作:出口かずみ 出版:理論社
全部うろ覚えのうろおぼえ一家。
そんな一家が買い物に出かけます。
でも、うろ覚えで買い物なんてできるのでしょうか?
あらすじ
あるところに、鳥のうろおぼえ一家が5人家族で暮らしていました。
うろおぼえ一家は、全部うろ覚え。
その日の朝は早起きしたのですが、なんで早起きしたのかもうろ覚えです。
かろうじて、「お」から始まるということだけ覚えていたので、家族全員で考えていると、「お買い物」だと、なんとか思い出すことができました。
お母さんはやることがあるので、お父さんと子どもたち3人でお買い物に出かけます。
でも、家を出るとすぐに、お母さんがなんでいないのかもうろ覚え。
「お母さんはなんで一緒に来ないのか?」と頭を悩ませながら歩いていきました。
さらには、なにを買うのかもうろ覚え。
お母さんからなにかを頼まれたことだけは覚えています。
なんとか思い出そうとしていると、「四角い」ものだと思い出しました。
考えながら歩いていると、ブタのぶたじろうくんに出会いました。
うろおぼえ一家が四角いものの話をすると、「お豆腐かな?」と答えます。
うろおぼえ一家はそうだと思い、すぐにお豆腐を買いました。
けれど、やっぱり「重い」ものだった気がしてきて、また頭を悩ませます。
そんな時、出会ったネコに「それなら、石のことじゃないか」と言われ納得。
すぐに石を買いました。
だけど、「閉まる」ものだった気もしてきたうろおぼえ一家。
やっぱり頭を悩ませながら歩いていると、ヤギのじいさんに会いました。
うろおぼえ一家の話を聞いたじいさんは、すぐにダンボール箱のことだと教えてくれました。
うろおぼえ一家はさっそく、薬屋さんからダンボールをもらいます。
でも、そこでまた「冷たい」ものだった気がしてきました。
それを聞いていたのは薬屋のウサギ。
「アイスじゃないかしら」と教えてくれ、うろおぼえ一家はもらったダンボール箱いっぱいにアイスを買っていきました。
しかし、よく考えるとお母さんは寒がりだからアイスを食べなかった気がしてきます。
そこで思い出したのは「光る」もの。
すると、それを聞いていた昔好きのタヌキが「ちょうちんに決まってらあ!」と、ちょうちんを譲ってくれました。
こうして、たくさんのものを持って家に帰るうろおぼえ一家。
果たして、お母さんから頼まれたものは買えたのでしょうか?
『うろおぼえ一家のおかいもの』の素敵なところ
- 「うろ覚え」という絶妙なおもしろさ
- 当たっていそうで違いそうな購入品
- 本当に頼まれたものに自分で気づく、思わず叫んでしまう最後の仕掛け
「うろ覚え」という絶妙なおもしろさ
この絵本のとてもおもしろいところは、なんとなく覚えている「うろ覚え」を題材にしているところでしょう。
ここでのポイントは「忘れる」ではなく「うろ覚え」というところ。
「なんとなく覚えているけれど思い出せない」という、絶妙なモヤモヤ感がたまらなくおもしろい空気感を生んでいます。
しかも、本当にすぐうろ覚えになってしまううろおぼえ一家。
家から出た瞬間に、お母さんがなんで来ないのかうろ覚えになる姿には、
「もう忘れちゃったの!?」
「さっきお母さん言ってたじゃん!」
と、流石の子どもたちもあきれ顔でした。
でも、すぐに慣れてきて、ページをめくるたびうろ覚えになり悩む一家に大笑い。
「また、忘れてるじゃん!」
「メモすればいいのに!」
とまるでコメディ映画を見ているような、楽し気な空気感が広がっていました。
さらに、うろ覚えのおもしろいところは、なんとなく覚えているので、それがヒントとなって一緒に答えを考えられるところにあります。
早起きした目的が「お」で始まるものだったり、
買うものを「四角い」や「重い」と、少しだけ特徴を覚えていたり・・・。
この、少しが子どもたちの推理欲やクイズ欲を掻き立てます。
