作:チェ・ソンオク 絵:キム・ヒョウン 訳:星あキラ、キム・ヨンジョン 出版:ブロンズ新社
大雨の日、雨宿りのため、女の子を訪ねてくる生き物たち。
でも、どんどん水位が上がり、家の中にも水が入ってきます。
そこで屋根裏へ登っていくと・・・。
あらすじ
大雨の中、家に帰ってきた女の子。
外で水が川になり、坂の下のナツメの根元まで雨水が上がってきた時、ドアを叩く音がしました。
やってきたのはアリの家族。
雨宿りに来たのです。
女の子はアリの家族を家に入れてあげました。
坂の下のケヤキの幹まで雨水が上がってきた時、またドアを叩く音がしました。
やってきたのはハリネズミ。
女の子はハリネズミも家に入れてあげました。
家の近くのお地蔵様の足元まで雨水が上がってきた時、またまたドアを叩く音。
やってきたのはネコでした。
女の子はやっぱり家に入れてあげました。
窓から外を見ると、雨水はドアまで押し寄せています。
その時、外から誰かが歩いてくる足音が。
ドアを叩いてやってきたのは大きなクマでした。
女の子はクマも家に入れてあげました。
雨水はついに家の中に入ってきて、イスの所まで上がってきました。
それと一緒に、魚やオタマジャクシも家の中へ。
でも、みんなはピクニック気分で楽しそう。
それでも雨は止まず、雨水がどんどん入ってくるので、女の子はみんなを連れて屋根裏部屋へ行くことにしました。
屋根裏部屋の窓から外を見てみると・・・。
雨はいつになったらやむのでしょう?
みんなは家に帰れるのでしょうか?
『あめのひに』の素敵なところ
- 少しずつ迫る雨水、大きくなっていく生き物たち
- 家の内外が同時に描かれるおもしろい構図
- 大雨からの開放感あふれる美しい最後の場面
少しずつ迫る雨水、大きくなっていく生き物たち
この絵本のなによりおもしろいところは、どんどん雨水が迫ってくるドキドキ感と、次々にやってくる生き物のワクワク感だと思います。
この二つは連動した繰り返しになっていて、外の水位が上がるにつれて、大きな生き物がやってくる作りになっています。
水位が、
「坂の下のナツメの根元」
「家の近くのお地蔵さんの足元」
など、とても具体的に語られるのもポイントで、家に向かって少しずつ迫ってくる様子が想像出来ておもしろい。
子どもたちも、
「もう家の近くまで水が来てるよ!」
「家の中に入ってこないかな・・・?」
と、そのドキドキ感を言葉にしたり、身を寄せ合いながら楽しそうに見ていました。
そして、水位の上昇に合わせて次々やってくるのが、生き物たち。
ドアを叩いて入ってきます。
生き物たちが、アリ→ハリネズミ→ネコ→クマと、少しずつ大きくなっていくのもおもしろく、生き物に会わせてドアを叩く音も変化。
繰り返しの中での変化に、「次は誰だろう?」とワクワクさせられることでしょう。
この、繰り返しの中で刻々と上がっていく水位と、どんどん増えていく生き物たちのドキドキワクワク感が、この絵本のとても楽しいところです。
家の内外が同時に描かれるおもしろい構図
また、大雨のすごさや水の勢いを表現するために、この絵本はおもしろい構図で描かれているのも、このドキドキワクワク感を高めてくれるポイントです。
それが、家の内外を同時に描くというもの。
ページの中央に四角があり、その中が家、外が屋外という構図です。
なので、四角の外では横殴りの雨が降っていて、下には水が溜まっています。
家の壁をカタツムリが登っていたり、カエルが流されていたりと、小さな発見も。
でも、この構図のなによりおもしろいところは、水位の上昇が、とてもわかりやすく目に見えることでしょう。
家の中の様子と一緒に描かれることで、家の床よりも高い所まで雨水が来ていることや、1階がすべて雨水に沈んでしまったことなどが、視覚的にわかるのです。
これには否が応でも、ドキドキ感が高まります。
「お家沈んじゃってるよ!」
「全部川になってる!」
「魚釣り出来そうだね♪」
など、子ども達も危機感を覚えたり、非日常を楽しんだり様々な反応。
確かに、家の周りや家の中で魚が泳ぐ様子は、とても幻想的で楽しそうです。
この、家の周りで魚が泳ぐほどに水位があがっていくことが、目に見えるようになっている構図も、ドキドキ感を思いきり盛り上げてくれ、大雨のすごさを肌で感じさせてくれるところです。
大雨からの開放感あふれる美しい最後の場面
さて、そんな物語の最後の場面は、これまでの大雨で家へ閉じ込められている閉塞感から、身も心も開放してくれるようなものでした。
その鍵になったのは、家の周りを泳いでいたクジラです。
素敵なのは、解放感が順番に体験できるところ。
最初に家からの解放。
ここでは、大雨の中で遊ぶ解放感が味わえます。
その後に、大雨からの解放。
この時の美しい景色を見れば、心奪われ「わぁ~」という感嘆の声が出てしまうことでしょう。
子どもたちも、
「雨やんだよ!」
「きれい~」
「あ!虹が出た!」
と、大喜び。
その美しい景色と解放感を思いきり味わっている様でした。
でも、実はもう一つ解放が隠されています。
それが裏表紙。
そこには雨上がりの家が描かれていて、表紙とは対照的。
ここにも雨の日からの解放感が感じられます。
同時に、命にとっての雨の大切さも。
そんな生命の息吹を感じられるものになっています。
子どもたちも、
「雨がたくさん降ったから、元気になったんじゃない?」
と、その繋がりを感じているようだったのが印象的でした。
この、これまでたくさんドキドキさせられたからこその、最後の場面での大雨からや雨水からの解放感と、そこで描かれる美しい風景も、この絵本のとても素敵なところです。
二言まとめ
水がどんどん迫ってくるドキドキ感と、そんな中で生き物たちがやってくるワクワク感がおもしろい。
大雨ならではの楽しさと、大雨からの解放感の両方を思いっきり味わえる、雨の日絵本です。
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