作:山田マチ 絵:北村裕花 出版:ひさかたチャイルド
実は忍者はとても身近な存在です。
普段は動きが速すぎて見えないだけ。
そんな忍者と仲良くなる方法を教えましょう。
あらすじ
手乗り文鳥と同じくらいの大きさの、手乗り忍者。
手乗り忍者は足音を立てず、動きも速いので、普通の人が気付くことはめったにありません。
けれど、お腹を空かせて力尽きた手乗り忍者が、家に迷い込んでくることがあるかもしれません。
そんな時はどうしたらいいのでしょう。
まず、むやみに触ってはいけません。
小さくても忍者なので危険です。
忍者のお団子を作って、敵ではないとわかってもらいましょう。
忍者は用心深いのですぐにはお団子を食べませんが、煙が上がりお団子が消えてなくなったら食べた証拠です。
お団子を食べ、元気を取り戻した忍者は、真夜中にこっそり動き出します。
びっくりさせると逃げてしまうので、しばらく好きにさせてあげましょう。
お団子と家が気に入ると、しばらく住み着きます。
手乗り忍者と仲良くなるには、忍者の好きな修行できるところを用意します。
はじめは遠くから修行の様子を見守り、少しずつ近づきます。
次に、修行を手伝ってあげ、最後は一緒に修行します。
毎日、お団子をあげ、修行していると、忍法を使って遊んでくれるようになるでしょう。
さらに、ピンチの時には助けてくれ、誕生日をお祝いしてくれるようにもなります。
しかし、いくら仲良くなっても忍者は忍者です。
遠くからほら貝の音が聞こえてきたら・・・。
『てのりにんじゃ』の素敵なところ
- 小さくてかわいいのにとっても忍者
- 手乗り忍者となかよくなる方法
- 徐々に懐いてくる忍者があいくるしい
小さくてかわいいのにとっても忍者
この絵本のなによりおもしろいところは、手乗り忍者という存在の魅力でしょう。
忍者というだけでも大人気で、テンションが上がってしまうのに、そこに「小さい」というかわいさと親しみやすさまでプラスされてしまったら、魅力的でないはずがないのです。
さらに、素敵なところは、忍者が小さいのにかわいさに媚びず、しっかり忍者であるということ。
全体的にデフォルメされたかわいい絵柄の中、忍者だけ妙にリアル路線の劇画調。
時代劇に出てくるような力強さを放っています。
もちろん、すぐに人間に懐くことはせず、常に警戒心を忘れません。
むやみに近づけば、まきびしや刀の餌食となり危険。
好物の忍者団子の作り方は兵糧玉のようだし、好きなことも修行とストイック。
体は小さくても、過酷な世界で生きている忍者というバックボーンが、手乗り忍者の背中からあふれ出しているのです。
だからこそ、かっこいいと思えるし、仲良くなった時の嬉しさもひとしおなのでしょう。
この、小さな見た目とは裏腹に、どこまでもしっかりと忍者であるところが、この絵本と手乗り忍者の大きな魅力だと思います。
手乗り忍者となかよくなる方法
そんな手乗り忍者と仲良くなる方法が、詳しく描かれているのがこの絵本の重要なところでしょう。
子どもたちが、初めて手乗り忍者にあったとしても安心なほど、詳しくわかりやすく丁寧に描いてくれています。
忍者団子の作り方は図解されているし、細かな注意点もしっかりと描かれます。
その中でも特にわかりやすいのが、修行場の用意の仕方。
身近にあるものを使った修行場の作り方を教えてくれます。
レモンでバランスの修行。
鉛筆立ての鉛筆で針山渡りの修行。
コップに立てたストローで、竹を一瞬で切る修行。
などなど、どれもすぐに用意できるものばかり。
これなら、自分の家でもできそうだと思えてきます。
この、わかりやすさと再現性の高さが、この絵本のとても素敵なところ。
「自分に家に手乗り忍者が来たらどうしようか?」
と、自然に想像できることでしょう。
当たり前のように手乗り忍者がいて、手乗り忍者と仲良くなれる。
そんな楽しい世界を、この絵本は日常生活に溶け込ませてくれるのです。
この絵本を見た後に、
「うちに手乗り忍者が来たらどうしようか?」
なんて、話をしながら、手乗り忍者の受け入れ態勢を整えてみたらきっと楽しいですよね。
徐々に懐いてくる忍者があいくるしい
さて、こんな風に、忍者らしさを忘れない手乗り忍者と、仲良くなる方法をしっかり守り、徐々に仲良くなっていく男の子。
ついには、忍法で一緒に遊んでくれるようにまで。
この、仲良くなった時の、これまでの警戒心が嘘のような仲良くなりっぷりもまた、この絵本のとても楽しいところです。
あんなにも、警戒心が強く、修行しかしてこなかった手乗り忍者。
そんな手乗り忍者が、分身の術でかくれんぼをしてくれたり、
蚊に刺されそうな時、手裏剣で追い払ってくれたりするのです。
このギャップに、もう手乗り忍者がかわいくてしかたありません。
極めつけは、誕生日のお祝い。
誰が、あの険しい顔をした手乗り忍者が、ケーキを作ってくれることになると予想したでしょう。
もう、男の子が大好きでしょうがないのが、伝わってくることこのうえない。
どう見ても、そこには友情が生まれています。
この、警戒心の塊だった仲良くなる前と、仲良くなった後のかわいすぎる姿の大きなギャップも、この絵本のとても素敵で心温まるところです。
こんな姿を見せられたら、誰もが手乗り忍者と仲良くなりたいと思うことでしょう。
子どもたちも、この場面を見て、
「手乗り忍者うちにも来てほしいな~!」
「わたしもお祝いしてほしい!」
「ぼくは一緒に修行したい!」
と、手乗り忍者と仲良くなりたい気持ちが爆発。
手乗り忍者の一筋縄ではいかないからこその魅力が、伝わっているようでした。
この積み重ねた日々と、誕生日の盛り上がりがあるからこそ、最後の場面で感情が揺さぶられるのでしょう。
ぜひ、出会いの作法から別れの作法まで、しっかりと描かれた世界に1冊しかない、手乗り忍者の専門絵本を手に取ってみてください。
いつ、自分の家に手乗り忍者が迷い込んでくるかわかりませんから・・・。
二言まとめ
小さいけれど過酷な世界を生きる手乗り忍者と仲良くなる方法が、丁寧にわかりやすく描かれている。
見れば、いつ自分の家に手乗り忍者が迷い込んでも仲良くなれる、手乗り忍者の専門絵本です。
コメント