文:松谷みよ子 絵:武田美穂 出版:講談社
広く大きな海。
そこには海にしかない楽しみがたくさんあります。
でも、海にしかない怖さも。
その両方を優しく感じさせてくれる絵本です。
あらすじ
モモちゃんはママに連れられて海へ来ました。
海を見て大喜びのモモちゃん。
そんなモモちゃんを見て、ママが言いました。
モモちゃんが赤ちゃんの時、波の音を聞いて泣いたこと。
その後、もう少し大きくなってから来た時にも泣いたことを。
でも、モモちゃんはもう怖くありません。
モモちゃんは、じゃんけんも出来るくらい大きくなったことを海に伝えました。
すると、海は波を通じて「じゃんけんぽんは知らない」と言いました。
そこで、モモちゃんは海にじゃんけんを教え、一緒にやってみることにしました。
じゃんけんぽんの掛け声で、海は波を寄せ、カニをモモちゃんの前に投げました。
チョキです。
モモちゃんはグーを出していたので、モモちゃんの勝ちでした。
その後も何度かじゃんけんをしますが、全部モモちゃんの勝ちでした。
モモちゃんが帰りに砂山から海へ手を振ると、海は「またやろうなあ」と笑って怒鳴りました。
その晩、モモちゃんは海の側のおうちに泊まりました。
ところが、夜遅くなると風が吹き、雨が降り出しました。
次の日は嵐でした。
海は白い波を立てて大きく荒れています。
モモちゃんは家を抜け出して、海を見に来ました。
モモちゃんが海に話しかけても何も言ってくれません。
激しい波が打ち寄せては引き、また打ち寄せているだけです。
嵐の中で、モモちゃんは大丈夫でしょうか。
海はまた穏やかな姿を見せてくれるのでしょうか。
『うみとモモちゃん』の素敵なところ
- じゃんけんを通した海との夢のある関わり
- 波の音と、海の声をリンクさせた表現
- 荒れた時の海の怖さも伝えてくれる
この絵本は全体的に、とても現実的に描かれています。
海に来て、はしゃぐモモちゃんの姿や言葉。
お母さんとの、昔は泣いてしまったというやり取り。
本当に海に来て、遊んでいるようなリアルなやり取りです。
そんな中、モモちゃんの言葉に、海が返事をしてくれます。
そして、じゃんけんをすることになります。
そのじゃんけんも、波の形が変わるとかではなく、グー、チョキ、パーに見える海のものを投げてよこすという夢のあるものです。
とても楽しそうで夢のある展開ですが、同時にモモちゃんの空想遊びなのかもと思える表現なのがおもしろいところです。
海のしゃべり方が、波が打ち寄せたり引いていく様子などとリンクしていて、見方によれば波の音が海の言葉に聞こえているだけのようにも見えるのです。
それはそれで、子ども独特の全てのものを擬人化して考える想像力をフルに使った遊びとして、とっても夢があります。
どちらの見方をしても、夢があると思えるのです。
でも、海は楽しさと同時に、一瞬で命を奪ってしまうほどの危なさも併せ持っています。
優しい部分が物凄く大きいからこそ、油断も誘ってしまいます。
そんな所もこの絵本ではしっかりと表現されています。
いくら話しかけても、返事をしてくれない海。
一瞬でモモちゃんを飲み込んでしまうほど、大きくうねる波。
前日と同じ海とは思えないほどの変わりようです。
そんな海の二面性を、これでもかと突きつけてきます。
モモちゃんの純粋な感性を通して、楽しい海、怖い海の両方を感じさせてくれます。
楽しい部分、怖い部分、その両方を含めた海。
それをモモちゃんの目線を通して、まるごと描いた絵本です。
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