校してくるなりともちゃんが、あいちゃんの席に来て、いいところを教えてくれました。
そのいいところとは「クラスで1番手が温かいところ」。
前に手を繋いだ時に思ったのだそうです。
ともちゃんがあいちゃんの手を離さないのでクラスのみんなも集まってきました。
ともちゃんは、みんなにも手が温かいことを伝えてくれ、みんなもあいちゃんの手を握ると、その温かさを褒めてくれました。
ともちゃんが、自分のことのように自慢してくれるのを見て、あいちゃんは嬉しくなりました。
その日の掃除が終わったあとの時間。
あいちゃんは、バケツの冷たい水を使った子の手を握り温めてあげました。
たくさんの子の手を温めてあげたあと、最後にともちゃんが来たので、あいちゃんは「ありがとう」の気持ちを込めて手を握りました。
だけど、あいちゃんがともちゃんに温かいか聞くと、ともちゃんに温かくないと言われてしまいます。
たくさんの子の手を温めていたので、あいちゃんの手は冷え切ってしまっていたのでした。
いいところがなくなってしまったと思い、あいちゃんの目から涙が溢れました。
でも、その時、ともちゃんがあいちゃんの手を笑顔で握ってくれました。
そして、あいちゃんのもっといいところを見つけたと言ってくれたのです。
ともちゃんが見つけてくれた、あいちゃんのいいところとは・・・?

おしまい!
『ええところ』の素敵なところ
- いいところを誰かに認めてもらう嬉しさ
- いいところを失ってしまう怖さや悲しさ
- いいところに気付き合う温かさを感じられる結末
いいところを誰かに認めてもらう嬉しさ
この絵本のなにより素敵なところは、他の人に認められることで、自分が気付かなかったいいところに気付けるところです。
自分にはいいところが1つもないと思っていたあいちゃん。
ですが、ともちゃんに話し、いいところを探してもらったことで、自分の「手が他の子よりも温かい」といういいところに気付けます。
さらに気付いただけでなく、ともちゃんをきっかけにクラスみんなに知ってもらい、褒められて認められたことで、自分のいいところを、自分でも認められ嬉しくなるのです。
これは、自分だけでは気付けなかったし、気付けたとしても自信を持つことはできなかったでしょう。
自分のいいところを、みんなに認めてもらう嬉しさが、この絵本からはとても強く感じられます。
子どもたちも、みんなに手を握って褒めてもらう姿を見て、

あいちゃん、嬉しそう!



そんなにあったかいんだ!私も触ってみたい!
と、自分のことのように嬉しそうに笑顔を見せていました。
自分の手やとなりの子の手を触ってみて温かさを確かめたり、



〇〇くんの手、すごいあったかい!
と、絵本の中のように友だちを褒める姿も、とても微笑ましかったです。
この、自分のいいところを見つけてもらい、認めてもらう嬉しさを、自分のことのように感じられるところが、この絵本のとても素敵なところです。
いいところを失ってしまう怖さや悲しさ
そんな、手が温かいといういいところですが、突然なくなってしまいます。
他の子の手を温め続けたことで、自分の手が冷たくなってしまったのです。
なによりも、1番温めてあげたかった、1番心を込めて手を握ったともちゃんから、「温かくない」と言われてしまったのだから悲しさも大きなものに。
自分のいいところを認めてもらう嬉しさとともに、唯一自慢できるものを失うという怖さや悲しみも、この絵本には詰まっているのです。
あいちゃんの不安そうな言葉や、明るい心が一気にどんよりとする背景の変化、悲しそうな表情、そして目から流れる大粒の涙・・・。
あいちゃんの自信がなくなる怖さと悲しさが、とてもよく現れています。
でも、子どもたちは、



みんなの手温めてあげてたからだよ!



あいちゃん、優しかったから・・・
と、あいちゃんの悲しみとは反対に、あいちゃんの優しさを感じて声援をおくります。
この、あいちゃんの落ち込む姿と、優しい姿を見ていた子どもたちの応援したい気持ちのジレンマも、この絵本のとても素敵なところです。
気持ちというものの複雑さがよく表れていますよね。
絵本の中で客観的に見ると応援できても、自分があいちゃんの立場になったら落ち込んでしまう。
そんな、難しい気持ちというものを、俯瞰的に見せてくれます。
きっと何度も見ているうち、「自分は今あいちゃんみたいに悲しんでる」と実感できるタイミングがくるかもしれませんね。
いいところに気付き合う温かさを感じられる結末
さて、こうしていいところがなくなってしまったと悲しむあいちゃん。
その悲しみから救ってくれたのも、やはりともちゃんの言葉でした。
このともちゃんの言葉を聞いて、あいちゃん自身も救われるだけじゃなく、ともちゃんのいいところに気付くというのも、この絵本のとても素敵なところとなっています。
最初は、自分のいいところで手一杯だったあいちゃん。
でも、ともちゃんに認めてもらえ、自分のいいところを実感することができました。
そして、いいところを認めてもらえたからこそ、最後の場面でともちゃんのいいところにも気付けるようになったのです。
同時に、新たな目標の発見にも。
この絵本では、そんな他者との関わりによっていいところに気付きあうという温かなループが、とても丁寧に身近なものとして描き出されています。
だからなのでしょう。
見たあとに、他の人のいいところを探して、伝えたくなるのです。
この、あいちゃんとともちゃんの関わりを通して、いいところに気付きあう素敵さに気付かされ、自分もあいちゃんと一緒にいいところ探しをしたくなるのも、この絵本のとてもとても素敵で温かなところです。
ぜひ、巻末に載っている「よい子の石」という、作者の素敵な教育実践法も読んでみてください。
家でも学校でも保育園でもできる、簡単で素敵ないいところ探しがしたくなる方法になっていますので。
二言まとめ
自分のいいところを、友だちに見つけてもらい認めてもらう嬉しさがあいちゃんと一緒に感じられる。
見たあとに、友だちのいいところをあいちゃんと一緒に探しに行き伝えたくなる、とても優しい絵本です。
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