文:内田麟太郎 絵:西村繁男 出版:小学館
普通のタコの男の子たこきちくん。
そこへ、弁慶、水戸黄門、クマ、姫というそうそうたるメンバーが助けを求めやってきます。
そんな力ないのに、なんだかよくわからないまま、一大事に巻き込まれてしまうのでした。
あらすじ
タコのたこきちくんが、浜辺でお昼寝をしていると・・・。
暴れん坊の弁慶が助けを求めてやってきました。
でも、たこきちくんは弱虫の泣き虫のびびりっこ。
弁慶にだめだめしました。
けれど弁慶はたこきちくんにしがみつき、追いかけられていると震えだします。
つられてたこきちくんもぶるぶる。
2人で震えていると、水戸黄門がやってきて、印籠をつきつけ言いました。
「この印籠が目に入らぬか!」
たこきちくんは答えました。
「そんなに大きいものは目に入りません。」
水戸黄門はしょげかえりましたが、助けを求め、たこきちくんにしがみつきました。
そこへクマがやってきて「やい、タコ。俺を助けろ。」と言いました。
「タコ」と呼び捨てにされ、へそを曲げたたこきちくん。
「助けたくありません」
と、口を尖らせて言いました。
するとクマは、たこきちくんにしがみつき、しくしく泣き始めました。
大きなクマが泣き出すほど怖いもの・・・。
たこきちくんは不安になってきました。
そこへ綺麗なお姫様がやってきて、たこきちくんに助けを求めてきました。
たこきちくんはさっと手を差し伸べ、思わず抱きしめていました。
見つめ合う二人・・・。
と、そこでたこきちくんは、みんなが何に追われているのか気になり聞いてみました。
それは「クジラよりも大きく、口から火を噴き、生きているものをなんでも食べる、怪獣ギギラ」だと言います。
その時、山の上でギギラが立ち上がりました。
ギギラはこちらに迫ってきます。
でも、骨もないタコのたこきちくんに、どうにかできる力なんてありません。
一体どうなってしまうのでしょうか?
『タコのたこきちくん』の素敵なところ
- たこきちくんのものすごい一般タコな対応
- 本当に出てくる巨大な怪獣
- まさかすぎるタコならではの解決策
たこきちくんのものすごい一般タコな対応
この絵本のおもしろいところは、たこきちくんとそうそうたるメンバーとのかけあいでしょう。
たこきちくんは、昼寝が好きな何の力もない一般人。
いや、一般タコです。
出てくる相手は、弁慶や水戸黄門、クマにお姫様など、まったく住む世界の違うものばかり。
絶対たこきちくんより強い人たちが、なぜかたこきちくんに助けを求めてくる構図だけですでにおもしろい。
そこに来て、たこきちくんの受け答えがさらにおもしろく、
必死に助けを求める弁慶に「だめ、だめ、ぼくは弱虫の、泣き虫の、びびりっこだから。」と、身もふたもない断り方をしたり、
水戸黄門の「助けたらさむらいにしてやる」という言葉に、さむらいを知らないたこきちくんが「昼寝してもいいの?」と聞いてみたり、
クマに「困った人に親切にするのは、人として当たり前じゃないのかね。」と言われ、「ぼくは人じゃないよ。タコだよ。」とそっぽをむいたり・・・。
ゆる~いやり取りが終始続いていくのです。
このたこきちくんワールドが心地よく、癖になってしまいます。
助けを求めてくる人物たちの必死さと、たこきちくんの他人事感あふれる対応のギャップがとてもおもしろいところです。
本当に出てくる巨大な怪獣
みんななにかに追われているようですが、なにに追いかけられているか明かされないまま、巻き込まれていくたこきちくん。
「そんなに怖いものなのかな?」
「実はたいしたものじゃないんじゃない?」
など、色々なことが頭をよぎります。
そんな中出てきたのが、ものすごいシンプルな巨大怪獣。
これまでのひねりのきき過ぎていた内容からは、信じられないほどの王道です。
これには子どもたちもビックリ&大喜び。
「うわー!本当に怪獣出てきた!」
「こえー!」
「でかすぎっ!」
と言いながら「たこきちくんどうするのかな!?」と期待の眼差しを向けています。
急にウルトラマンのような展開になり、期待感が膨らむたこきちくんへの眼差し。
前半のゆるい展開からの、ヒーローもののような熱い展開のギャップも、この絵本のとてもおもしろいところです。
まさかすぎるタコならではの解決策
さて、期待の眼差しで見つめられるたこきちくん。
弁慶たちも必死にしがみつきます。
でも、たこきちくんは一般タコなのです。
怪獣なんてどうしようもありません。
なんなら、自分だけ海に逃げようかと考えるほどです。
この期待と、たこきちくんの一般タコらしい考え方の落差がすごい。
迫る怪獣。
と、その時、弁慶たち4人がまさかの行動に出るのです。
これが脈絡はないけど、繋がりはあるという絶妙なところをついて来て、子どもたちも思わず、
「えー!?」
「そんなことあるー!?」
と驚きながらも、「意味わかんない」とはなりません。
このたこきちくんならではのまさかの結末も、この絵本のとても素敵でおもしろいところです。
二言まとめ
助けを求めに来る人の必死さと、たこきちくんのマイペースさとの温度差のあるかけあいがおもしろい。
最後のまさか過ぎる結末に、だれもが驚き、だれもが大笑いするシュールな笑いが詰った絵本です。
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