文:平田昌広 絵・原案:野村たかあき 出版:講談社
「猫が顔を洗うと雨が降る」。
そんな言葉を聞いたぐうたら猫が、商売を始めました。
なんせ、顔を洗うだけで儲かるのですから。
あらすじ
昔から「猫が顔を洗うと雨が降る」という言い伝えがあります。でも、ぐうたらネコのねこきちには関係がない様子。なんせ、顔を洗うのも面倒くさがるのですから。そのせいで、この辺りにはしばらく雨が降っていませんでした。
今日もぐうたらひなたぼっこしているねこきち。そこへ話し声が聞こえてきました。それは畑仕事をしているタヌキたち。「畑が干からびているから、雨が降るなら金を払ってもいい」と、話していたのです。それを聞いたねこきちは、あることを思いつきました。
さっそく、家の軒先に「あめふりうります」という看板をかけます。すると、さっそく先ほどのタヌキがやってきました。ねこきちが話を聞き、なにやら呪文を唱えた後に顔を洗うと・・・、タヌキの畑に雨が降り出したではありませんか。ねこきちの商売は知れ渡り、たくさんの客がくるようになりました。
ねこきちがどんどん雨を降らせていたある日。キツネがやってきて、「娘の結婚式に雨を降らせてくれ」と頼みました。どうやら、大切な娘を嫁に出したくないようです。さっそくねこきちが呪文を唱え始めたその時、もう一匹キツネが現れねこきちを止めました。
そのキツネは婿の父親で、めでたい日に雨なんか降らされてはたまらないと言うのです。ねこきちをはさんでいがみ合う、2匹のキツネ。
困り果てたねこきちが、顔をこすってはやめ、こすってはやめ、と繰り返した結果・・・、キツネの嫁入りは、晴れているのに雨が降り、雨降りなのにお日さまが出るというとんでもない空模様に。それ以来、お日さまが出ているのに雨が降ることを「キツネの嫁入り」と言うようになりました。
それからは、すっかりやる気をなくしたねこきちは、看板をしまって閉じこもってしまいました。
さて、そんなぐうたら生活に逆戻りしたねこきちの元へ、1匹のノミが跳んできました。もちろん、血を吸いに来たのです。血を吸われたねこきちは、あまりのかゆさに体中をごしごしとかきまくりました。当然、顔も。
すると、町では・・・。
『あめふりうります』の素敵なところ
- ことわざにちなんだ落語笑い話
- 「ごしごし」と「ざざざざざざざざー」の躍動感と楽しさ
- おあとがよろしい、とんちのきいたオチ
ことわざにちなんだ落語笑い話
この絵本の、なによりおもしろいところは、ことわざを絡めたお話でしょう。
「猫が顔を洗うと雨が降る」ということわざが、現実のものになるおもしろさは、他では味わえない落語絵本ならではの、言葉遊びのようなおもしろさがあります。
さらに、これだけではなく、「狐の嫁入り」「猫の手も借りたい」ということわざも、うまい具合に話の中に取り入れられていて、このおもしろさに拍車をかけます。特に、このことわざをうまいこと使いこなし、商売にするねこきちの悪知恵が素晴らしい。
ことわざは、場面に合わせて使うものだと思いがちですが、ねこきちの姿を見ていると、ことわざを金儲けに利用するという、新たな使い方に気付かされることでしょう。この、ことわざを利用するねこきちの、図太さと悪知恵に感心させられつつも、思わず笑ってしまうおもしろさが、この絵本の大きな魅力です。
きっと、「猫が顔を洗うと雨が降る」「狐の嫁入り」「猫の手も借りたい」という、3つのことわざを知っていると、このお話がよりおもしろくなると思います。繰り返し読まない場合は、その3つを先に伝えてから読むのがおススメです。繰り返し読む場合は、絵本の中でことわざを知るのもおもしろいと思います。
「ごしごし」と「ざざざざざざざざー」の躍動感と楽しさ
こうして、顔を洗い雨を降らす商売を始めたねこきち。この雨降りの描写が、コントのようでおもしろいのも、この絵本のとても素敵で盛り上がるところです。
ねこきちが客から依頼を受けると、まずそれらしい呪文を唱えます。「ひがーしの はたけに あめ ざんざん」「うんどうかいの かけっこに あめ ひとーつ」というように。
そして顔を「ごしごし ごしごし」とこすります。すると「ざざざざざざざざー」と雨が降るのです。これが決まった繰り返しの流れになっていて、子ども達も雨が降るタイミングを予想できます。
ねこきちが「ごしごし ごしごし」と顔を洗うと、子どもの目がキラキラ。ワクワクとドキドキに目を輝かせ見守ります。そして、雨が降ると大喜び。この流れが、この絵本の醍醐味です。
ですが、一番盛り上がるのは、ノミに血を吸われた後の場面だったりします。血を吸われて、雨を降らす意思がない中、かきまくるねこきち。しかも、「ごしごし ごしごし ごしごし ごしごし」と、いつもよりたくさんかいているのだから、ドキドキはこれまでの比じゃありません。

そんなにこすったら大変なことになっちゃうよ!



ダメだってばー!
と、子ども達も必死にねこきちを止めます。
もちろんこれは、ダチョウ倶楽部の「押すなよ押すなよ」みたいなノリ。ページをめくったとたん、予想通り過ぎる結末に、声を上げて大爆笑です。これがたまらなくおもしろい。これまでの雨が降る流れの繰り返しが丁寧にあったからこその、最後の爆発力なのでしょう。
この、「ごしごし」と「ざざざざざざざざー」のお約束なおもしろさも、この絵本のとても素敵なところです。
おあとがよろしい、とんちのきいたオチ
さて、こうして大変なことになってしまう最後の場面ですが、ねこきちは反省するほど出来たネコではありません。それどころか、この混乱を利用して、新たな商売を始めます。これもまたことわざにちなんでいて、とんちがきいているのが、なんとも落語のオチらしい。
笑えるけれど、よくできたオチに感心させられて「おおー!」となってしまうところも、この絵本のとても魅力的なところでしょう。落語ならではの、知的なスッキリ感のようなものを感じます。ここはそのことわざを知らないとわからないところなので、ぜひ知った上で見て欲しいところ。
ぜひ、「おあとがよろしいようで」と拍手が起きそうな、とんちのきいたオチを子どもたちと体験してみてください。
二言まとめ
ことわざを利用して商売を始めるという、ねこきちの悪知恵に笑いつつも感心させられる。
「ごしごし」と顔を洗って「ざざざざざざざざー」と雨が降る繰り返しが、読んでいても聞いていても、とても楽しく大笑いできる、落語絵本です。
コメント