作:さとうわきこ 出版:福音館書店
雨降りの中おつかいを頼まれた女の子。
雨が降ってる、靴が濡れちゃう、服が濡れちゃう・・・。
色んな理由で行きたくありません。
そんな不安に全部対策するうちに、女の子はすごい出で立ちになっていき・・・。
あらすじ
雨が降っていたある日。
女の子はお母さんからおつかいを頼まれました。
でも、女の子は断ります。
だって、雨が降っているのですから。
お母さんが傘を渡しますが、足が濡れちゃうと返します。
お母さんが長靴を渡しますが、服が濡れちゃうと反論します。
お母さんがレインコートを渡しますが、髪の毛が風でくしゃくしゃになると言い返します。
お母さんが帽子を渡すと、口ごもりながらもなにか言いたそうな女の子。
ですが、さすがにお母さんの堪忍袋の緒も切れて、
「はやくいきなさい!!」
と言われてしまいました。
けれど、やっぱり女の子は不安です。
そこで、ネコに不安なことを聞いてもらうことに。
大水になったらどうしようと女の子が言うと、ネコはゴムボートを持ってきてくれました。
ボートがひっくり返ったら女の子が言うので、ネコは浮き輪と足ヒレを持ってきてくれました。
でも、まだまだ不安はつきません。
女の子はいつになったらおつかいにいけるのでしょうか・・・?

おしまい!
『おつかい』の素敵なところ
- 尽きない不安と解決するたび重装備になっていく女の子
- 女の子の不安がイメージしやすい左右のページ割り
- 不安が全部吹き飛ばされるシュールでカラッとしたオチ
尽きない不安と解決するたび重装備になっていく女の子
この絵本のなによりおもしろいところは、女の子の雨に対する尽きない不安でしょう。
お母さんがなにを言っても「でも・・・」と返す女の子。
傘を持っても、長靴を履いても、レインコートを来ても、全然不安は消えません。
ついには、「はやくいきなさい!!」と、叱られてしまいます。
でも、ここからがこの絵本のさらにおもしろいところです。
お母さんが会話に加わらなくなったことで、女の子の不安と準備するものがどんどん飛躍していきます。
大水になったら・・・
ボートがひっくり返ったら・・・
と不安が出るたびネコが解決グッズを持ってくるので、女の子はどんどんヘンテコな重装備に。
傘を持ち、長靴を履いて、レインコートを着て、帽子を被り、ゴムボートに乗り込んで、浮き輪をお腹につけながら、長靴の上に足ヒレを装着する・・・
という、誰もおつかいに行くだけとは思えない出で立ちになっています。
このどんどん装備が増えていく姿に、

ボートに乗っちゃうの!?



海に行くみたい!



そんなにいらないよ~
と、装備を身につけるたび大笑いしていました。
しかも、まだ進化を残しているから恐ろしい。
きっと、大人がいたら「そんなことあるわけないでしょ」と言われて終わりだったでしょう。
このどんどん広がっていく不安からは、子どもの想像力が無限の広がりを持っていることを強く感じさせてくれます。
無限に広がっていく不安に対する女の子の真剣さと、それに合わせどんどんヘンテコで重装備になっていくという見た目の滑稽さのギャップからくるおもしろさが、この絵本ならではの素敵で思わず笑ってしまうところです。
ぜひ、家出でもするのかと思ってしまうほど重装備な最終形態を見てみてください。
吹き出してしまうこと間違いなしですよ。
女の子の不安がイメージしやすい左右のページ割り
そんな、女の子の不安が次から次に出てくるこの絵本。
そのおもしろさを子どもたちへ十分に伝えるためのある工夫がされています。
その工夫が左のページには現実の女の子、右のページには女の子が不安をイメージした光景が描かれ、左右のページで内容がきっちりわかれているのです。
このページ割りが非常にわかりやすく、毎回同じ構図なので小さい子にも、現実の世界と想像の世界の区別がつきやすく、ごちゃごちゃになりにくい。
女の子の不安なイメージが、しっかりと絵で表現されていることも相まって、この絵本ならではの女の子の不安がどんどん湧いて飛躍していくおもしろさがとてもわかりやすく伝わります。
3歳くらいの子だと、現実と想像を行き来する絵本は、迷子になりがちだったりしますが、



カッパ着ていかないと!



浮き輪持ってかなきゃ溺れちゃう!
と、まだおつかいに出かけていないのがしっかりわかっているようでした。
自分が用意しようと思っていたものより、スケールの大きなものが出てきて驚かされるのも、わかっているからこそのおもしろさですね。
この、子どもが現実の姿とイメージの中の姿を区別しやすいよう、左右にきっちりと現実世界と想像世界がわけて描かれるページ割りも、この絵本のおもしろさが子どもたちにより伝わる素敵な工夫となっています。
不安が全部吹き飛ばされるシュールでカラッとしたオチ
さて、こうしてどんどん重装備になっていく女の子ですが、ついにおつかいに行く決心をします。
その出で立ちは、嵐が来ても地震が来ても大丈夫だと思えるほどの重装備に大荷物。
歩くだけでも大変そうです。
でも、家から出た瞬間、女の子も子どもたちもあっけにとられるようなオチが待っていました。
ここまで長いこと、あれやこれやと準備してきた時間をあざ笑うかのような見事なオチにみんな呆然。
文章がなく、無言というのも素晴らしいセンスを感じます。
見開きいっぱいのページから、女の子の頭の中で色々な気持ちや考えが渦巻いていることが、テレパシーのように静かにひしひしと伝わってきます。
このなんともとても明るくカラッとしつつ、とてもシュールな結末もこの絵本のとても素敵でおもしろいところです。
きっと、見た人はみんなこのオチに言葉を失うことでしょう。
そして、女の子の切り替えの早さに、さっきまでの不安が嘘のようなカラッとした気持ちよさを感じることでしょう。
まさに、コロコロ変わる子どもの心模様を感じさせられますね。
二言まとめ
雨降りの中のおつかいに、不安がどんどん湧いてきて、対策するうちどんどんヘンテコな姿になっていくのがおもしろい。
これまでの不安をすべて吹き飛ばしてしまうような結末に、しっかり念入りに対策した分だけ脱力感が凄まじい、もう笑うしかないシュールな雨の日絵本です。
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