作:ジュディス・カー 訳:晴海耕平 出版:童話館出版
女の子がお母さんとお茶をしているとチャイムが鳴った。
ドアの前にいたのはなんとトラ。
そのトラは、お茶菓子だけでなく、家中の食べ物を食べつくしてしまうのでした。
あらすじ
ある日、女の子ソフィーとお母さんは、台所でお茶の時間にしようとしていました。
すると、突然玄関のベルがなりました。
この時間にはだれも来る予定はありません。
ソフィーがドアを開けてみると、そこにいたのはなんとトラ。
トラはお腹がすいているので、お茶の時間にご一緒させてほしいと言ってきました。
それを聞いたお母さんは、快く受け入れ、トラを台所に案内しました。
お母さんが、トラにサンドイッチを勧めると、トラは1口ですべて平らげてしまいました。
それでも、お腹がすいていそうだったので、ソフィーがパンを差し出すと、これも1口。
さらに、ビスケットも、ケーキもすべて食べてしまい、飲み物もすべて飲んでしまいました。
それでもまだ食べたりないトラは、台所を見回すと・・・
作りかけの夕ご飯を全部。
冷蔵庫のものを全部。
戸棚の中の食べ物も全部。
牛乳、オレンジジュース、ビールに水道の水まで全部飲み込んでしまいました。
やがてトラは、丁寧なあいさつをすると、帰っていったのでした。
困ってしまったのは、お父さんの夕飯がなくなってしまったお母さんと、水がなくなりお風呂に入れなくなったソフィーです。
ちょうどそこへお父さんが帰ってきました。
お母さんとソフィーは、お父さんに今日あったことを話しました。
すると、お父さんは「まかせなさい。いい考えがあるよ」と言いました。
いったい、お父さんのいい考えとはどんなものなのでしょうか?
『おちゃのじかんにきたとら』の素敵なところ
- お茶の時間にトラが来るというドキドキ感
- 家中のものを食べてしまうおもしろさとわかりやすさ
- もしまたトラが来たら・・・?
お茶の時間にトラが来るというドキドキ感
この絵本のまず驚くところは、家にトラが訪ねてくるところでしょう。
しかも、お茶の時間を一緒に過ごすというのだからドキドキしないわけがありません。
子どもたちの中では、トラはオオカミと同列の猛獣です。
「ソフィー、食べられちゃわないかな?」
「いいトラなの?」
「こわーい!」
と、子どもたちは素性のわからないトラに、好奇心とともに疑いと恐怖のまなざしをむけています。
この、ドキドキ感の中で進んでいくお茶の時間がおもしろい。
席に座りおとなしくしているトラを見て、少しずつ子どもたちの警戒心も解けていきます。
けれど、トラが本領を発揮するのはここから。
人間を襲いはしませんが、食べ物はまさにトラという食べっぷりで一飲みにしていくのです。
これには、子どもたちも、
「えー!食べすぎだよ!」
「ソフィーの食べるものがなくなっちゃう!」
と、驚きつつ、おもしろがりつつ、心配していました。
それと、全部食べたらソフィーたちを食べるのではないかという警戒心も。
この、人間以外のものをバクバクとトラらしく平らげていく姿と、常に家の中にトラがいるというドキドキ感が、この絵本のとても独特でおもしろいところです。
家中のものを食べてしまうおもしろさとわかりやすさ
そんな腹ペコのトラですが、お茶のために用意した食べ物飲み物がなくなると、今度は家中のものを食べ始めます。
これが見事なほどの食べっぷりと、草の根一本残さず食べていく徹底っぷり。
そして、なによりもそのわかりやすさが、この絵本のとてもおもしろい見どころとなっています。
この場面は、トラが食べ物を見つける姿とともに、以下の文章で描かれます。
「作りかけの夕ご飯を全部」
「冷蔵庫のものを全部」
「戸棚の中の、包みや缶詰を全部」
「牛乳を全部、オレンジジュースを全部、お父さんのビールを全部、そして、水道の蛇口から水を全部、飲みました」
この「全部」が、とても簡潔に、けれどトラがどれだけのものを食べたのか一発でわかる魔法の言葉。
その食べっぷりが、「全部」という言葉一つで、その場にいるみんなに伝わるのです。
子どもたちは「全部」と言われるたびに、
「そんなに食べたの!?」
「えー!?」
と、声をそろえて驚きます。
そして、次第に子どもたちのお約束に。
「全部」と言うと「えー!?」と声をそろえて返すという、まるで決まり文句を唱えているような楽しい時間に。
この、わかりやすいからこその一体感ある驚きも、この絵本のとても楽しいところとなっています。
もしまたトラが来たら・・・?
さて、こうしてすべてを平らげた後、とても丁寧なあいさつをして帰っていくトラ。
本当に、ただごちそうになりにきただけでした。
ですが、困ったのはソフィーとお母さん。
食べ物も、水さえもなくなってしまったのですから。
この日は、お父さんのいい考えで、幸せな時間を過ごせた一家でしたが、またこんなことがあっては困ってしまいます。
そこで、ソフィーとお母さんはある対策を講じました。
これがなんとも、トラにぴったりかつ、フレンドリーなところも、この絵本の素敵なところとなっています。
この対策からは、困ってはしまいましたが、トラのことを迷惑とは思っておらず、また来てほしい気持ちがあることが感じられます。
しかも、用意したものものがなんともおもしろいもの。
子どもたちも、
「こんなのあるの!?」
「ネコみたいだね」
と、興味津々。
次にトラが来た時のことを想像してしまいます。
この、トラが帰った後の、新しいトラ対策のおもしろさと優しさも、この絵本のとても素敵なところです。
読み終わった後、きっと自分の家にもこの対策が欲しくなることでしょう。
いつトラがやってきてもいいように・・・
二言まとめ
トラと一緒にお茶をするという、うらやましいような怖いようなドキドキのシチュエーションがおもしろい。
わかりやすく描かれたトラの食べっぷりに、みんなで一緒に驚ける一体感がとても楽しい絵本です。
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