文:斉藤倫・うきまる 絵:くのまり 出版:ブロンズ新社
左右のページの2つの絵。
左の絵に、右の絵の一部を乗せると・・・。
左右両方の絵の変化に、おもしろさと驚きが止まらない絵本です。
あらすじ
この絵本は、左のページと右のページで別の別の絵が描かれています。
「のせのせせーの!」の合言葉で、ページをめくると、右の絵の一部が左の絵に乗っかって、右の絵からはその一部が消えています。
こうして、のせのせしていくことで、物語が進んでいく絵本です。
ある海の見える丘の上に、赤い屋根の家がありました。
左のページにはそこに住む女の子 右のページには二匹の蝶が飛んでいます。
のせのせせーの!
でページをめくると、女の子の髪に蝶がとまり、リボンになっていました。
左のページに蝶のリボンを付けた女の子の全身 右のページに色とりどりの花が咲いた丘
のせのせせーの!
でページをめくると、丘の花が消え、女の子のワンピースに乗っかって、花柄ワンピースになりました。
左のページに一羽の鳥が正面を向いて立っています 右のページには扇形に茂ったリンゴの木
のせのせせーの!
でページをめくると、リンゴの葉と実が鳥の背中に乗っかって、くじゃくのような綺麗な羽に。
リンゴの木はすっかり枯れてしまっています。
左のページに浜辺を歩くカニ 右のページにソフトクリームを持った男の子
のせのせせーの!
でページをめくったら・・・。
『のせのせせーの!」の素敵なところ
- 増える左のページ、無くなる右のページ
- 「のせのせせーの!」のワクワク感
- よく見ると繋がっている物語とキャラクター
増える左のページ、無くなる右のページ
この絵本のなによりおもしろいところは、右の絵の一部が、左の絵に合体する変化でしょう。
しかも合体するだけじゃなく、ちゃんと右の絵からは無くなるところもおもしろい。
焚火の火が無くなって、焼いた魚が生焼けになってしまったり、
リンゴの木から葉と実がなくなって、向こう側の海が見えるようになったり・・・。
左の絵が増え、右の絵では無くなるこの変化が、この絵本独自の物語を展開しているのです。
また、その変化に対する、絵の中のキャラクターの反応がおもしろいのも楽しいところ。
ベンチに座っていたカップルが、リンゴの葉と実が急になくなりびっくりしたり、
焚火で魚を焼いていた猟師が、火が消え魚が生焼けになりがっかりしたり、
周囲の人も急な変化に合わせて、驚いたり、しょんぼりしたりと、絵本に振り回されている感が妙にリアルで、その世界で本当に変化が起こっているのを感じられます。
だからこそ、その後の絵の変化にも、物語性と連続性を感じられるのでしょう。
ただ絵が変化するのではなく、絵の変化によって、物語世界にも変化が起こっているのを感じられるのが、この絵本のとても素敵なところです。
「のせのせせーの!」のワクワク感
こんな風に変化がおもしろい絵本ですが、絵の中のどこが変化するかはわかりません。
特に後半になるにつれ、絵の中に出てくるものが増えてきて、どれがどこに乗るのか予想がつかなくなってきます。
絵をよーく見て、予想する楽しさとワクワク感。
それを思いきり盛り上げてくれるのが「のせのせせーの!」という決まり文句です。
子どもが絵の内容を覚え、心の準備が出来た後に来る「のせのせせーの!」からのページめくりは、まさにテンションが一番上がる瞬間です。
この時の一体感がすごい。
子どもたち全員の視線が釘付けになり、ワクワク感が全身から伝わってくるのです。
そして、変化したページを見て「それか~」というスッキリ感と、「それ合体するの!?」という驚き。
これが楽しくないわけありません。
この普通に読んでもテンションが上がること間違いなしなのに、さらに「のせのせせーの!」の決まり文句でみんなで読む楽しさが倍増させてくれているのも、この絵本のとても楽しく素敵なところです。
よく見ると繋がっている物語とキャラクター
さて、ここまでの要素で十分におもしろいのに、さらに繰り返し読んでおもしろい要素がこの絵本にはあります。
それが、絵本全体を通じた、キャラクターや物語の繋がりです。
例えば、海の場面の背景に、小さく魚釣りをする漁師が描かれています。
でも、魚が釣れたのかはわかりません。
その漁師が別の場面では主役になり、大きな魚を焚火で焼いているのです。
さらに、火が消えてしまい生焼けになった魚が、別の場面で出てくる・・・。
など、どこかの背景だったキャラクターが別のページでメインになったり、キャラクターのその後が、後のページの背景をよく見るとわかったりするのです。
最初に読んだ時は、純粋にページの変化を楽しんでいた子どもたちも、繰り返し読む中でそんな繋がりに気付きます。
すると、ページを行ったり来たりして、「この子、最初の女の子じゃない!?」「これ、あのチョウチョだよ!」と、確認し始めるのです。
その中で、さらに別の発見をして・・・というように、繰り返し見るからこその楽しさを味わえます。
繰り返し見るほどに、絵本の中に流れている物語に気付き、おもしろさと深みを増していくのも、この絵本のとても素敵なところです。
二言まとめ
左の絵に、右の絵の一部が吸収されるという、ありそうでなかった絵の変化がおもしろい。
吸収されることによって、絵だけでなく、絵本の中の世界と物語も変化していくところがさらにおもしろい絵本です。
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