作:板橋雅弘 絵:シゲリカツヒコ 出版:岩崎書店
楽しいお出かけやいつもの場所も、迷子になると一変します。
「もう家に帰れないかも」「家族に会えないかも」
そんな不安にどんよりと不気味に見えてきます。
そんな迷子体験をリアルにさせてくれる絵本です。
あらすじ
お兄ちゃんたちと一緒にショッピングモールにやってきた男の子。
中に入るとその大きさにびっくり。
びっくりしすぎてトイレに行きたくなってしまった。
お兄ちゃんに本屋で待っていてもらい、男の子はトイレに行った。
トイレから戻ると、本屋にお兄ちゃんたちの姿はなかった。
お兄ちゃんたちはわざと隠れて、男の子の様子を見ていたのだった。
男の子はお兄ちゃんたちを探し始めた。
色んな売り場を探したけれど見つからない。
そこで男の子は2階と3階も探すためにエスカレーターに乗った。
それを見て、お兄ちゃんたちも後を追った。
しかし、お兄ちゃんたちは男の子を見失ってしまった。
お互いに必死に探すが見つからない。
この大きくて広いショッピングモールで再開することは出来るのでしょうか。
『ぼくはまいごじゃない』の素敵なところ
- 小さな男の子の目線を体験できる
- こちらまで不安になるリアルな表情
- 男の子の不安がよく伝わる心理描写
この絵本の素敵なところは、小さな子が迷子になった不安を体験できるところです。
不安で不安でたまらない、迷子特有の感覚を追体験させてくれます。
まずはその目線です。
多くのページが男の子の身長と同じ高さから描かれます。
大人の顔は自分の目線よりはるか上にあり、見上げなければ見えません。
ショッピングモールの高さや広さも男の子の目線ではより大きく見えます。
まるで自分がショッピングモールの中に一人ぼっちでいるようです。
目線だけでなく、表情もリアルです。
不安をなんとか抑え込もうとする表情、焦って探す表情、心細さを感じる表情など、こちらまで不安になってくるようなリアルな表情で描かれます。
絵だけでなく文章にも特徴があります。
それは男の子の感じたことや気持ちで話が進んでいくことです。
お兄ちゃんたちにもセリフはありますが、説明などはありません。
その時発した言葉のみです。
対して、男の子は「一緒に来てほしかったけど」「一人になったとたん、モールの中が暗くなった気がした」などの、感じたことや思ったことが文章になっています。
この徹底した一人称視点が、自分を男の子と一体化させ、リアルな迷子体験を生み出しています。
読んでいると、「お兄ちゃんどこいったんだろう」「怖いね」など、男の子の気持ちを代弁する言葉が聞かれました。
そんな迷子を一人称視点で体験できる珍しい絵本です。
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