作:林木林 絵:ひがしちから 出版:ひさかたチャイルド
ゆっくり進むでんでん虫の電車がやってきました。
「お急ぎでない方はお乗りくださーい」
ゆっくりゆる~く、でんでんでんしゃは進みます。
草木の中の素敵な景色をゆっくりのんびり楽しみながら。
あらすじ
ある日、雷がなり雨が降り出しました。
虫たちは急いで大きな葉っぱの下に入り雨宿り。
そこへでんでん虫の、でんでんでんしゃが到着。
「お急ぎでない方は、どうぞご乗車くださーい。」
と、雨の日のお出かけに誘ってくれました。
虫たちは喜んで、でんでんでんしゃに乗り込みます。
でんでんでんしゃは素敵な場所に向け出発したのでした。
でんでんでんしゃは、歩くよりも遅いスピードで、雨のしずくがきらめく茎の橋を渡ります。
ゆっくりゆるーく進むので、きれいな雨のしずくをじっくり見られ、虫たちは大喜び。
でんでんでんしゃがゆっくり進む中、カエルのケロケロタクシーとガマバスが急いで追い越していきました。
橋を越えると、葉の上へ到着します。
続いて葉の裏、水たまり前を通り過ぎ、朝顔のツルでできた、つるつる峠を通っていきます。
つるつる峠は曲がりくねっていて、ぐるぐる回ったり、逆さになったりまるでジェットコースターみたい。
と、着いたのは行き止まり。
どうやら道を間違えたみたいなので、正しい道に戻ります。
そして、つるつる峠を越えると、でんでんでんしゃはいよいよ目的の素敵な場所へ到着です。
そこはあじさいトンネル。
見上げると、青いあじさいが空いっぱいに広がって、青空の下にいるみたいと、虫たちは大喜びです。
でも、まだ素敵な場所は終わりません。
青いあじさいトンネルを抜けると、次に見えてきたのは・・・

おしまい!
『でんでんでんしゃ』の素敵なところ
- 雨の草木をじっくりのんびり見ることができる、でんでんでんしゃの素敵な旅
- 虫たちの低い視点から見る空いっぱいの美しいあじさい
- あじさいと空にまつわる言い伝えが混ざりあった、詩的で美しく開放的な最後の場面
雨の草木をじっくりのんびり見ることができる、でんでんでんしゃの素敵な旅
この絵本のなによりおもしろいところは、電車なのにとてもゆっくりなでんでんでんしゃでの旅でしょう。
普通は快速電車などで、
「お急ぎの方はご乗車ください」
と言われるところをでんでんでんしゃでは、
「お急ぎでない方はご乗車ください」
とまったく逆。
子どもたちも驚いて、

急いでない人なんだ!?
と言いつつも、



でんでん虫はゆっくりだもんね!
ととても納得。
ゆっくりのろのろ這っていく、でんでん虫界の常識が、電車の常識を上回ったようでした。
このゆっくりゆるーい電車の旅のとても素敵なところが、雨の自然をじっくりと見ることができるところ。
草木に輝く雨のしずくの美しさ、
しずくがポタポタと落ちるきらめき、
朝顔のツルのぐるぐる具合、
など、急いでいたら素通りしてしまいそうな、自然の中にある美しさや不思議さなどをゆっくりじっくり感じることができるのです。
このゆっくりじっくりした時間軸や雨のしずくをじっくり見て心奪われる様子は、まさに子どもが雨のしずくの美しさや不思議さに気付き、しゃがみ込み時間も忘れてじーっと見ている姿を思い出させてくれます。
でんでんでんしゃというゆっくりゆるーく進む電車に乗ったことで、余計なことは気にせずに、雨の自然をのんびりじっくり楽しめる、でんでんでんしゃの旅の楽しさとワクワク感が、この絵本のとても素敵なところです。
虫たちの低い視点から見る空いっぱいの美しいあじさい
こうして、雨の自然をゆっくりゆるーく楽しみながら進んでいくでんでんでんしゃの旅ですが、ゴールとなる目的地があります。
それが、あじさいトンネルです。
そこは隙間がないほど、あじさいの花が生い茂り咲き誇るあじさいの群生地。
ここででんでんでんしゃならではの特別なところがあります。
その特別なところとは、いつもは上から見ることが多いあじさいを、虫たちの低い視点から見上げられるところ。
所狭しと咲き誇るあじさいは、下から見上げると空を覆いつくし、まるで青空が広がっているように見えるのです。
虫たちがあじさいを見上げた時の眼を見張るような美しい光景が素敵なのはもちろんのこと、虫たちの低い視点から見たら青空のように見えるだろうなと考えた想像力もとても素敵だなぁと感じます。
子どもたちも、



すごいきれい・・・



晴れてるみたいだね!
と、感嘆の声を上げ、思わず頬が緩みます。
でも、これだけでは終わりません、トンネルはさらに続き、また別の光景を見せてくれるのです。
この2段階の驚きに、子どもたちはやっぱり感嘆の声を上げ、すっかりあじさいトンネルの中に吸い込まれてしまったよう。
きっと、子どもたちの心は、虫たちと一緒にでんでんでんしゃに乗っていたことでしょう。
この、いつもと違う虫たちの視点から、まるで空のように広がる美しいあじさいを見上げることができるのも、この絵本ならではの素敵で思わず顔が上を向いてしまうところです。
あじさいと空にまつわる言い伝えが混ざりあった、詩的で美しく開放的な最後の場面
さて、こうしてあじさいのトンネルを進んでいくと、トンネルの出口が見えてきます。
ここで、虫たちがとても素敵なことを話し始めました。
それは、
「お空が夕焼けになったら、晴れる合図なんだって」
というもの。
本当の空は雨が降っていて見えませんが、今の虫たちにとっての空はあじさいです。
このあじさいが空に見える→あじさいの色によって違う空模様に見える→夕焼け空は晴れる合図。
という、連想ゲームのようなイメージの連鎖が起こり、あじさいトンネルをきっかけに想像がふくらんでいくのです。
そして、このふくらんだ想像から期待されるのは、もちろんトンネルを抜けた先の景色。
ページをめくるたびふくらんでいく期待感を、しっかりと受け止めてくれる結末が待っています。
この、あじさいを空に見立てるという詩的な表現と、本当の空模様が繋がっていく素敵で美しく開放感溢れる最後の場面も、この絵本のとてもとても素敵なところです。
この絵本を見た後であじさいを見つけたら、その下に入り込み、あじさいの空を見上げてみたくなってしまいます。
二言まとめ
電車とは思えないゆっくりと進むでんでんでんしゃの素敵な旅に、のんびりゆるーく心が躍る。
あじさいトンネルの美しさに、自分もあじさいの下へ潜り込みたくなってしまう雨の日絵本です。
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