文:セドリック・ラマディエ 絵:ヴィンサン・ブルジョ 訳:谷川俊太郎 出版:ポプラ社
穴に落ちたオオカミが助けを求めてきた。
本を傾けたり、振ったりして穴から出してあげましょう。
でも、出してあげたら、襲い掛かってくるかも?
あらすじ
オオカミが散歩をしていたら、でっかい穴が空いていた。
その穴の中に男の子がいたので、オオカミはその穴に飛び込んだ。
けれど、男の子は横穴からさっさと逃げてしまい、オオカミは穴の中に残されてしまった。
横穴も小さすぎてオオカミには通れない。
困ったオオカミは、絵本を見ているみんなに助けを求めてきた。
絵本を傾けてくれと言うので、左に傾けると、その勢いで左の壁に激突。
今度は右に傾けてみると、右の壁に激突。
中々うまく出られない。
次は本を振ってみると、穴の中は大騒ぎ。
オオカミはフラフラになってしまった。
あんまりオオカミが出たがるので、絵本を手前に傾けて今度こそ出してあげることに・・・。
果たしてオオカミは出て来られるのでしょうか?
そして、本当に出しても大丈夫なのでしょうか・・・?
『ここからだしてくれ~!』の素敵なところ
- 本を操作するとオオカミが反応するおもしろい仕掛け
- 穴を覗き込む一人称視点の臨場感
- オオカミへやっつける楽しさ
本を操作するとオオカミが反応するおもしろい仕掛け
この絵本のなによりも楽しいところは、絵本を操作すると、それに合わせたリアクションがあることでしょう。
絵本を傾ければ倒れるし、絵本を振ればしっちゃめっちゃか。
絵本を手前に傾けると、こちら側に滑り落ちてきます。
この絵本と物語の連動や、オオカミとの対話的なやり取りがとにかくおもしろいのです。
この物語の世界が手の中にあるという、まさに神様のような気分。
オオカミのリアクションも大きくてわかりやすく、まるでドリフのコントのようなおもしろさ。
オオカミが倒れるたび、子どもたちはお腹を抱えて笑います。
この往年のドタバタコメディを、自分たちの手で作り進めて行けるのが、この絵本の素敵でおもしろいところです。
穴を覗き込む一人称視点の臨場感
このおもしろさをさらにおもしろく、盛り上げてくれるのは、この絵本の視点でしょう。
オオカミが穴に落ちた後は、ずっと穴の中を上から覗き込むような一人称視点で描かれているのです。
普通の絵本なら、絵本サイズにオオカミが小さく描かれますが、この絵本では遠近法により小さく見えるだけで、穴から出てきたら本物のオオカミと同じサイズなのだと感じられるのがおもしろい。
これにより、穴の上にいる時の優位性と、穴から出てきてしまったら襲われるかもしれないという、優越感の中に、若干の怖さが混じります。
この怖さが、最後に出してあげようとする場面で、
「オオカミを出しちゃダメ!」
「絶対出したら食べられちゃうよ!」
と、楽しい緊張感を生み出してくれるのです。
もちろんドタバタする場面でも有効で、その感覚はまさに高みの見物。
オオカミが踊らされる姿を見下ろすのが、たまらなくおもしろい。
この一人称視点だからこその、目の前に本当に穴があるような臨場感も、この絵本のならではの素敵なところです。
オオカミへやっつける楽しさ
さて、この優越感はどこからくるのでしょう?
それはきっと、色々な絵本でオオカミに怖がらせられているからでしょう。
遊びの中でも、たくさんオオカミに怖がらせられているかもしれません。
だからこそ、ここまでオオカミを好き勝手できることに、嬉しさや楽しさを感じるのだと思います。
そんなこの物語の結末は、まさにしてやったりなものになっていました。
「ついにオオカミが出てくる!」と思いきや、絵本という媒体を活かした、まさかの結末。
メタ的な視点で解決してしまいます。
一見「そんなのあり!?」と思ってしまいますが、これまで絵本を振ったり、傾けたりとなんでもありだったので、妙な納得感があります。
この、いつもは怖い存在のオオカミを、圧倒的優位な立場から、最初から最後までもてあそぶ、してやったり感を味わえるのも、この絵本のとても素敵なところです。
二言まとめ
いつも脅かされているオオカミを、思いっきり翻弄してやれるのがおもしろくて気持ちいい。
オオカミのオーバーリアクションに、大笑いが止まらない仕掛け絵本です。
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