作:五十嵐豊子 出版:福音館書店
祭りのときに欠かせない縁日。
色とりどりのお店に、賑やかな声。
見て回っているだけでも、元気で楽しい気持ちにしてくれます。
そんな縁日を本当に歩いているような気持ちにさせてくれる絵本です。
あらすじ
2人の兄妹が縁日に出かけました。
まだ、出ている屋台も少なく、神社はいつも通りの雰囲気です。
そんな中、屋台の組みあがり始め、徐々に縁日が賑わいを見せ始めました。
回っていくと、金魚、海ほうずき、ハムスター、お好み焼きなどなど、色々なお店が並んでいます。
定番のものから、今はあまり見かけないカラーひよこの店なども。
いつの間にか神社の中は屋台でいっぱいです。
たくさんの店を周って、兄妹は家に帰ってきました。
『えんにち』の素敵なところ
- 写実的に描かれた縁日の様子が、本当に縁日に来ている気分にさせてくれる
- 神社の俯瞰図を通して、祭りの非日常に気づかせてくれる
- 文章がほとんどないことで、自分だけの祭りを想像できる
この絵本の縁日の様子はデフォルメされることなく、とても写実的に描かれています。
活き活きと動く、店員さんやお客さん。
どんな言葉を発し、どんなやり取りが生まれているのかが聞こえて来るようです。
そんなお店を順々に見ていると、まるで本当に縁日に来たようです。
見ている子どもたちも「あ、あのお店なんだろう!」「あんず飴食べた~い」「ぼく、金魚一人ですくえるよ」など、本当に縁日で店を見ているかのような盛り上がりでした。
そんな写実的な縁日ですが、この絵本はその縁日が出来上がるまでも見せてくれます。
最初の方で描かれる神社の俯瞰図。
そこは普段とほとんど変わりのない神社です。
ですが、日が落ちてくるにつれ、お店の数も増えていきます。
そして、終盤でもう一度出てくる俯瞰図を見ると、最初の神社とは様変わり。
たくさんの屋台が軒を連ね、人や車も増え、そこはいつもの神社ではありません。
そんな日常から、非日常への変化も全体像を用いて感じさせてくれます。
さて、この絵本にはこの作りにピッタリな演出があります。
それが文章がほとんどないことです。
見ている人は文章に邪魔されずに、自分だけのお祭りを想像して楽しめます。
きっと毎年行っている思い入れのあるお祭りを、思い出しながら見ている子もいるでしょう。
その隣にいるのはお父さんかもしれないし、お母さんかもしれないし、おじいちゃん、おばあちゃんがいるかもしれません。
流れているBGMもひとそれぞれでしょう。
そんな原風景のような、それぞれの祭りに思いを馳せながら自分の縁日を楽しめます。
写実的な絵で、本当に縁日に来ているような体験をさせてくれる、文章のない絵本です。
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