作:中川ひろたか 絵:ミロコマチコ 出版:金の星社
いい噓、悪い嘘、優しい嘘。
嘘にも色々な嘘があります。
きっと嘘をついたことがない人はいないでしょう。
「嘘ってなんだろう・・・」そんなことを考えさせてくれる絵本です。
あらすじ
男の子は考えた。
嘘は悪いって言われているけど、嘘をついたことがない人なんているのかと。
お母さんはさばを読んだり、偽物の真珠のネックレスをして出かける。
自分も傘を忘れた時に盗まれたと言ったり、おねしょをした時にコップの水をこぼしたと言ったりする。
友だちをお父さんが総理大臣だと言っていたけど、絶対嘘。
食事に嫌いなものが出た時に、お腹が痛い振りをしたりもする。
テレビのセットや、映画俳優も嘘?
食品サンプルのスパゲティやお弁当のバランも。
羊飼いの少年が何度も「おおかみだ!」と大人を騙していたら、本当におおかみが来た時に誰も信じてくれず、羊が全部食べられた。
おばあさんは毒のリンゴを、「美味しいよ」と噓をついた。
おおかみは7匹の子ヤギに、「おかあさんだよ」と嘘をつく。
嘘をつくことはいけないことだけど、人を喜ばせる嘘もある。
優しい嘘、守る嘘。
嘘ってなんだろう。
『うそ』の素敵なところ
- わかりやすい言葉と例で嘘の多様性を感じさせてくれる
- 嘘はつくだけでなく、虚構の嘘もある
- 嘘ってなんだろうとそれぞれに考えさせてくれる
この絵本はとても深く複雑なテーマであるにも関わらず、ものすごくわかりやすく描かれています。
それは男の子が話し言葉で語る、文章のわかりやすさが大きいです。
それに加えて、たくさんのわかりやすい例を出して、「嘘ってこんなに色々あるんだ」というのを感覚的に伝えてくれます。
お母さんのさば読みから、おねしょの言い訳、嫌いなものへの腹痛、ドラマの舞台や俳優の仕事、食品サンプルに、馴染みのある昔話など、身近で身に覚えのあるものがたくさん出てくるので感覚的に伝わるのです。
子どもたちからも「ぼくもこの嘘ついたことある」という言葉もちらほら。
この例に言葉の嘘だけでなく、偽物も嘘として入っているのもポイントです。
この絵本を読むまで、嘘の一種として認識している人は少ないのではないでしょうか。
でも、言われてみると納得です。
本当ではないのですから。
この偽物、虚構が加わることで、嘘の世界は大きく広がるのです。
そんな嘘の世界をどんどん広げていくこの絵本ですが、広げたまま終わります。
答えはありません。
それは十人十色で正解もないからです。
でも、だからこそ深く考えることが出来るのだと思います。
こんなにも深く複雑なテーマを、こんなにも平易にわかりやすく直感的に伝えてくれる。
見方や考え方を大きく広げてくれる絵本です。
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