作・絵:サム・アッシャー 訳:吉上恭太 出版:徳間書店
雨がやむのを待つ男の子。
ついに雨がやみ、お出かけすることに。
家の外に出ると、鏡のような美しい水面が広がっていました。
あらすじ
男の子が目を覚ますと、外では雨が降っていた。
男の子はおじいちゃんに、雨の中で遊びたいと伝えた。
雨を口で受けたり、水たまりに飛び込んだり、水たまりに移る逆さまの世界を味わいたかったから。
でも、おじいちゃんは、雨がやむまで待ちなさいと言った。
男の子はしばらくすると、窓の外を見た。
まだ、雨はやんでいない。
おじいちゃんは手紙を書きだした。
男の子は、船に乗って海の怪獣と遊ぶことを夢見ながら、また外を見た。
まだ、雨は降っている。
男の子はおじちゃんに、水に浮かぶ街に行ってみたいことを伝えた。
そこでは、船の上でお祭りをしていて、太鼓をたたいたり曲芸をするそうだ。
すると、手紙を書き終えたおじちゃんが言った。
「よーし、出かけよう。」
外を見ると、雨がやんでいた。
急いで支度をして外に出る。
外は一面水浸しで、鏡のように自分の姿や街が映りこんでいた。
おじいちゃんと男の子は、舟に乗って進んだ。
すると、雨が降ってきた。
それだけじゃない。
なんと、前から他の舟もやってきて・・・。
『あめのひ』の素敵なところ
- 何度も窓の外を確認する子どもの待ち遠しい気持ち
- 雨が上がりの解放感と鏡の世界のような幻想的な景色
- 水に沈んだ街で起こるファンタジーな展開
何度も窓の外を確認する子どもの待ち遠しい気持ち
この絵本のなにより共感してしまうところは、雨がやむのを心待ちにしている子どもの気持ちでしょう。
外で遊びたいのに、「雨がやむまで待ちなさい」と言われることは、日常生活でもよくあることでしょう。
そんな時、どうしても外に出たい子どもがとる行動は、何度も外を見て「雨やんだかな?」「雨少なくなって来てるよ!」と、逐一、雨の様子を確認すること。
まさにこの絵本の男の子と同じです。
さらに、この絵本では、男の子が窓を覗き込むタイミングで、家の中の視点が、家の外の視点に切り替わり、雨の中で街行く人の姿などが描き出されます。
これがより没入感を生み、まるで男の子と一緒に窓の外を見ているような気分になるのです。
当然、雨がやんでいないがっかり感も、男の子と共有。
「まだ、ふってる!」という男の子のセリフと同時に、
「あー、まだ降ってる・・・」
「早くやまないかなー」
と、男の子の心情とまったく同じような声が聞こえてきます。
この、本当に外を見ているような仕掛けによって、驚くほど男の子の雨がやむのを待ちわびる気持ちと共鳴できるのが、この絵本のとても素敵なところです。
雨が上がりの解放感と鏡の世界のような幻想的な景色
けれど、ずっと「雨やんだかな?」と家の中にいるだけではおもしろくありません。
がっかり感で終わってしまいます。
でも、何度か外を見るうちに、本当に雨が上がる解放感が味わえるのも、この絵本のとても素敵なところなのです。
半ばあきらめかけた男の子でしたが、おじいちゃんの言葉に外を見てビックリ。
その時の「やんだ!」の一言は感動的ですらあります。
もちろん、子どもたちも一緒に「雨やんだよ!」。
これまでの、窓から見る雨の景色を見続けたからこその、嬉しさでしょう。
さらに素敵なのが、その雨上がりの幻想的な景色。
空は晴れ渡り、家の前は一面の水面。
その美しい水面には、まるで鏡のように青空や雲、家や自分の姿が映りこんでいます。
そこはさながら水の上に浮かんだ国のよう。
雨がやんだ嬉しさとともに、この美しい景色を見たら、心奪われる感動的な体験になることは間違いないでしょう。
この、雨がやんだ解放感に合わせ、これまでの荒れ狂う薄暗さと正反対の、澄んだ景色が目の前に広がる感動も、この絵本のとても素敵なところです。
水に沈んだ街で起こるファンタジーな展開
さて、こうして無事お出かけできることになった男の子。
このお出かけの中で当たり前のように起こるファンタジーな展開も、この絵本の見どころです。
これまで、ほとんどファンタジーな要素がなかったこの絵本。
水に沈んだ街では、それが当たり前に起こります。
長靴をはいて外に出た男の子は、迷わず水に飛び込みます。
その時は、深さが足首くらいまでなので、普通に歩いていくのかと思いきや、なんと移動手段は舟。
これだけなら、「そういう街なのかな」と思うのですが、前から来た舟に乗っていた人を見たら、これが特別な魔法のような体験だと感じざるを得ません。
だって、男の子が家の中で、おじいちゃんに空想して聞かせていたことが、現実になっているのですから。
さらに、素敵なのは、このファンタジーな展開も含めて、男の子が雨の中でしたいと思っていたことの全てが実現していること。
雨の日に定番の遊びから、特別でファンタジーな願いまで全てです。
きっと、これを見ていると、雨上がりの世界への期待やワクワク感が高まって、雨上がりがもっともっと楽しみになることでしょう。
同時に、雨が降ることも。
この、自然とファンタジーな世界へと溶け込んでいき、その中で雨ならではの楽しみを叶えていく展開も、この絵本のとても素敵で雨降りの日を、待ち遠しいものにしてくれるところです。
二言まとめ
男の子と一緒に窓を覗き込むことで、雨がやむまでの待ち遠しさや雨がやんだ時の嬉しさを、一緒に心から感じられる。
雨上がりの現像的な風景に心奪われ、その後のファンタジーな展開に心躍る、雨の日絵本です。
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