作:エリック=カール 訳:くどうなおこ 出版:偕成社
秋の訪れを感じさせるコオロギの虫の音。
でも、生まれたばかりのコオロギはうまく音が出せません。
そんな、まだ音を出せない小さなコオロギの成長を、目と耳で伝えてくれる仕掛け絵本です。
あらすじ
ぽかぽか温かいある日、こおろぎぼおうやが生まれました。
大きなコオロギが挨拶をしてきました。
小さな羽をこすって挨拶を返そうとしましたが音が出ません。
バッタがやってきて挨拶してきました。
また、挨拶を返そうとしますがやっぱり音が出ません。
その後も、カマキリ、小さな虫、アワフキムシ、セミ、マルハナバチ、トンボ、蚊と次々に出会っていきますが、一度も音を出せず、挨拶を返すことが出来ませんでした。
そんな中、音も出さずに蛾が通り過ぎていきました。
コオロギはしんみり黙っているのもいいものだなと思いました。
蛾が遠くに消えて行ったあと、コオロギは仲間の女の子を見つけました。
コオロギはもう一度羽をこすって、挨拶しようと思いました。
コオロギは音を出すことが出来るのでしょうか。
『だんまりこおろぎ』の素敵なところ
- わかりやすい繰り返し、決まり文句
- 次々に出てくるたくさんの虫たちと、時の流れ
- 本当にコオロギの虫の音が聞こえる仕掛け
この絵本は虫と出会って、挨拶を返そうとするけれど音が出ないと言う繰り返しで出来ています。
このわかりやすい繰り返しで、「次はどんな虫が出てくるんだろう?」「次は音が出るかな?」と小さい子も、大きい子もワクワクドキドキで、次のページを待ちます。
また、文章の後半が
こおろぎぼうやも挨拶したくて
小さな羽をこしこしこし
でもあらら
音が出ないよ歌えない
という決まり文句になっているのも、つい口ずさみたくなるような気持ちのよいリズムを作り出しています。
そんなわかりやすい繰り返しの中、次々と登場する虫たちは、どれも生き生きとしていて躍動的。
また、繊細な色使いでリアルに描かれています。
体の質感や、足の爪一本一本まで描き込まれています。
だからこそ、見ている子どもも大喜びで「カマキリだ!」「トンボ!」など、知っている虫を見るたびに声が上がります。
そんな虫たちと会っていく中で背景の時間は着々と進んでいきます。
朝から昼、そして夜へ。
それはコオロギが成長していく過程でもあります。
そして、コオロギの女の子を前にする最後の場面。
ここでまさかの仕掛けが飛び出します。
ページをめくると、コオロギの虫の音が流れ出すのです。
「本当に鳴いた!」「音が聞こえる!すごい!」と声が上がるのと同時に、驚きよりも「挨拶できてよかったね」とすんなり物語のセリフとして受け止める子が多かったのも印象的。
この仕掛けが、物語の一部として違和感なく子どもに伝わっているのを感じます。
そんなコオロギの成長と、本当の虫の音を楽しめる仕掛け絵本です。
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