作:斎藤隆介 絵:滝平二郎 出版:岩崎書店
雷様にも子どもはいる。
神様の世界にも言いつけは色々あるけれど、
子どもにだってやってみたいことがある。
雷娘がずっと憧れていた冒険がこっそりと幕を開けます。
あらすじ
雷娘のおシカは雲の上で、雲の柱を相手に一人でセッセッセをして遊んでいた。
その歌は、雲の上から村の女の子たちを見て覚えた歌だった。
おシカは下界へ降りて、村の女の子たちとセッセッセをすることを夢見ていた。
しかし、それは掟で禁じられている。
おっかあは、おシカがセッセッセをするたびに言って聞かせていた。
その日も、おシカが村に行きたいと言い、おっかあがそれをたしなめていた。
そんな中、雲の切れ間から、村の子たちがセッセッセをしている姿が見えた。
おシカはすぐに髪を結って、頭の角を隠した。
そして、おっかあに気付かれないように下界に降りて行った。
おシカは下界に行くと、早速村の女の子たちにセッセッセをして欲しいとお願いした。
でも、知らない子とは遊ばないと言われ、目に涙が溢れてきた。
そこへ茂助という男の子が現れ、おシカを慰めてセッセッセをしてくれることになった。
その時、青空で急に激しい雷の音が鳴り出した。
おとうがおシカを探しているのだ。
雨も激しく降り出した。
そんな中、茂助はおシカを抱えて、見つからないように逃げ出した。
果たして、おシカは憧れのセッセッセをすることが出来るのでしょうか。
『かみなりむすめ』の素敵なところ
- かわいらしくも強い女の子おシカ
- 茂助の優しさや気遣いが温かい
- 人が出来過ぎているおとう
この絵本の登場人物は魅力的な人ばかりです。
それが人と関わりたいと言う、おシカの願いとマッチしてこのお話を魅力的にしているように思います。
まずは主人公のおシカ。
人間とセッセッセをすることに憧れています。
ですが、憧れているだけではありません。
おっかあに、「下界に行きたい」と食って掛かり、反抗もします。
「角があるから怖がられる」と言われれば、「じゃあ、角を切ってくれ」と言い返す。
挙句の果てに、おっかあの目を盗んで下界に降りる行動力。
とても芯の強い女の子です。
でも、下界で村の女の子たちに断られると、悲しくて泣いてしまうなど、かわいらしい部分もたくさん出てきます。
かわいらしさと力強さの両方を持っている人間らしさが、おシカの魅力なのでしょう。
子どもたち、特に女の子からの人気が高く「かわいそう・・・」「よかったね!」「頑張れ!」など感情移入しているようでした。
そんなおシカに寄り添ってくれたのが茂助です。
泣いているおシカに、優しく語りかけてくれ、セッセッセをしたいという願いも汲み取ってくれます。
優しいだけでなく、雷雨になった時におシカを抱えて逃げる勇気もあります。
そんな茂助とおシカのやり取りはたどたどしくも微笑ましく、見ているだけで心が温かくなります。
さて、忘れてはならないのがおシカを探していたおとうです。
このおとう、探している時は怖いですが物凄く人が出来ています。
このおとうだからこそ、あの最後の場面が出来たのでしょう。
掟の大切さと厳しさ、それと同時に、娘への愛と思いやりもしっかり持っているおとう。
その器の大きさが感じられる最後です。
一人一人の登場人物の、強い思いや行動力が絡み合って紡がれる物語。
だからこそ、一人一人の人物に感情移入し、食い入るように見てしまうのだと思います。
コメント