【絵本】えとえとがっせん(4歳~)

絵本

作:石黒亜矢子 出版:WAVE出版

威張っている十二支へ、動物たちが決闘を申し込みました。

互いの総大将は、タヌキと辰。

今、なんでもありな、大迫力の決闘が始まります。

あらすじ

昔々、神様に選ばれた十二支は、それをいいことに威張り散らしていた。

そんな十二支をこらしめようと、森の動物たちが立ち上がり、十二支へ果し状を送り決闘を申し込んだのだった。

動物たちの総大将はたぬき。

たぬきは十二支が嫌いだった。

集まった動物たちは、ネコ、ハリネズミ、バク、シカ、カエル、オオサンショウウオ、ブタ、カニ、クマ、ヤギ、コウモリの13匹。

動物たちが待っていると、ついに十二支がやってきた。

タヌキとイヌは、ラップでお互いのことを煽りあい、いよいよ戦いが始まった。

最初は、十二支が優勢でだったが、動物たちも負けじと応戦。

動物たちが、十二支を抑え込み始めた。

しかし、そこに現れたのは辰。

その巨体から、大息を吐き、動物たちを全員吹き飛ばしてしまった。

満身創痍の動物たち。

この大ピンチに、タヌキはついに家宝である金のばけはっぱを取り出したのだった。

けれど、それを使うには、強いばけりょくが必要になる。

そこで、動物たちは、その力と体をすべてタヌキに預けることにした。

すると、タヌキの体に、動物たちの体の一部が合体し、辰にも負けない恐ろしく強そうな姿になった。

辰と組み合う巨大なタヌキ。

果たして、この決闘の結果やいかに!?

『えとえとがっせん』の素敵なところ

  • 悪者顔が過ぎる恐ろしい十二支たち
  • ゆるさと緊迫感の緩急がたまらない決闘
  • まるで怪獣映画のような大迫力の合体と決戦

悪者顔が過ぎる恐ろしい十二支たち

この絵本でまず驚くところは、十二支たちが明らかに悪そうなところでしょう。

子どもたちにとって、歌や絵本などでなじみ深い十二支は、縁起のよい、光のものです。

ですが、この絵本の十二支はどうも様子が違います。

顔はどれも劇画調で描かれ堀が深く、

持っている武器は、槍や木刀、日本刀に青龍刀と本気過ぎる装備、

さらに、ポケットに手を入れにやけていたりと態度も悪ければ、

言葉遣いも傲慢そのもの。

完全に闇のものにしか見えません。

どこからどう見ても、「こっちが悪者だ!」と一瞬でわかるレベルです。

子どもたちもこれには、

「顔こわっ!」

「すごい武器もってるよ!」

「動物たち勝てないよ~」

と、びっくり仰天。

さすがにイメージと違い過ぎて、目を丸くしていました。

この、十二支の威張りっぷりがその形相から痛いほど伝わってくる、驚くほどガラの悪い十二支の姿がこの絵本のおもしろいところです。

きっと、ここまで悪者顔な十二支を見られるのは、この絵本だけでしょう。

ぜひ、表紙のタヌキとタッチが違い過ぎる、本気の十二支を見てみてください。

ゆるさと緊迫感の緩急がたまらない決闘

そんな十二支と動物たちの決闘は、お互いに死力を尽くした真剣勝負。

・・・なのですが、要所要所で笑ってしまうゆるさに、力が抜けてしまいます。

まず、決闘の始まりがラップ。

互いにB系の衣装に身を包み、巧みなラップで煽りあいます。

急すぎる雰囲気の変わりっぷりに、子どもたちはびっくりしますが、その歌詞のおもしろさに大笑い。

しっかりと子どもたちの心をつかんできます。

そして、ラップが終わったらいよいよ全面対決。

辰の迫力や、月夜の下で全員が突撃する様子に緊迫感が高まります。

そこからは動物と十二支の直接対決となりますが、これがなんともゆるい。

使っている武器は凶器なのに、まるで子どものけんかを見ているようなゆるさがあるのです。

そのゆるさが最高潮になるのが、動物たちの反撃。

「ねこぱんち」とアッパーしたり、

「おならばずーか」とおならで吹き飛ばしたり、

バクが催眠術をかけて眠らせたり。

どれもそのモーションと相まって、真剣だけど笑えるものとなっています。

と、思いきや、辰のすべてを吹き飛ばす圧倒的パワーを見て、またまた高まる緊迫感・・・。

この、ゆるさと緊迫感が交互に来る、ジェットコースターのような緩急も、この絵本のとてもおもしろく夢中でのめりこんでしまうところとなっています。

コミカルとシリアスの絶妙なバランスが癖になること間違いないことでしょう。

まるで怪獣映画のような大迫力の合体と決戦

さて、そんな決闘は、辰の圧倒的強さで、動物たちが絶体絶命のピンチをむかえてしまいます。

ですが、ここからがこの絵本最大の見どころ。

なんと、合体するのです。

そしてそれが、これまでの動物たちのゆるい絵のタッチからは想像もできないほど、おどろおどろしいからたまりません。

言うなれば、『平成たぬき合戦ぽんぽこ』の絵から、急に水木しげるタッチになったようなもの。

表紙のタヌキの面影など微塵も感じさせません。

さらに、その合体の仕方もこれまたおどろおどろしい。

手足は、それぞれ違う動物で、

目は三つ目で口が二つ、

頭と首からシカとヤギの角が一本ずつ生えている・・・

そんな一言では言い表せない、強そうだけど、不気味で、おどろおどろしい、まるでキメラのような姿なのです。

これには子どもたちも、

「どうなってるの・・・?」

「すごい怖くなった!」

「動物が混ざってる!」

と、唖然。

じっくり見てやっと、どこにどの動物がいるのかを把握して、合体したことを実感しているようでした。

でも、そこにはおどろおどろしいからこその魅惑が確かにあり、目を引き付けずにはいられません。

この、かっこいいような、怖いような、不気味なような・・・色々な感情が入り混じる、この絵本でしか味わえないタヌキの秘術も、この絵本のとても素敵で唯一無二なところです。

こんな恐ろしい合体タヌキと、辰が取っ組み合うのですから、その様子はまさに怪獣大決戦。

その迫力と、人知を超えた最終決戦をぜひ子どもたちと見届けてください。

二言まとめ

十二支の悪役っぷりと、真剣なのにどこかゆるい決闘のおもしろさが癖になる。

これまでのゆるさが嘘のような、怪獣同士の最終決戦に思わず胸が熱くなる、一風変わった干支絵本です。

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