しにがみさん(5歳~)

絵本

作:野村たかあき 出版:教育画劇

ある日、金のない男に死神が見えるようになった。

さらに、足元にいる死神なら祓える呪文も教えてもらった。

こうして、その力を使い医者を始めることにしたのだが。

あらすじ

江戸の町に、若い夫婦が住んでいた。

でも、赤ちゃんも生まれたが、金がない。

旦那が川を眺め「死にたい」と思っていると、背後から死神が話しかけてきた。

なんと、死神は仕事の世話をしてくれるという。

その仕事というのは医者だった。

死神が言うには、旦那には死神が見えるようになっているから、見えた死神を祓えば患者が助かり金を稼げるというのだ。

ただし、祓えるのは患者の足元にいる死神だけ。

枕元にいる死神は祓えないから気を付けるように言い、祓うための呪文を教えてくれた。

気付けば死神はいなくなっていた。

旦那はとりあえず、家に「いしゃ」と看板を出してみた。

すると、主人が重い病気にかかっているという男がやってきた。

さっそく、主人の様子を見に行くと、死神が足元に座っている。

しめたと思い、男に主人が治ることを伝えると、呪文を唱えた。

すると、死神はいなくなり、主人はたちまち元気になった。

このことが評判を呼び、患者がどんどんやってきて、夫婦の家はすぐに大金持ちになった。

ところが、夫婦は贅沢三昧をした結果、あっという間に一文無しになってしまったのだった。

旦那はまた医者を始めたが、中々患者がやってこない。

やってきても、みな死神が枕元に座っていた。

そんなところへ、娘さんが病気だと、大金持ちで有名な家の男がやってきた。

足元にいてくれと願っていったが、やはり死神は枕元にいる。

助からないと伝えたが、家の男は5千両出すと食い下がる。

5千両という魅力には抗えず、旦那は知恵を絞りに絞った。

そして、あることを思いついた。

旦那は布団の四隅に、力持ちの男を置くように言った。

男たちが配置に着くと、そのまま丸一日様子を見た。

すると、死神だって眠くなってくる。

枕元の死神が、居眠りをし出した時・・・。

布団の四隅の男たちに合図を送り、布団を逆さまにひっくり返した。

死神の位置が足元なった瞬間、呪文を唱え、死神を消してしまったのだ。

こうして、娘は元気になり、旦那は5千両を受け取った。

・・・と、その帰り道。

一晩中起きていたもので、風邪を引いたのかくしゃみをしていると、死神に呼び止められた。

さっきのやり取りを見ていたのだ。

死神は、旦那を引っ張り、地面に穴を開けると、地中へと連れていった。

どんどんと、真っ暗な階段を下りていく旦那と死神。

やがて、明かりが見えてきた。

旦那がたどり着いたところとは・・・?

『しにがみさん』の素敵なところ

  • 人情味に溢れるけれど、やっぱり怖い死神
  • 落語ならではのテンポのいい会話劇
  • 笑えるような怖いような滑稽なオチ

人情味に溢れるけれど、やっぱり怖い死神

この絵本でなにより印象に残るのは、真っ黒で影のような死神でしょう。

死神という恐ろしい名前、真っ黒で不気味な姿、命を奪う仕事。

そのどれをとっても、恐ろしい存在です。

ですが、このお話では、死神なのに「死ぬんじゃないよ」と声をかけてきます。

さらには、旦那の仕事の世話までしてくれようと言うのです。

これまでのイメージとは全く違う死神の姿に、子どもたちもびっくり。

「死神優しいね。」

「命を取りに来たんじゃないんだ」

と、すっかり死神への怖さはなくなっています。

怖いと思って見始めた子も「全然怖くない!」と余裕しゃくしゃく。

そこから医者の仕事もうまくいき、なんだかすっかり楽しいお話の雰囲気に。

布団をひっくり返した時も、一休さんのような楽しい雰囲気で見ていました。

ところが、その後事態は一変。

5千両もらった帰りに声をかけてきた死神は、最初と様子が違います。

明らかに怒っている様子で、口ぶりも荒くなっています。

優しく明るかった死神が、男を引っ張り無理やり階段を降りていく様は、辺りの暗さも相まって異様な怖さを醸し出しています。

この頃になると「全然怖くない!」と言っていた子も、縮こまり「怖い・・・」。

一気に場の空気が変わるのがわかります。

この、最初の明るい雰囲気からの、急展開がこのお話のとてもおもしろいところ。

まさに肝が冷える怖さを味わえるのが、このお話の素敵なところです。

落語ならではのテンポのいい会話劇

また、このお話のおもしろさや怖さには、落語ならではの語り口も大きく影響を与えていると思います。

絵本にはなっていますが、登場人物同士の会話や、テンポ感はまさに落語そのものといった感じ。

「と、○○が言った」のようなナレーションはなく、

「ほんとに死んじまいたいよ」「おい、死ぬんじゃないよ」

「びっくりした。誰だい?」「私かい、私は、へへへ、死神だよ」

というように、ほとんどが会話で進んでいくのです。

その分、声の演じ分けが難しいのですが、うまく演じ分けながら読むことができると、まさに落語の空気感が味わえます。

これが臨場感を生み出し、より旦那の暮らしがおもしろく、死神の言葉に背筋が冷たくなるのでしょう。

このテンポ感に、ページいっぱいのろうそくなど、絵の視覚効果が重なって、落語を聞いている感じを味わいながらも、物語が理解しやすくなっているのです。

笑えるような怖いような滑稽なオチ

さて、そんなお話の最後のオチは、なんとも落語らしい皮肉のきいたものになっています。

笑い話のような、よくよく考えると怖いような・・・。

しかも、その結果が、身から出た錆、因果応報。

完全に自分の行いが招いた結果だからこそ、かわいそうなようで、かわいそうとも言い切れない皮肉な運命を感じられるのです。

これは、取り返しのつかない自分の命がかかったオチだからこそ感じるものでしょう。

この、滑稽だけど、命がかかっているからこそ、読み終わった後、笑えるような笑えないような絶妙な空気感が味わえるオチも、このお話ならではの、とてもおもしろいところです。

きっと、そういう空気感も含めて落語ならではのおもしろさなのでしょう。

ぜひ、色々な子に、このひねりがきいたおもしろさを味わってもらいたいと思います。

二言まとめ

人情味に溢れた死神の、恩をあだで返してしまった後が恐ろしい。

明るく楽しい空気から、恐ろしい空気への変化とオチに、笑えるようで笑えない落語絵本です。

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