ヒントを見たとたん、
「おさんぽかな?」
「四角くて重い・・・テレビじゃない!?」
「四角い石だよ!」
など、思い思いの推理を披露していました。
この、「忘れる」ではない「うろ覚え」という、少しヒントがある絶妙な忘れ方が、子どもたちを推理の世界に誘ってくれ、中々思い出せず答えが出ないモヤモヤ感を思いきり味あわせてくれる、とても素敵でユニークなところです。
当たっていそうで違いそうな購入品
こうして、うろおぼえ一家は、うろ覚えを頼りに買い物をしていくことになります。
ここで買うものが、当たっていそうだけど、違っていそうなモヤっと感も、この絵本のおもしろいところです。
このお買い物。
最初に、「四角い」などのヒントを思い出し、
出会った人物が答えを教えてくれ、
その商品を買い、
違うヒントを思い出す。
という、繰り返しで進んでいくのですが、この流れの全てがモヤっとしているところがポイントです。
「四角」で思い描いているものが、家族それぞれ違ったり、
出会った人物に教えられ「それだ!」となるものが、それじゃなさそうだったり、
買った後に、次のヒントを思い出し「じゃあ、さっきの違うじゃん!」となったり、
そもそも、ヒントを全て兼ね備えているものを探しているのか、バラバラでいいのかわからなかったり・・・。
もう、そのすべてがモヤっとしていて、常に「正解なような違うような」という状態を、答えなく漂っていくのです。
でも、それがいい。
この感覚はまさにうろ覚えそのものといっていいでしょう。
子どもたちも、勧められるたび、
「きっと、これだ!」
「えー、違うんじゃない?」
「アイス食べたいなー・・・」
と、真剣に考えているのに、次のヒントが出ると、
「豆腐は重くないから違うじゃん!」
「石は買わないでしょ!」
「持って帰れるかなー?」
と、しっかりうろ覚えに翻弄されていました。
この、うろ覚えだからこその、はっきりすっきりしないモヤっとした買い物が続くもの、この絵本のうろ覚えらしい素敵なところです。
本当に頼まれたものに自分で気づく、思わず叫んでしまう最後の仕掛け
さて、そんなモヤっと感がずっと付きまとうこの絵本。
これは最後の場面でも変わりませんでした。
なぜなら、頼んだお母さんもうろ覚えだからです。
聞いてもはっきりした答えが返ってくるわけもなく、そもそもの正解がわからないという霧に包まれたような絶望感。
子どもたちも、
「えー!?お母さんも覚えてないの!?」
「じゃあ、正解がわからないじゃん!」
と、さすがに困惑。
けれど、もちろんこれで終わりではおもしろくありません。
実は、文章では語られませんが、しっかりと答えがページの中に描かれているという、にくい仕掛けが施されているのです。
これに気付いた時の子どもたちの
「あ!○○だ!!!」
という、謎が全て解けた名探偵のような反応は忘れることができません。
そのパッと輝いた表情は、これまでのモヤモヤ感がすっきり晴れた解放感と、自分で答えに辿り浮いた満足感に満ち溢れていました。
きっと、文章で語られていたらこの反応はなかったことでしょう。
この、物語の中でも語られず、うろおぼえ一家も思い出せなかった答えに、自分だけが気付いたという名探偵のようなすっきり感と満足感を感じられるのも、この絵本のとても素敵なところです。
ぜひ、最後の場面は答えを言うのではなく、この仕掛けに描かれている言葉を読んであげてください。
ここまでしっかりと絵本を見ていた子なら、こちらまで嬉しくなってしまうような顔で答えに辿り着いてくれるはずですから。
二言まとめ
うろ覚えならではの、思い出せそうで思い出せないモヤモヤ感に、翻弄されるのがとても楽しい。
モヤモヤし続けた分、最後の答えに気付いた時は、思わず叫んでしまうくらいのスッキリ感を味わえる絵本です。
コメント