作:降矢なな 出版:福音館書店
桃畑で見つけた大きな桃。
その桃は、桃の種で出来た人たねまろのお屋敷だったのです。
桃の中では、楽しく美味しい桃尽くしのひと時が待っていました。
あらすじ
夏になり、桃が色づき始めました。
ももこは毎日家の裏の桃畑に、桃の様子を見に行っていました。
ある朝、桃畑に行くと、桃たちが甘酸っぱい匂いを漂わせています。
ももこはその匂いを思いっきり吸い込みました。
すると、畑の向こうが桃色に輝き始めたのです。
ももこが輝いている方へ行ってみると、とてつもなく大きな桃がありました。
大きな桃を見ていると、小さな戸があることに気付きました。
戸の前にはぽっくりが置いてあります。
そして、ぽっくりをはいて中へ入るようにと手紙もあります。
ももこがぽっくりをはいてみると、ぽっくりがひとりでに動き出し、桃の中へ入り上の方へももこを運んでいきました。
ぽっくりは銀色の御簾の前で止まりました。
中から「さあ、入れ」と声がします。
ももこが入ってみると、そこにはお付きの桃に囲まれて、桃の種の顔をしたおじいさんが座っていました。
おじいさんは「もものうえのたねまろ」だと名乗りました。
ももこもかしこまって、丁寧にお辞儀とお礼を返します。
たねまろは満足そうにしていて、ももこは大人になった気分でした。
まずはたねまろがお抹茶を入れてくれました。
これはももこには苦過ぎました。
次に、桃尽くしのごちそうが出てきました。
これにはももこも大喜びでしたが、上品に食べました。
その後も、早口言葉をしたり、踊ったりと楽しく時間は過ぎていきました。
そして、ももこが帰る時間になり、お暇することをたねまろに伝えると・・・。
『もものうえのたねまろ』の素敵なところ
- 桃の中に入るというまさかの展開
- 大人のお客様のように扱われる嬉しさ
- 読むと桃にかぶりつきたくなる
大きな桃が出てくるお話は数あれど、桃の中に入り、そこがお屋敷になっているお話は中々聞きません。
しかも、桃のイメージにぴったりの、日本や中国風のお屋敷です。
その中はまさに桃源郷。
美しく、楽しく、桃尽くし。
挨拶のお抹茶には桃の砂糖漬けがついていて、出てくる料理も桃ばかり。
中には桃のシチューなど、味の想像がつかないものもあったりします。
桃の早口言葉で遊んだり、お付きの人は顔が桃だったりと、全て桃と繋がっています。
そんな桃のお屋敷にお呼ばれしたももこ。
そこでは大人のような扱いを受けます。
対等の相手として扱われ、自然とももこも大人のような立ち振る舞いに。
「このたびはお招きくださいまして、どうもありがとうございます」
「けっこうなお味ですこと」
と、言葉遣いも大人のように上品になってしまいます。
この、大人の偉い人に対等に扱われるというのは、子どもにとって物凄く誇らしい体験です。
ももこの表情もとても誇らしげ。
それをももこと一緒に味わえるのも、この絵本の素敵なところです。
そして、もう一つ素敵なところが、読むと物凄く桃を食べたくなること。
それくらい、桃の魅力をふんだんに伝えて来るのです。
桃畑に実る桃。
甘酸っぱい香り。
美味しそうな桃料理たち。
つやつやとしたとても大きな桃。
でも、なによりも桃にかぶりつきたくなるのは、最後のページです。
このページを見たら、自然と涎が出てしまうことでしょう。
桃の瑞々しさや、滴る果汁が自然と頭に浮かんでくるのです。
桃の中での、楽しく、美味しく、不思議な体験。
それを見ることで、「自分も入ってみたい」と思うのと同時に、もの凄く桃が食べたくなる絵本です。
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